自分にできるのか。
ひょんなことから、コンサルを引き受けることになってしまった。
いずれ、自分は会社を作って医療系コンサルをしたいと思っていた。色々な人材、伝手、資格などの条件が揃ったら、満を持して開業する方向で考えていた。経営と経理、人事、営業、交渉という面でプロフェッショナルなクリニックはほとんどなく、個人商店をやっている店主さんの方が100倍まともだと思えるくらい、個人院の内情と言うのは無駄や非効率であふれている。
医師だって、志の高い医師もいれば、そうでもない医師もいる。そして、志の高い医師に限って、治療一番になってしまい、肝心な運営はザルだったりする。今後、診療報酬はますます減り、薬価差益も出ず、いずれクリニックはもうかるといった世間の幻想は崩れ落ちると言っても過言ではないと思う。僕の周りを見ても、クリニックの先生よりも、高収入のサラリーマンは多いし、個人の会社を経営している友達の収入は何倍も高い。世間が思うほど医師の稼ぎは多くない。
僕がコンサルになりたいと思ったのは、自分自身が経営者だったこと、成功も失敗も味わったこと、悲しい出来事が立て続けに起こったこと、つまらないクリニック経営が本当に多いことだったりする。
失敗と成功は置いておいて、悲しいことと言うのは、自分の子供に代が変わり、院長を任せて自分はようやくホッとできるという80代の先生たちの子供が急死するということが続いた。引退したばかりの老先生が子供を失うという悲しみを抱えながら、老体に鞭を売って再びクリニックに立つ姿を見たり、閉院するという話を聞いて、地域医療のためにも、先生を安心させるためにも、そこの地盤と看板を引き継いでくれる先生を見つけてM&Aするお手伝いをしたいと思った。子供に受け継ぐという道が閉ざされても、クリニックを誰かが継いでやってくれることは、安心と慰めにもなるのではないかと思う。
そして、志が高い先生がクリニック経営に悩まれていて、自分が専念したい治療に全力を注げないという悪循環を止めてあげたい。その結果、志の低い先生を淘汰したいというのもまた、自分の中の目的でもある。その純真な志以外のところに悩まされ、心身を壊す医師も多い気がする。
経理面では税理士、人事面では社労士、許認可登記関係では行政書士と司法書士が助けてはくれる。薬剤関係では、薬品メーカーや医薬品卸がサポートしてくれる。しかし、総合プロデュースと言うか、医師の思いを具現化する参謀のような役割の人はなかなかいない。医業と経営が独立している大きな病院ならしっかりとしているが、個人商店のような個人院ではなかなか難しい。
会ったことは無いけど、お互いに存在は知っている医師がおり、その関係者とお話をすることがあった。そこの先生のお悩みに自分なりのアドバイスをさせていただいたのだけど、関係者の方、その先生共々、僕の話に共感するとともに、近い将来、そこのクリニックの事務長をやって欲しいというお話を頂いた。まだお会いしたことも無い先生にそういう風に言ってもらえたことは光栄だと思ったが、自分としては小さな世界でじっとしていることは性に合わないし、こじんまりと金を稼ぐ気もさらさらない。とりあえず、お会いして友達になりましょう。そして、自分の出来る範囲で出来るだけ力になりますと伝えてもらった。
そんな医療業界に持っている思いを小説にしたのが、「ヒポクラテスの金庫番」という拙いお話なのだけど、本当にそのお話が現実になったかのような、まったく同じような場面に今、出会すことになった。
コンサル業を学んだことのない自分が何処まで出来るかは分からない。
でも、それほど怖さもない。自分で失敗は検証済みだ。
そして、自分がお手伝いする人は良いものを持っている。すべての職業の力の源は、「愛情」に違いない。そこの先生には、それが溢れるほど感じられる。その溢れてこぼれてしまう愛情を、上手にこぼさないように患者さんやスタッフに届けることが出来るだけで、道は開けていくのではないかと思う。厳しいことを言うのは、それが出来てからじゃないと始まらない。
独りよがりになってしまっている医師を、クリニックと言う海賊船のルフィーに仕立て上げていかなければならない。ひとりひとり、仲間を集めて(古いスタッフを仲間に引き上げて)、強力なチームを作り上げられたのなら、僕は次の海賊船へと旅立つことが出来る。
そして、多くの海賊船(志の高いクリニック)を互いにパートナーシップを組んでもらい、医師会という薄いまとまりよりも強固な地域医療を守る仕組みと、個人で頑張る先生達が安心できるような互助組織を作り上げたいというのが、今の大きな目標。
自分の思いが、この縁を引き寄せたのかどうかは分からない。
でも、自分がやりたかったことが舞い降りてきたというのは、チャンスに違いない。
患者さんの笑顔、そのご家族の笑顔、スタッフの笑顔、そして先生の笑顔。
その笑顔の大輪の花を咲かせられたら、僕も心の底から笑えるかもしれない。




