家族の気持ち
土曜日は久しぶりにものすごく忙しかった。
クリニックで、僕は渉外担当。出入りの業者さん相手がほとんどなので、平日は二階にいるから殆ど患者さんとは触れ合うことは無い。
基本的に、医薬品卸さんなどの業者さんは土曜日はお休みが多い。なので、週末は必然的に僕の仕事も暇なので、気分的にはいくぶん楽。
そんな感じで淹れたてのコーヒーを啜りながら二階の窓から駐車場を眺めてみた。
「あ、今日はヤバいかもなぁ。」
駐車場は満車の上、乗ったまま空きを待つ車が数台。ちょっと殺伐とした雰囲気を感じる。
急いで一階へ向かうと、クリニック内はお祭り状態。待合室は立って待つ人もいるくらいだし、裏口には発熱外来の検査を待つ車の列。とりあえずスタッフから車の鍵を借りて、みんなの車を奥までぎゅうぎゅうに詰め、発熱外来の車列を邪魔しないように、駐車待ちをしている人を職員駐車場へと誘導した。
緊急搬送の人や、検査で急な肺炎を起こしているのが見つかった人など、時間のかかる患者さんが多かったこともあり、すんなりと診察が進まず、多くの患者さんを待たせることになってしまった。
メインの看護師さんがお休みしていたのだけど、パートのベテラン看護師さん二人のニュータイプ的な嗅覚によって、もしかしたら今日は忙しいかもと出勤日じゃないところを出勤してくれていたので助かった。それでも大変な混雑だったため、ベテラン看護師さんでもヒヤリハットすることもあったが、何とか事なきを得た。お互いにダブルチェックすることで問題を防げたので助かった。
そんなこともあり、僕は看護師助手のような役割をしながら、独楽鼠のようにくるくると走り回る。おかげでその日の万歩計はクリニック内だけで一万歩を超えた。
そんな忙しい時にいらっしゃった患者さん親子。
お父様は高熱が出てしまい、呂律が回らず、ちょっとせん妄も入っているような感じ。点滴をしながらも動き回ってしまうため、目が離せない。と言ってもクリニックも忙しすぎるので、医師、看護師も見ていられない。なので、僕がいろんな場所に目を配りながら、何かあった時は指示を出す役目をしていた。
午前中からいらっしゃって、点滴が終わったのは午後4時くらい。
娘さんは付き添いで、ずっとご飯も食べていらっしゃらない御様子。お腹が空いていることだろう。僕らは忙しく働いているから時間があっという間に経つけれど、じっと待つというのは本当に時間が長く感じてしまうに違いない。
ちょっとお疲れの様子の娘さんは、僕と同じくらいのご年齢。
「あの、おやつ代わりにキットカット食べてください。」
そう言って、何かあった時のスタッフ労い用のキットカットを一つ渡した。
「あーっ、お腹空いてたんですよ!」
そうおっしゃられると、笑顔を見せてくれた。
親を心配する気持ちと、そこにつきっきりにならなければならない大変さは僕も分かる。僕自身も数年前に両親を亡くし、あの頃の気持ちはとても不安で、そして、とても重荷に感じ、その両方の思いを心に抱えてしまう自分に葛藤を覚えた。
点滴を終え、さっきよりは多少意識がはっきりしてきたお父様を連れ、娘さんが帰ってゆく。転んだら危ないので、看護師さんと僕が付き添い、駐車場まで見届ける。
日曜日を挟んで、月曜日の今日、どうなさっているかなと心配だった。院長である妻の見立てでは、どう転んでもおかしくないかもしれないとのことだった。
明けて、月曜日の午前。
今日も朝から忙しく、お休みをとるはずだったパートの看護師さんは、またまたニュータイプ的な嗅覚で出勤。ほら見たことかと予想があたり、今日も朝から忙しかった。月曜日の今日は自分の仕事もあるので、手の空いたところでクリニックを手伝っていた。
長椅子に座る親子の姿。
「あ、おはようございます!お父さん、日は大分元気そうですね!」
あんなにヨレヨレだったお父様は大分しゃっきりされていた。今日も点滴を受けるために点滴室へ。待合室で待つ娘さんに声を掛けた。
「この間はありがとうございました。先生も大分良いって言ってくれて。」
先日よりも明るい笑顔でそう仰られた。
高齢の患者さんの健康と言うものは、自然の摂理もあり、仕方の無いことがほとんどだと思う。だから、そのご家族の方の心配する気持ち、大変な思いに寄り添って、クリニックに来ている時間は少しでも安心感を与えられるようにしてあげたい。聞けば一人娘だそうで、他に頼れる方もいないとのことだった。義父の先代院長の頃から通院されているらしく、長年のお付き合いとのことだったのもあって、初めて話をする僕とも気さくにお話をしてくれた。
お父様との時間を大切にするためにも、娘さんの重荷を少しでも担いであげられるようにするためにも、僕らが出来ることは何だろうか?
「本当にありがとうございました。」
素敵な笑顔で今日はお帰りになられた。
何にも替えることのできない、あの素敵な笑顔を曇らせ無いよう僕達も尽力したい、そう思わされる出来事だった。




