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おにぎりを握る

土曜の午後、明日はお休み。



土曜日と言えば、僕の仕事は少し暇だったりする。医薬品卸さんや銀行さんなどは土曜日は基本的にお休みなので、対外的な仕事は必然的に少ない。だから、反対に込み合うクリニックをしり目に、ちょっとゆったり気分で私服のまま着替えなかったりもする。



仕事場に来てみると、駐車場はすでに満車。やはり、平日は仕事で来れない学生さんや社会人の方が来ることが多いので、どうしても込み合う。そして、土曜日は、平日よりも短い診察時間となるので、お昼休みは普段の半分。トイレに行ってちょっと何かを食べられたら上等と言った状態。



ということで、朝のコーヒーを淹れ終えた後、昼に簡単に食べられる食事を考え、今日は炊き込みご飯にすることにした。と言っても、炊き込みご飯の素を使うので、お米を研いで、素を入れ、スイッチ押したらやることはない。



十時半頃には炊き上がり、それをコーヒースケールで量り、100gのおにぎりに握っていく。ちゃんとラップに置いた状態で握るので、素手で触ることはない。身内に出すときは良いけど、誰にでも出せるようにラップの上から握るようにしている。



仕事場の炊飯器は二合半炊きなので、小さなおにぎりが8つほどが出来た。お昼の時間になると案の定、今日も5分休憩で午後の診察になってしまったため、奥さんは目玉焼きとソーセージ、それにさっき握った炊き込みご飯のおにぎりを食べて診察室に舞い戻っていった。



テーブルの上にはまだ6つのおにぎり。普段なら冷まして冷凍にするのだけど、今日はそのままにしておいた。



3時になると、早番のスタッフが帰宅していく。一番乗りは看護師さん。普段は、車で来ているのだけど、土曜日は旦那さんが車で迎えに来てくれる。駐車場を除いてみたら既に旦那さんは車で迎えに来ていた。



「お疲れ様でしたー!」



と帰っていく看護師さんを引き留め、



「これ、旦那さんと食べて。」



とおにぎりを二つ手渡す。



明日は日曜日で休みだという解放感もあって、



「わー!ありがとうございます!」



と言って持って行ってくれた。たとえ表面上だけでも喜んでくれたらそれでいい。そして、もし食べなかったとしても、何か貰った、気を使ってくれてると思ってもらえたら十分だと思う。



前の仕事場では、朝スタッフと顔を合わせて一番最初に話しすることは、みんなの両親や旦那さん奥さんの話。その人達の体調や状況をちゃんと知ることがいつもの申し送りだった。そして、そういうことを話しているということも伝えてもらっていて、スタッフの家族とは会ったことはなかったけど、会ったことが無いきがしないくらい通じていた気がする。



スタッフを大切にするのは当然だけど、その家族を大切に思うことがもっと大切だと、上司たちに教わった気がする。直接そんな言葉は聞かなかったが、仕事場に親が来た時には、



「○○君は良くやってくれて助かってますよ。」



なんてことは言わない。平身低頭、いつもの怖い上司とは思えないほど、丁寧な対応をしてくれた。飲み会の時には、彼女がいる人間は一度連れてきてくれと頼む。



「○○の彼女さんですか、よく来たね。」



などと、まるで興味本位で呼びつける人間もいるが、うちの上司は、



「○○君とお付き合いされてる方ですか。今日はお伝えしたいことがあって、この場に来ていただいてありがとうございます。」



という言葉から始まり、この業界は拘束時間も長く、彼女と遊ぶ時間が少ないかもしれないが、もしこの男と将来を少しでも考えてもらえるのなら、しっかりとした人間になるまで修行させて一人前にするよう約束するから、どうかご容赦願いたいと言って頭を下げてくれた。



スタッフだって、自分の家族を大切に思ってくれたら嬉しいだろうし、家族も仕事へ向かうスタッフの背中を押してくれると思う。うちの事は大丈夫だから、心配せずに仕事に行ってらっしゃいと言ってもらうためには、家族の方々にスタッフを大切にしているということと、家族の事も気にかけているということを伝えないといけないということなのだと思う。



「先生、うちの娘、ご迷惑かけていないですか?ちゃんとやれていますか?」



そうご家族からお電話を貰った時は、とても嬉しかったし、スタッフ家族が全員仲間だと思えた。



「お疲れ様、月曜日は人手が少ないから、何かあったら言ってね。」



家に帰る薬局担当のスタッフに、おにぎりを渡す。いつもは無表情で愛想のない彼女も、そんなときは驚きと優しい笑顔になる。ただ、それを出すのが人より少し苦手なだけ。それを出すきっかけを沢山僕が増やしてあげればいい。



大家族、夫婦だけ、両親と同居、いろんな形の家族がいる。僕のおにぎりが今夜の晩御飯の時の話題に少しでもなってくれれば、家族も職場の雰囲気が伝わると思う。



「主任の握るおにぎり、ちょっと小さめで可愛いね。これでお腹いっぱいになるの?」



何て看護師さんの旦那さんは言ったらしい。スタッフである奥さんを介して、僕と旦那さんは繋がったし、そのやり取りをする看護師さんとの会話も増える。おにぎりが、そんなコミュニケーションの一粒の種になる。



最後のスタッフを見送ったら、握ったおにぎりは全部無くなっていた。次は何のおにぎりを握ろうか?

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