生きるお金死んだお金
ケチである。
あえて声を大にして言おう!私はケチであると!
仕事柄もあるけども、でももって生まれた気質でもある気もする。どちらかと言えば、親父似なのかもしれない。親父は安いスナックや居酒屋が好きだったし、高い買い物はしない。親父のためにと思ってIWCの自動巻きの時計を買ってあげても、こっちのほうが良いよと代わりに買ったセイコーのチタン製の電波ソーラー腕時計を亡くなる瞬間まではめ続けていた。
僕は、スーパーに行けばグラムで一番お買い得のものを選ぶし、食材は高級じゃなくても料理の仕方でどうにでもなると思っているし、私服はユニクロ率が驚きの90%以上で、仕事の服に至ってはほぼ100%ユニクロだったりする。来客を招いて折衝することも多いけど、物品を運んだりなんだりと汚れたりすることも多いから、高価なスーツなど着てしまったら事あるごとに作業着に着替えだしてしまうのが目に見えている。
先日、ある料理研究家の方が、港区女子などという輩に払う金はねえ!と割り勘にしたという話があったが、そりゃ当たり前なことだと思う。見ず知らずの誰かに奢るなんて、何の効果も生み出さない死に金でしかない。僕も港区で何年か仕事をしていて、パーティーやクラブイベント、会食などに誘われていくことはあったが、そんな目にあったことは一度もなかった。
反対に、僕は奢られることの方が多く、一緒に食事に行ってくれたからと、ここは私に払わせてくださいと言ってきかない人ばかりだった。老若男女問わず、港区界隈に住んでいる人達は、そんな港区女子とかというような品のない輩など一人もおらず、そこでバリバリ働く人やお金持ちの人は、癖の強い人はいてもおかしい人は一人もいなかった。
僕が仕事をしていたところに来るクライアントさんの車はポルシェ、フェラーリ当たり前で、賃貸の物件に住んでいる人でも家賃月100万以上とかの方が多かった。他にもヨーロッパの大使や日本を代表する企業の社長、芸能人などがいたけど、皆おだやかでちゃんとした人ばかりだった。
多分、港区女子というのは、どこか違う地域から港区に足しげく通う港区の住人とは違う人種だと思う。そして、それを招く人間というのも、お金持ちの人だとしても成りあがって(成り上がりは良いことだと思うけど)お金の使い方を知らない人なんじゃないかと思う。僕の周りのお金持ちの人々は、誰かにお礼の気持ちだったり、何かのお返しのために物を贈ったり、どこかへ行ってご馳走してくれるといった、ごく普通の振る舞いの人ばかりで、変にお金をバリバリと振る舞うような人はおらず、かえってそういうところは堅実な方が多かった気がする。
ずっとお金持ちでいる人というのは、確かにそういった生きたお金の使い方が出来ないと続けられない事でもあると思う。一気にお金持ちになって、羽振りが良くなって、失敗していなくなってしまった人は沢山いるけど、もともとお金持ちの人が失敗して駄目になったケースというのは、とても少ない。
その当時出会った女性のクライアントさんの一人は、やはりとても良い所のおうちの方だったのだけど、知り合って数年後、結婚され、アメリカに住むことになった。忙しくされていたのだけど、ある年に一週間だけ帰国されるというときに、わざわざ自分の仕事場に来てくれた。急な話で僕としても何も贈るものも用意できなかったのだけど、帰り際、引き留めてとっさにその時久しぶりに読んで感銘を受けた「星の王子様」の文庫本を何故か手渡してお帰りになってもらった。
それから15年近くが経ち、連絡も10年以上もしていなかったのだけど、ひょんなことから連絡がつくことに。お互い忙しく、自分の事など忘れてしまっているだろうと思っていて連絡を取ることも無かったのだけど、その方は、今もあの「星の王子様」をいつでも手の届くところに置いてくださっているとの話を聞いて、本当に嬉しい気持ちになった。
たった数百円の文庫本でも、自分の気持ちをしっかりと大切に受け止めてくれる方もいれば、一夜に数万円もの食事を奢ってもらっても直ぐに忘れてしまう人もいる。
久しぶりに連絡がつき、お互いの状況をメールで確認した。
メールの最後に、
「もし誰にも頼ることの出来ないようなことがあったら、最後に僕が控えていることはお忘れにならないでください」
と締めた。多分、経済的にも社会的にも余裕のある方なのでそんなことにはなるはずもない。
その返信に、
「私が今一番欲しい言葉をいただけて、心がまるで陽だまりに包まれるように温かくなりました。」
と綴ってくれた。
僕は本当にその方に何かがあったら、全力で助けるだろうと思う。恋人でもなく、友達でもなく、ただのクライアントでもなく、ただただ、その方と自分という関係を築けた幸せは、何にも替えがたいものだと思う。そういうときのために、自分にできることを最大限出来るようにしておくために、価値以上のお金を使おうとしないのだろうと思う。
結婚した時に銀の写真立てや真っ白なお皿のセットをくれた方、御自分の舞台の千秋楽のフィナーレで壇上に上げて紹介してくれた方、うちのスタッフが問題に巻き込まれたときに全力で助けてくれた方、ご自身のブログで切々と僕と出会えて助けられた気持ちを書いてくれた方、僕の両親の訃報に触れて一緒に泣いてくれた医薬品卸さん、僕にとって一番いい選択肢を考えてくれる車屋さんやバイク屋さん…。
家族も含め、そんな自分の事を大切に考えてくれる人達に使うものこそ、本当に生きたお金なんじゃないか思う。
その人が本当に喜び、楽しみ、また、お返しをしたくなるようなことに使うから、お金は生きてくるんじゃないだろうか。




