気持ちを動かしてくれる人
いつものようにバイクで箱根を走っていた。
何もやることのない日は、箱根あたりを走ることにしている。もし、何か急用が出来たとしても、箱根ならすぐに戻ることも出来る。
そんな感じで走っていると違和感を感じる。よくよく見ると、メーター内のライトがついていない。前の車に近づいてみると、ヘッドライトも消えていることに気が付いた。以前もあったスイッチボックスの接点不良かなと簡単に考えていたのだけど、振り向いてみればブレーキランプもついていない。もしや、と思ってウインカーをつけてみたら、メーター内のインジケータはつくものの、点滅せずにつきっぱなしで、ウインカー本体は光もしなかった。
あ、これはエンジン停まったら二度とかからないやつだ…。古臭いキャブレターのバイクであることに感謝した。とりあえずはエンジンが回っている間は動いてくれるはず…。
しかし、ここはまだ峠の頂上あたりで、家までは15キロは離れている。プスンとエンジンが停まったら、レッカーを呼ぶ羽目になってしまう。やきもきやきもきしながらなんとか家の前まで持ってきて、ハイビームはつくかどうか試した瞬間エンジンストップ。そして、今日まで二度と電源は入らない状態に。
まあでも家まで戻れてよかったので、エストレヤにはとても感謝。よくよく帰ってきてくれました。リアブレーキランプとヒューズが切れていたので交換。しかし、電源入らず。バッテリーは満充電。左右のスイッチボックスのポイント清掃しても変わらず。キーシリンダーをいじくってみても変わらず。中国製の安物だけど、レギュレーターを交換してもうんともすんとも言ってくれない。
困ったな。どうすべきか。
以前世話になったうちの近くのバイク屋さんに持ち込むべきか…。
近くのバイク屋さんは腕もいいと評判だし、どこのバイクも見てくれる。そして安価。だからそこへ持ち込むのが良いのだけど…。ちょっと引っかかることは、以前パンクで引き上げに来てもらった時の事。
引き揚げ作業のときにちょっと話をしたのだけど、大型車を増車しようと相談したら、
「エストレヤは4万キロを超えてるんですね。この先あちこち壊れるから増車よりも、入れ替えのほうが良いかもなぁ。」
「ドゥカティのちょっと古いのが欲しいの?あれは直しては壊れ直しては壊れだから、やめたほうが良いよ。」
うん、わかる。その通り。僕の事を思って言ってくれているのも良くわかる。だから、悪い人だとは思わないんだけど…。
その時頭によぎったのは、このエストレヤを買ったお店の店主。
たまたま奥さんとそのバイク屋さんの近くに来た時、当時SRを買おうと思ってめぼしい車両があるお店を探していて、近くだからちょっと覗きに行きたいと思いふらっと立ち寄った。
ちょっとぶっきらぼうでサバサバした店主。どうぞ見て行ってと言ってくれたので、目当てのSRに跨らせてもらう。うーん、カラーもモデルも欲しいものだったのに、実際跨ってみたら、どうしてなのかわからないがピンとこなかった。
お店の中を色々と見せてもらっていたら、その中に青いタンクのエストレヤ。そういえばネットでもそのお店の在庫として載っていたのを思い出す。小さいかなと思っていたら、SRとあまり変わらない。
「こいつね、SRよりフォークは太くてがっちりしてるんだよね。」
へぇ、と思いながら跨っているとなんだかおかし気な気分に。
奥さんが、
「どうなの?いいなら買っちゃえば?」
店主も、
「この子、持って帰っちゃってくださいよ!」
そう言われた僕は、
「じゃあ、買うよ。」
と言ってしまった。奥さんも店主も驚いていたけど、一番驚いたのは言った自分自身だった。
手付を払ってその日は帰宅。納車整備が始まり、毎日のようにその過程を写真に撮って送ってきてくれた。そして、納車の日が近づいてきたある日、店主から電話。
「ごめんなさい。いろいろ試したんだけど、ちょっとフケが悪くてね。エンジン開けてオーバーホールするから2週間待ってて。」
そういうと、オーバーホールの様子もそれから毎日送ってくれた。完成して納車の日、メーターの距離は訪れた日から100キロ近くも増えていた。テスト走行に何度も出かけ、第三京浜を往復したとのことだった。
「待たせちゃってごめんなさい。その上オーバーホールしたから500キロは慣らし運転してね。」
そういうと真っ黒な手で眼鏡を直しながら笑っていた。こんな人なら信用がおける。僕はこの店主が好きだなぁ、そう思った。
家から70キロほど離れていたので、初回点検以来、あまり立ち寄ることはなく、2年に一回くらいしか顔を出していない。ブレーキパッドを交換しに行った時も、
「手先器用そうだから、交換しているところ見ててよ。遠いからね、教えるから覚えて行って。」
「へぇ、ドゥカティ欲しいの。面白そうだね、何かあったらディーラーに友達いるから教えてもらうよ!」
僕はその店主の心意気が好きだ。なんでも悪い面があるのはわかるけど、まずはその人の背中を押すまで行かなくても、そっと寄り添ってくれる人がいい。近所のバイク屋さんも悪い人ではないんだけど、僕の夢をちょっとくじかれたような気がして、どうも相性が良くない気もする。
エストレヤが不動になってしまったので、近所のバイク屋さんに電話するか、遠くのエストレヤを買ったバイク屋さんに電話をするか迷って、まずはエストレヤのお店の店主に電話をしてみた。
「あ、お久しぶり。インスタ見たよ。不動になったんでしょ。もう直しちゃったのかと思ってたけど、動かないんだ。そうか…。」
どうしたもんか悩んでいたところ、任意保険のレッカーで送ってくれてもいいし、引き取りに行ってもかまわないよと言ってくれた。僕も直すか売るか迷っているけど、もし売るならば、二束三文でも買ったお店の店主に戻したい。そう言ったら、ありがたい話ですと言ってくれた。
そして、処分するか直すかわからないけど、クロスカブ欲しいんだよねと言ったら、
「うちで買いたいっていうのはうれしいけど、いろいろ考えると近場で買ったほうが良いかもしれない。パンクしたりした時、今は買ったお店じゃないとみないってところ増えてるからね。」
という。
「うんうん、ごめんなさいね、こんなにお金にならない客なのにいろいろ話してくれて助かったよ。」
「いやこちらこそ。」
「じゃあ、もう一度考えて、また連絡させてもらいます。」
そう言って電話を切った。
ちょっと考えて、気持ちが決まった。
遠くてメンテが大変でも、あのお店で買おう。困ったらレッカーで送っちゃえばいいし、ちょっとしたメンテナンスはいつもお世話になっている2りんかんなら、混んでいるけど何でも見てくれる。そして、次期バイクもそこのお店で探してもらおう。
結局、「何を買おう」より、「誰から買おう」のほうが僕には重要な気がする。
それに、もしエストレヤを引き取ってもらうなら、信頼する人の手で、僕がどんなふうに、どんな気持ちで乗っていたのかわかってくれている人に引き取って欲しい。
暫くカブ主になるか、それとも直して二台持ちになるか、そして、もしかしたら、新しい車を入れて三台持ちになるかわからないけど、その時はやっぱり、あの店主から買いたい。
仕事柄、価格にはシビアで、どれくらい価格交渉して、どのくらいなら買おうかといろいろ考えていた僕が、あの店主なら言い値でいいかなと思っちゃうところが何とも不思議だ。
この人から買いたいという気持ちになれるのは、価格や腕だけじゃなく、何とも言えない楽しさを感じさせてくれる素直な人だからなのかもしれない。




