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未だ交渉中

忙しい。



仕事が忙しくてたまらない。



時間的拘束が長いわけではないんだけど、前にも書いたが、僕の仕事の大きな部分は交渉。



交渉とは、相手と自分とで話をしながら、色んな条件や状況、今後の展開などを話し合いながら、契約を妥結していく。色んな交渉があるけど、一番多いのが価格交渉。



前に書いたように、業者間で相見積もりを取ったり、それまで積み重ねた貸しや借りを自分の手札にして、相手と立ち回るのが仕事なのだけど、前回書いたように面白おかしく高みの見物ですすむものではなかったりする。



交渉するための手札を用意したとしても、それを使う自分が相手に効果的に使うためには、それなりに言葉に重みが無ければ何の意味も無かったりする。まずは聞く耳を持ってもらう必要がある。そのためには、価格交渉期間以外の毎日の付き合いの中で、信頼を得て、心を通わせなければならない。



昔電気屋さんで失敗したことがある。



「あっちの電気屋さんでは、もっと安かったよ!」

「じゃあそちらで買ってください。」



ごもっともである。安くしてでも売りたいのが電気屋さんの弱点なら、どうにかこっちの電気屋さんで買いたいのが買う側の弱点である。何の話もしないで、何のコミュニケーションもとらずにいきなり安くしろなんて、虫のいい話で、売る側だって売りたくないと思うことだってある。



なので、大体どの取引先の会社でも、営業担当さんなら家族構成、出身、趣味、誕生日などのパーソナルデータは当然に、悩み事を引き受けたり、こちらの悩み事を相談したりして、本音を引き出し、本音で語る。その人の心の揺れ方をしっかり表情から読み、本音にあとどのくらいオブラートがかかっているのかを読む。



取引先の担当者以外にも、支店長、コールセンターの人達、配送さん達など、そこにかかわる人達の名前は全員覚えるようにしている。それくらいして、ようやく取引先の中で、頭半分か一つ分くらいは飛び出すことが出来るような気がする。



そして、場を温めないといけない。あっちはこの位できそう、今年は頑張るって言ってる、このぐらいの値段が出そう、こちらの商品のシェアを奪いに来ている、などの話を絡めながら場を温めていかないと乗ってこない。みんな相見積もり取りますよとやってみても、みんなの気持ちが乗らなければ、みんながみんないい値段をつけないので、相見積もりが意味をなさなくなる。



そうやってみんながどのくらいの値段をつけるのかが分からない中で、出来るだけ安い値段を出してもらって、少しでも高い値段をつけると自分のシェアも奪われるという危機感を持ってもらう。



日々の営業担当者さんたちとの会話と、他の取引先より気さくで情報提供もしてもらえて、営業先回りが嫌な気持ちにならない場所づくりにすることを心掛け、ほっと心を許せる場所と思ってもらうと、こちらの気持ちも聞いてもらいやすいようになる。



何重にも重ねたコミュニケーションが、相手との関係性を強固にして、辛抱強い交渉を実現する。その関係性が薄ければ、先ほどの電気屋さんと同じで、すぐにあきらめられたり、利く耳を持ってもらえない。そのうえ、購入する量で値段は決まるのは当たり前なので、小規模な取引先にはあまり値段は出してもらえない。



だけど、大規模な取引先になると、どうしても上下の力関係も出来るし、人と人の会話というより、立場と立場の会話になりやすい。沢山購入する先の部長という人の言葉にちょっとしか購入できない先の主任の言葉は勝てない。とすれば、立場を脱ぎ捨てて、その人個人と僕個人の生きた会話の中から、相手の立場を超えた、その人の気持ちを引き出さなければならない。



「うちの会社としてはこの値段でしかだせません。」



というのと、



「僕はもっと価格出したいのですが、会社がウンと言ってくれないんです。」



という言葉の違いには、同じ値段が出せないという表現だけど、相手の会社の立ち位置にいる担当者と、相手の会社と僕との間に立つ担当者というくらいの距離間の違いが出る。相手の会社と僕の気持ちの狭間に立って、値段を出そうかどうしようかと悩む素振りだけでも見せてくれたら、自分の話に耳を傾けてくれたということになる。



ボランタリーチェーンというものがある。



いわゆる共同購入する会社で、そこに登録すれば共同で購入できるので、大規模の購入となり、価格は安くなる。そして、登録すると価格交渉は、ボランタリーチェーン会社が代行してくれるので、いちいち個人で交渉する必要が無い。だから、個人のお店などは、ボランタリーチェーンに登録してお金を払い、交渉を代行してもらっていることが多い。



ボランタリーチェン加盟店は、営業担当者とは変わらず顔を合わせるのだが、価格の交渉などは行わなくてもいい反面、そのやり取りで生まれる濃密な関係はつくられることはない。多分、表向きの挨拶や、簡単な世間話に終始するのではないだろうか。だからこそ、僕は個人で交渉を今こそやるべきだと思う。時間が無かったり、コミュニケーションが下手だったりするかもしれないだろう。しかし、ボランタリーチェーンの交渉代行が主流の今、個人でバチバチに交渉する人間の方が目立つし、営業担当者も濃密な交渉をしなければならず、否が応でも心と心のやり取りをしなければならないから、特別な取引先になりやすいのではないかと思う。



そこで逆張りという形で、人の心を揺さぶり、お互いに感動できるような瞬間を作り、仕事を離れても関係性が続くような人間関係を構築し、いろいろなところに沢山の人脈を作ることが自分の強みであり、いつか何かのときに役立てることの出来る財産になる気がする。たった数年でも、そんなことを繰り返しているうちに、人脈の数は大きく膨らんだし、自分からまだ知り合ってもいない人に声を掛けることが簡単になった。



今年は業者間の駆け引きが活発になり、価格競争も激化している。以前とは違って、売上よりも利益重視になったとはいえ、やはり物が売れなければ利益も出ないから、皆戦略的な価格を出してきてくれる。



腹を据えて、勝負に出てくる大手と、相手に合わせて段階的に落としてくる中堅。しかしながら、大手は先手先手でシェアを獲得してくるから、どうしても中堅にはいい商品が残らない。長年の付き合いはあるし、可哀想だが、担当さんを褒めつつ、会社の決定なら仕方ないと切り捨てていかなければ、自分のところが損をしなければならない。



今年は仕方ないし、この価格で契約するよと言って来年その分安くなるとは思えない。それよりは、今年取引量をグッと絞って、来年挽回しないといけないと思ってもらうほかは無い気がする。



そんな駆け引きを繰り返しているので、このごろはどうしても胃が痛くなり、心も荒む。



それでも売る方は利益を出すのだし、良いように踊らされたら経費がかさんで経営が悪化するのは自分達だということを忘れてはならない。



一年の山場。早くここを乗り切って、暑い夏を迎えたいと思う。




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