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一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第一章 ティルナヴィア編
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第7話 帝都を目指して(4)

 見張りの二人を庭の木に縛りつけ、飛鳥とエミリアは邸内に踏み込んだ。

 あれだけの爆発を起こしたのに邸内はしんと静まり返っている。

 飛鳥は警戒しながら辺りを見渡した。

 しかし、魔眼には何も映らない。

 少なくとも精霊使いはいないようだ。

 アクション映画のように、銃弾の雨に出迎えられるくらいは覚悟していたが、それもない。


「随分と静かだな」

「そうですね〜」


 エミリアは嫌味たっぷりに同意した。


「何だよ」

「自分の胸に聞いてみたら?」


 と、自身の平らな胸をペチペチと叩く。

 その音に何だか少し悲しくなってしまった。

 飛鳥の視線に気づいたのか、エミリアが噛みつかんばかりに吠える。


「可哀想なものを見るような目で見るなああああああああああああああああああああ!!」

「ちょ、大声を出すな」

「全部飛鳥のせいなんだけど!」


 エミリアは顔を真っ赤にし、そっぽを向いてしまった。

 彼女の態度に肩を落とす。

 確かに爆発を起こしたり、コンプレックスに感じている部分を見たり、良くない部分もあったのは認めよう。

 だが、正直面倒だなぁ、早くアーニャのところに帰りたいなぁなんて考えてしまった。

 どうしようか迷っていると、エミリアがチラリと飛鳥を見た。


「何か言うことないの?」

「ん?」

「な、に、か! 言うことはないの?」

「……わ、悪かったよ」

「本当に思ってる?」

「思ってるよ! すまない、この通りだ。もう勝手なことはしないから許してくれ」


 これ以上言い争いをしている時間はない。

 平身低頭、謝罪の言葉を口にする。

 エミリアはまだ不機嫌そうにしていたが、少しして『ふふんっ♪』と胸を張った。


「仕方ないな〜。特別に許してあげましょう♪ エミリアちゃんは心が広いからね♪」

「あ、あぁ……。ありがとう……」


 元はと言えばお前の準備不足が原因だろ。

 喉まで出かかった言葉を呑み込む。

 同じミスをするほど馬鹿ではない、つもりだ。

 すっかり機嫌が直ったのか、エミリアは近くの階段を指差した。


「じゃあ私は一階を探すから、飛鳥は二階ね。何かあったらこれで呼んで」


 エミリアがイヤリングを差し出す。

 受け取り、見つめると魔眼が反応した。

 通信用の精霊術が施されている。


「分かった、気をつけてな」

「にゃはは♪ 飛鳥もね♪」


 エミリアを見送り、飛鳥は二階へ上がった。

 部屋は六つ、やはり人の気配はない。

 端の部屋まで行き、ゆっくりとドアノブを回す。

 手入れされていないせいか、扉がぎいぎいと音を立てて開いた。


「うえっ」


 漂ってきたすえた臭いに顔をしかめ、ハンカチを鼻に当てる。


「汚ったね……」


 中に入り、飛鳥は溜め息混じりに呟いた。

 部屋にはベッドが三つ。

 シーツは洗濯された様子はなく、床には三人分の荷物とゴミが散らばっていた。

 それらをかき分け、身分証などがないのを確認し、部屋を出る。

 残り五つの扉を眺め、飛鳥はげんなりした。


「これ全部調べなきゃ……ダメだよなぁ……」


 他の部屋も多少の差はあれど似たような状況であった。

 二階だけで十八人分、門の前で吹っ飛ばした二人を差し引いて残りは十六人。

 一階がどうなっているか分からないが、それなりに人数はいるらしい。


 広範囲用の精霊術で一気に──はダメか。あいつがまたうるさいな。


 とりあえずエミリアと合流しようと階段に向かう途中で、突然魔眼が強力な炎のエレメントを捉えた。

 範囲や威力が数値化され、目の前に映し出される。

 それはエミリアのものであった。


「あいつ! 何やってんだ!?」


 炎が何本もの柱となり、二階の床を貫く。

 あっという間に延焼し、飛鳥は慌てて一階へ飛び降りた。

 揺らめく炎の中にエミリアの姿が見える。


「おい! お前何やってんだよ! このままじゃ全焼するぞ!」


 エミリアは飛鳥の言葉など聞いちゃいない。

 怒鳴り声をあげ、槍を振り回している。

 魔眼が槍に反応し、飛鳥は目を見張った。


 何だ、あの槍は……!?


 エレメントとは異なる力が付与されている。

 おまけに鉄色だった直槍は血のような真紅のコルセスカへと変化していた。


「誰が貧乳微少女精霊使いだああああああああああああああああああああ!!!」


 エミリアの大声に反応するように、炎が勢いを増していく。

 その中から男たちが転がり出てきた。


「そこまで言ってねぇだろ!? うわああああああああああ!?」

「熱つつつつつ! や、やめろおおおおおおおおおお!」

「誰か助けて──何だお前!? あいつの仲間か!? だったら頼む! あいつを止めてくれええええええええええ!!」

「飛鳥、そいつらを渡して……!!」


 槍を引きずりながら、エミリアが近づいてくる。

 男たちは飛鳥の背中に隠れてしまった。

 これではどちらがテロリストか分からない。


「なぁ、ちょっと落ち着こう。政府が絡んでて、死人が出たらまずいんだろ? こいつらにはもう抵抗する意思はない、話をしよう」

「大丈夫、私は落ち着いてるよ……」


 そう言って、エミリアは微笑んだ。

 しかし、目が笑っていない。


「それに首謀者さえ捕まえちゃえば後はどうにでもなるから」

「おい、言ってることが変わってるぞ」


 するとエミリアは槍を床に突き立てた。


「二十三歳天才美人精霊槍士エミリアちゃんを馬鹿にした罪は重いのです」

「だからって……え? 二十三歳!? 十三歳じゃなくてか!?」


 思わず第一印象が口をついて出てしまい、エミリアの炎が再び荒れ狂う。


「ああ!? お前も同じ目に遭わせてやろうか!?」

「いや、ごめん、嘘! 今のは嘘! 全然そんなこと思ってないから!」

「あ〜す〜か〜……!」


 炎が生き物のように体をくねらせながら飛鳥を取り囲む。

 そこへ剣や銃を持った男たちが二十人ばかり現れた。

 エミリアが一番奥にいる金髪の男を指差す。


「あ、ブルーノ・ヴェステンベルク。良かった〜まだ逃げてなかった〜」

「俺を呼び捨てとはいい度胸だな。お前ら何者だ? 憲兵には見えないが」


 ブルーノと呼ばれた男が偉そうな態度で尋ねてきた。

 飛鳥はエミリアに視線をやりながら答える。


「そっちの女は軍人、俺は巻き込まれた哀れな旅行者だ。てか何で逃げてないんだ、お前ら馬鹿か?」

「飛鳥! あんたどっちの味方なの?!」

「おい! この俺に向かって馬鹿だと!?」


 二人が揃ってまくし立てる。

 ブルーノは悪態をつきながら続けた。


「俺たちはこれから国を相手にするんだ、お前みたいな陰気臭いやつにビビると思ってんのか?!」


 飛鳥の頬がピクリと動く。


「軍人だろうが知ったことか! よし、お前ら、あいつらをぶっ殺せ!」

「任せてください! ブルーノさん!」


 集団の中から一際体の大きな男が二人進み出た。

 狼の耳と尻尾が付いている。


「獣人……」


 アーニャから道中聞いた話だと、ティルナヴィアには大きく分けて人間と獣人の二種族が存在している。

 人間はそのまま、自分やエミリアと同じだ。

 対して獣人は人間よりも優れた肉体と強力なエレメントを有している。

 精霊術は人間と獣人との戦力差を埋める為に開発されたものだそうだ。

 そして、この種族差がロマノー帝国とスヴェリエ王国が対立する原因となっている。

 帝国は人間と獣人が共存している国だ。

 実力主義を掲げ、種族、出自に関係なく、能力がある者であれば成功を収められる。

 対して王国は人間至上主義で、獣人は差別の対象だ。

 この戦争も王国人が獣人の子供を殺害したことから始まったらしい。


「覚悟しろよ! チビ人間!」


 狼男が巨大なハンマーを勢いよく振り下ろす。

 だが、雷を纏ったレーヴァテインがそれを何なく砕き、肉体を穿った。

 一瞬で傷口が焼け、血の一滴も出さぬまま狼男は気を失った。

 もう一人の方からは大きな悲鳴が。


「ぎゃあああああ!? やめっ……水っ! 誰か水をくれ! 消してくれえええええ!!」


 エミリアの足元では狼男が火だるまになり、のたうち回っている。


「つっよ……」


 誰かが呟いた。

 ブルーノが真っ青になりながらも飛鳥に銃を向ける。

 飛鳥は静かに問いかけた。


「お前、そいつを持つ意味を分かってやってるんだよな?」

「は? 意味だと?」

「銃はヒトを殺す為の道具だ。それを向けるってことは、同じ目に遭わされても文句は言えないぞ」


 集団の間を一気に駆け抜け、ブルーノの銃を真っ二つにする。

 目にも留まらぬ速さに、男たちは唖然とした。

 ブルーノが額に汗を浮かべながら叫ぶ。


「お、お前っ、俺が誰か知らないのか!? 俺はヴェステンベルク家の長男だ! 俺に手を出したらただじゃ済まないぞ!」


 飛鳥は少し考える素振りを見せた後、『知らん』と切り捨てた。

 エミリアも鼻で笑う。


「残念でした〜。そのヴェステンベルク公が内密に処理してほしいって陛下に泣きついてきちゃったんだよね〜」

「お、お爺様が!? そんな……」


 ブルーノが膝から崩れ落ちる。

 それが決着の合図となり、他の者も次々と投降の意思を見せ始めた。


「終わったな」

「だね。手伝ってくれてありがと♪ はい、これホテルの場所♪」


 エミリアは一枚の紙を差し出した。


「後は私がやっとくから飛鳥はもう行っていいよ♪ もし帝都でも会ったらよろしくね♪」


 と、ウインクしてみせる。


 できれば会いたくないけど、また怒らせたら面倒だなぁ……。


 飛鳥は頷き、その場を後にした。

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