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一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第一章 ティルナヴィア編
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第6話 帝都を目指して(3)

 会計を済ませ、店の前で待つこと数十分、エミリアが戻ってきた。

 先ほどまでの緊張感はどこへやら、友人との待ち合わせにでも来たかのように手を振って見せる。

 おまけに何が嬉しいのかニヤニヤと笑みまで浮かべている始末だ。

 飛鳥はあえて冷たい視線を向けた。


「何がそんなに面白いだ?」

「え〜? だってアーニャったら心配そうな顔で何度も何度も飛鳥くんをお願いしますって言うんだもん♪ 愛されてるね〜♪」


 そう言って飛鳥の脇腹をつつく。


「……」

「あれあれ〜? 嬉しくないの〜?」


 飛鳥が黙り込んでいると、エミリアがからかうように顔を覗き込んできた。

 ここでリアクションをしたら負けな気がする。

 それと同時に別の感情が湧き上がり、飛鳥は顔を背けた。

 エミリアは追撃と言わんばかりに質問を続ける。


「飛鳥ってあまりモテるようには見えないけど、どうやってアーニャを落としたの? てかどこで知り合ったの? ねぇねぇ、教えてよ〜♪」

「お前めちゃくちゃ失礼なやつだな……」


 飛鳥の瞳は冷たいままだ。


 心配されて嬉しいかなんて聞かれるまでもない。

 もちろん嬉しいに決まっている。

 でも、アーニャが心配してくれるのは、自分が『救世の英雄』だからだ。

 この世界を救うには英雄が必要不可欠だから心配してくれているだけだ。

 異性として好意を持たれている訳じゃない。


 でも、だからこそ……。


「振り向いてもらえるように頑張らないとな……」

「え? 何か言った?」

「何でもない。それより仕事の内容は? 今更だけど、犯罪の手伝いをする気はないぞ」


 それが癪に障ったのか、エミリアはムッと頰を膨らませた。


「そんな訳ないでしょ! 私は国を守る軍人だよ? 手伝ってほしいのはね、不穏分子の捕獲なの」

「不穏分子?」

「そっ、国民全員が戦争に賛成してる訳じゃないからね。まぁ言葉で批判するだけならいくらでもどうぞって感じだけど、実力行使で市民に被害が出たら最悪でしょ? で、事が起こる前にアジトに乗り込んで捕獲しろって命令が出たって訳。分かった?」

「あぁ」


 仕事の内容自体は何の問題もない。

 だが、エミリアの話には引っかかる部分があった。


「分かったけど、それなら何でお前一人なんだ? そういうのは部隊で動くべきだろ」

「ん〜……それはそうなんだけど〜……」


 どうにも歯切れが悪い。

 エミリア自身納得していないのか、腕を組み唇を尖らせた。


「この街にも軍が駐留してるだろ? そこから人を貸してもらおう」

「あ、それはダメ。ま〜アレだよ。この天才美人精霊槍士のエミリアちゃんなら一人で十分みたいな? 私ってばデキる女だからね♪」


 エミリアはそう言い、ニッと笑って見せる。

 コロコロと表情が変わるやつだ。


「それに政府側の意向もあるしね〜」

「何だ、なら俺の助けはいらないな。宿の場所を教えてくれ」

「はぁ!? 飛鳥ってアーニャ以外全員にそういう態度なの? 裏表がある男って最低〜」

「違う、アーニャ以外に興味がないだけだ」

「はいはいそうですね〜。ごちそうさまでした〜」


 エミリアの表情がツンと拗ねたように変わる。


「とにかく、ここまで話したし宿も手配したんだから最後まで手伝ってもらうからね」


 飛鳥の返事を待たず、エミリアは歩き出した。


 それから歩くこと一時間──。

 二人は街外れへとやってきた。

 手入れされていない古びた家が建ち並んでいる。

 とうに街の喧騒からは離れ、辺りに人の気配はない。


「ここは旧市街地なの。再開発計画もあるらしいんだけど、戦時中だからね〜」

「へぇ。テロリストが潜むには絶好の場所だな」

「テロ……? とりあえずついて来て」


 エミリアに促され、路地へ入る。

 石畳はところどころひび割れ、屋根壁がボロボロになっている家も少なくない。

 その中を二人は音を立てないよう、慎重に進んでいった。

 しばらく歩き、路地の出口が見えると、エミリアが手で合図した。

 彼女が指さした方へ目をやると、男が二人、屋敷の門の前でうろうろしている。


「分かりやすくてありがたいことだな」

「だよね〜。ここが潜伏先ですよ〜って言ってるようなものだよ」

「ところで、ちょっといいか?」

「なぁに?」

「あの家の見取り図はあるか?」

「へっ? 見取り図? そんなのないよ、アジトを探すとこからだったもん」


 当然のように答えるエミリアに、飛鳥は顔をしかめた。

 そんな調子で捕まえられると思っているのだろうか。

 念の為、飛鳥は他にも気になっていることを質問した。


「……じゃあ、相手は何人だ? 素人か? それとも元軍人とか傭兵か? 精霊使いはいるのか? いるならどの程度の遣い手だ? それと、首謀者の人相は?」


 矢継ぎ早な質問にエミリアは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を見せた。

 どうやら何も考えていなかったらしい。

 飛鳥の眉間のシワが深くなっていく。

 エミリアを見つめていると、段々と泣きそうな表情へと変わっていった。


「何で来るまでに言ってくれなかったの!? 飛鳥のバカ!」


 飛鳥がエミリアの口を塞ぐ。


「大声を出すな、それとバカって言うな。そこまで考えなしだとは思わないだろ。で、どうするんだ?」

「え〜と……え〜っとね〜……」


 『頭を抱える』という表現があるが、ここまで見事に当てはまる光景も珍しい。

 エミリアは髪の毛をかきむしりながら必死に考え込んでいる。

 飛鳥は痺れを切らし、立ち上がった。


「飛鳥……?」


 エミリアが様子を窺うように顔を上げる。


「俺があの二人を引きつけるから、お前は裏に回れ」


 それだけ告げ、飛鳥は路地から出た。


「何だお前は!」


 門の前にいた男たちが怒鳴る。

 足を止め右手に力を込めると、手の中に小さな雷球が現れた。


「お前、精霊使いか!」


 男たちの表情が焦りに歪む。

 しかし、それを無視し、飛鳥は左手でエミリアに合図を送った。

 エミリアが頷き、路地から飛び出る。

 その直後であった。


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!?」


 巨大な爆発音と男たちの悲鳴。

 門は跡形もなく消し飛び、立ち昇る煙と炎の中で飛鳥は服についた埃を払った。

 エミリアが急ブレーキをかけ、猛スピードで飛鳥へ駆け寄る。


「何やってんだお前はああああああああああああああああああああ!!」

「お前こそ何をしてる。裏へ回れって言っただろ」

「何でそんなに冷静なの!? 怖いんだけど! 引きつけるにしても限度があるでしょ!? てか死んでないよね? 死人はまずいからね本当!?」


 そんなこと言ってなかったのに……。


 ここにきての制限に、飛鳥は口をへの字に曲げた。


「それならそうと先に言ってくれ」

「普通はそうするの!! 死んじゃったら聴取もできないし、政府が絡んでるって言ったでしょ!? も〜!! 私も一緒に行く!! 飛鳥だけじゃ色々心配だよ!!」

「首謀者が見張りなんてする筈ないから心配するな。あの二人は末端だろ、どうなろうと問題はない」

「悪魔かお前は!? アーニャはこんなやつのどこが良いんだろう……」

「……とにかく行こう。逃げられたらまずいだろ」

「そうなったら飛鳥のせいだからね!!」


 エミリアが槍を手に持ち、走り出す。

 色々言いたいことはあるが飲み込み、飛鳥も後を追った。

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