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一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第二章 イストロス編
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第46話 レーギャルン

 飛鳥は鍵を開けるように十字架を回した。

 音はしないが、何かが開いた感触が腕に伝わってくる。

 直後、ボーンナイトの一体が勢いよく地面に叩き付けられた。

 頭蓋骨が竹を割ったかのように真っ二つになり、身に纏うボロ布を焼いた炎が広がっていく。

 ボーンナイトを撃ったのは一筋の雷撃であった。

 更に放電現象が起こり、一体、もう一体と倒れていく。

 あっという間に半数以上が粉々に砕かれ、残骸を撒き散らした。

 それでもボーンナイトは足を止めない。

 意思を持たないということは、死を恐れないということだ。

 通常であればそれだけでも十分な脅威だろう。

 だが、飛鳥は落ち着いた声で新たな力の名を呼んだ。


「行くぞ、レーギャルン」


 十字架の先端が雷を帯び、剣身が生み出される。

 横薙ぎに振るい、残ったボーンナイトを一撃で葬った。

 つい先ほどまで穏やかだった草原はその顔色を変え、彼らの残骸で埋め尽くされた。

 紫色の空に炎が映るが、コントラストなんて綺麗なものじゃない。

 それはまるで世界の終わりを見せられているような、心が締め付けられる光景であった。


「あんた、その力は何なの!? こんなのあり得ないんだけど!?」


 ペルラが空中で軌道を変え、飛鳥に迫る。

 しかし、飛鳥は彼女のことなど見ていない。


「無視すんなし!」


 弾丸のような速度で放たれたペルラの拳をレーギャルンが弾いた。


「いった〜〜〜〜〜!」


 拳を摩りながらペルラが飛鳥を睨み付ける。

 そこでようやく飛鳥は彼女へ視線を移した。


「あんたさぁ、調子に乗んなっての!!」


 より鋭い拳打を放つペルラであったが、次の瞬間地面に激突し、右腕を押さえた。


「う、腕!! 私の腕がぁ!!」


 肘から先を切り飛ばされた彼女の腕は一瞬で灰となり、傷口も焼け焦げ血の一滴も垂れてこない。

 ペルラの悲鳴が響き渡った。


「恨むならメテルニムスを恨むんだな」

「へ…………?」

「あいつが俺たちと戦っていればお前が死ぬことはなかった。王とは先頭に立って民を守る者だ。あいつは間違えたんだ」


 レーギャルンの輝きが増すのを目の当たりにし、ペルラは必死に足をばたつかせ後退った。


「ちょっ! ちょっと待って! さっき言ったの謝るから!」


 だが、飛鳥は応えない。

 表情には怒りも哀れみもなく、あくまで落ち着いたもので。

 戦闘を終わらせようと、ペルラにレーギャルンを突き付けた。

 代わりに応えるように幕電で背後の空が光る。


「お、お願い! やめて! そ、そうだ! 私があんたの下僕になったげる! いっぱいいいことしたげるから! いつでも好きな時に私の体使っていいし! ご、ご主人様って呼ぶし! 絶対裏切ったりしないし! 何なら、今ここで──」


 ペルラが残った左手で飛鳥のズボンのベルトを外そうと引っ張る。

 しかし、蹴り飛ばされ、大粒の涙をぼろぼろと零しながら叫んだ。


「や、やだ……! やめて……やめてよ!! せっかく復活できたのに! 前より強くなったのに! 嫌……やだぁ!!」


 逃げようとペルラが翼を広げるが、ジュッと音がしたかと思うと辺りにプラスチックの焼けたような臭いが漂い始めた。

 再びペルラが悲鳴を上げるが、それも数瞬のこと。

 彼女がいた場所には黒い灰が積もっていた。

 その光景と僅かに残る臭いに、アーニャが思わず鼻と口を覆う。

 そうしていると、レーギャルンが輝きを失い、飛鳥も地面に崩れ落ちた。


「飛鳥……くん……」


 アーニャがゆっくり一歩ずつ飛鳥に近付いていく。


「アーニャ。怪我は……」


 彼女の声に振り向くが、飛鳥はすぐに目を逸らした。

 呼吸が浅くなり、全身が震える。

 決意が揺らぎそうになり、自分が分からなくなってしまった。

 何故なら、アーニャの顔が恐怖に染まっていて。

 しかもそれはメテルニムスやペルラではなく、自分に向けられたもので。


「どうしたの……? 飛鳥くん……」


 アーニャが問いかける。

 どうやら彼女は自身の表情に気付いていないようだ。


「アーニャ、ごめん……。僕は……」


 呟き、飛鳥は泣くまいと唇を噛み締めた。


「僕は……アーニャを、守りたいだけなんだ……」

「えっ……?」

「君を怖がらせるつもりなんてなかった……。ごめん……。本当に、ごめん……」

「あ……」


 アーニャが自身の顔に触れる。

 そして、彼女はティルナヴィアに降り立った時と同じ質問を口にした。


「飛鳥くん。本当に……怖く、ないの……? その武器……レーギャルンって、どうして分かったの……? 『神ま』もないし、また『精霊眼(アニマ・アウラ)』で視たの……?」


 飛鳥が首を振り、前髪を持ち上げる。

 右目が黒く戻っているのを見て、アーニャは絶句した。


「『精霊眼(アニマ・アウラ)』が……!」

「それだけじゃないんだ。最初は雷撃も使えなくて……。もしかしたら、アーク自体使えなくなってるのかも……」

「じゃあ尚更だよ……! 何で……!?」

「声が、聞こえたんだ……」

「声……?」

「その声が、レーギャルンのことを教えてくれた……。僕の力だと……。僕は、こういう存在なんだって……」


 自身に起きたことを全て話し、飛鳥は俯いた。

 そんなことないと、アーニャは思う。

 彼はそんな人じゃないと。

 しかし、それだけでは駄目だ。

 それだけではあまりにも不誠実だ。

 アーニャが一度深呼吸する。


「私は、これ以上飛鳥くんに嘘をついたり、隠し事はしたくない……」


 飛鳥の返事を待たず、彼女は続けた。


「ニーラペルシ様から話を聞いた時、安心したの。飛鳥くんが迷いなく戦えるのはメテルニムスの魂のせいだって思ったから。でも、そうじゃなかった……。魂を奪われても、飛鳥くんは戦って……。ごめんなさい……。飛鳥くんはこんな私を大切に想ってくれてるのに……。私は、あなたを怖いと思ってしまった……。本当に、ごめんなさい……」


 飛鳥は何も言わない。何も言えない。

 アーニャにそこまで言わせるようなことをしたのだから。

 彼女を傷付けてしまったのだから。

 そんな二人の気持ちに反して、空は到着した時と同じ澄み渡る青色を取り戻していた。

 しばらくの沈黙の後、アーニャは恐る恐る手を差し出した。


「とりあえず、ここを離れよう……。休める場所を、探さないと……」

「うん……」


 だが、飛鳥は握り返すことができなかった。

 ふらふらと立ち上がり、無言のまま草原を歩き始めた。

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