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一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第二章 イストロス編
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第45話 鍵

 ニマニマと笑みを浮かべるペルラに対し、アーニャは立ち上がり剣を抜いた。


「あなたは……!」

「久しぶりじゃんアニヤっち〜! また会えるなんて泣いちゃうかも! 嘘泣きだけど☆」


 言葉遣いや態度はおちゃらけているが、ペルラの放つ殺気は本物だ。

 だが、アーニャは真剣な表情のまま尋ねた。


「どなたでしたっけ……?!」

「はぁ!? そういうやり取りいらないんだけど!?」


 途端にペルラの眉が思いっきり吊り上がる。


「……え? マジで覚えてない系女子なのアニヤっち?」

「す、すみません……」


 こちらが謝る必要はこれっぽっちも無いのだが、彼女の勢いに負けアーニャは素直に謝罪の言葉を口にした。

 何かを期待していたのかペルラががっくりと肩を落とす。


「……じゃー改めて! 私はサキュバスのペルラ! ま、前にあんたらが来た時は……負けた、っていうか……。と、とにかく今回は負けないし! パワーアップした私の力にひれ伏しなってね☆」


 ペルラが目元でVサインを作るが、アーニャはまだ思い出そうと唸っていた。そして、


「あっ! あなたは私たちが初めて訪れた町でステラちゃんに一撃で倒された夢魔! 確かに倒した筈なのに……!?」


 と、驚きを見せる。

 アーニャの反応に、ペルラは今度こそ泣きそうな顔で叫んだ。


「そんな全部説明しなくていいんだけど!? メテルニムス様が復活したんだから私たちが復活するのも当然っしょ!」

「じゃあ、四大悪魔も……!?」


 アーニャが苦悶に満ちた表情を浮かべる。

 それを見たペルラはまるで自分の手柄かのように胸を張った。

 喋り方とか見た目とか、何かやり辛いタイプだな。

 飛鳥がそんなことを考えていると、ペルラの顔が邪悪な笑みに染まった。


「あ〜そうだけど、そっち気にする必要なくない? アニヤっちたちはここで終わりなんだから! 骨ども! あの英雄を血祭りにしちゃいな!」


 ペルラの号令でボーンナイトたちが一斉に飛鳥に向かって走り出した。


「えっ!? 俺だけ!?」


 狼狽える飛鳥に、ペルラが高らかに笑う。


「あれあれ〜? もしかしてぇ、私に飼ってもらえるって思っちゃった? 食料として気持ちいいことしてもらえるとか思っちゃった? 引くわ〜! こっちにも選ぶ権利があるっていうか? あんたみたいな弱そうで童貞くさいやつとかあり得ないんだけど!」

「この……!」


 飛鳥は唇を噛み締め、彼女を睨んだ。


 そうだけど、面と向かって言われるとムカつくな!


 しかし、未だこの状況を打破する術は見つかっていない。

 メテルニムスがいなくなったとは言え、ボーンナイトの数はおよそ百。

 対してこちらの武器はアーニャの剣だけだ。

 すると、アーニャが飛鳥の前に立ち、剣を振り抜いた。


「光よ!」


 放たれた光が巨大な弧を描き、ボーンナイトたちへ襲いかかる。

 その一撃で先頭にいた十数体があっさりと消滅してしまった。


「す、すごい……!」

「安心して飛鳥くん! やっぱり私の能力は前と同じみたいだから!」


 唸る飛鳥に背を向けたままアーニャが告げる。

 次の攻撃を放とうと剣を振り被るが、ペルラが翼を広げ向かってきた。


「はーいそこまで! アニヤっちには借りを返さないとだし? 顔はいいから死ぬまで私が可愛がったげる!」


 彼女の拳を受け止め、アーニャが顔をしかめる。


「この力は……!?」

「さっきも言ったっしょ! メテルニムス様も四大様もあんたらが知ってる私たちじゃないってこと!」

「そんな……! でも!」


 アーニャは力を込めペルラの拳を押し返した。

 そこへ飛鳥の悲鳴が響く。


「飛鳥くん! ここは私に任せて逃げて!」

「んなことさせないし!」


 ペルラは目にも留まらぬ速さで空中を駆けると、再び拳を振るった。


「そこをどいて!」

「どく訳ないっしょ!」


 一方、飛鳥はアーニャに言われた通り走り出した。

 ボーンナイトの群れが追いかけてくるが、足はそこまで速くないらしい。

 とは言え、この数だ。

 囲まれたらすぐに殺されてしまうだろう。


「それなら!」


 ある程度距離が開いたところで飛鳥は振り向いた。

 雷撃で対抗しようと手をかざす。


「…………は?」


 だが、何も起こらない。

 飛鳥はもう一度手をかざした。

 やはり何も起こらない。

 雷撃はおろか微弱な電流すら出てこない。


「な、何で!?」


 手を見つめてみたり、ぶんぶん振ってみても、雷撃のらの字も出てこない。

 パニックになりそうなのを抑えつつ、思考を巡らせる。

 一瞬ニーラペルシの顔が浮かぶが、その考えはすぐに捨てた。

 これ以上意地悪をしても彼女にメリットはない。

 ならば、アーニャが『神ま』を読めなくなったのと同様に、自分にも変化があったと言うことなのか。

 ハッとし、飛鳥はアーニャとペルラに視線を移した。


 『精霊眼(アニマ・アウラ)』が、使えない……!?


 メテルニムスから何も読み取れなかったのは、彼女が放っていたのがただの威圧感だからだと思っていたが。

 魂の欠片を奪われた後メテルニムスが発した黒いオーラもアーニャの光もエレメントと同じ超常的な力の筈だ。

 情報が読み取れなければおかしい。

 アークは対象の世界に合わせて変化するとアーニャは言っていた。

 なのに、何も起こらないと言うことは──。


「アークが、使えなくなってる……? ッ!」


 気配を感じ、飛鳥は飛び退いた。


「うわあああああ!? 危なっ!?」


 ボーンナイトの剣が飛鳥の肩を掠め、地面を叩く。

 それを抜くのにモタついているのを見て、飛鳥はボーンナイトを蹴り飛ばした。

 すぐ後ろにいた数体にぶつかりドミノ倒しに倒れるがそれだけ。

 残りは倒れている仲間など気にせず距離を詰めてくる。


「くそっ!」


 飛鳥は再び走り出した。

 アークが使えない、レーヴァテインも手元にない。

 これでは足手まといだ。

 あんな啖呵を切ったのに、これではアーニャを危険に曝しただけだ。

 無力感に襲われ、足が止まりそうになる。

 でも、諦めたくない。

 アーニャの神格を取り戻して、また一緒に旅をするんだ。

 ここで終わりたくない、終わる訳にはいかない。


「何でもいい! 何かないのかよ!」


 その時だった。


『開けろ──』

「!?」


 頭の中に地鳴りのように低く不明瞭な声が響く。


『鍵を開けろ。全てを破壊しろ──』

「何だ、これ……!?」

『破壊しろ、受け入れろ。それがお前という存在だ』


 浮かび上がる光景に飛鳥は吐き気を覚えた。

 『精霊眼(アニマ・アウラ)』とは異なる、だが、脳に直接情報が書き込まれる感覚に立ち止まる。

 荒れ果てた大地と死体の山、それを感情の無い瞳で見つめる男が一人。

 そして、世界は──。


「ま、待てよ……。開けろって言われても、鍵なんてどこにも……」


 誤魔化すことはできない。

 情報は既に脳に深く刻み込まれている。

 声が笑う。


『受け入れろ。あれがお前だ。俺と共に為すべき使命だ』


 あれが俺……? 違う、違う違う違う! 俺は、アーニャと一緒にいたいだけだ! その為に……! ──いや、その為なら、何だって……!


 声が笑う。

 全てを見透かしたかのように笑い続けている。

 飛鳥は思いっきり歯を食いしばった後、大きく息を吐いた。


「黙っててくれないか?」

『む……?』

「俺が戦うのはアーニャの為だ。お前は黙ってろ」


 十字架のネックレスを引き千切る。

 すると、十字架がちょうどレーヴァテインの柄と同じ大きさに変化した。

 声が満足げに笑う。


『今はそれでいい。では始めようか、鍵は──』

「あぁ、そうだな。鍵は──」


 飛鳥は十字架を鍵穴に挿し込むように突き出した。


『お前自身だ』

「俺自身だ」

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