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一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第二章 イストロス編
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第44話 復活(2)

 呆然としているアーニャの隣で、飛鳥は逃げようと全身に力を込めた。


 あれがステラ・アンシャール──魔王メテルニムスか! どうしてやつは俺たちの出現ポイントが分かったんだ……!? いや、それよりもこの状況はまずい、今までで一番まずい。こっちはまだアーニャの能力すら分かってないんだ! それに──。


 飛鳥は震える己の腕を掴んだ。


 この感覚はエレメントとか超常的な力じゃない。もっと単純なもの──威圧感だ。俺もアーニャも今の状態ではやつに勝てない。何としてでも逃げないと……!


「どうして……!?」

「ん?」

「どうして、私たちの居場所を……」

「自分たちの命よりもそんなことを考えていたのか。相変わらず間抜けな女だ」


 メテルニムスの表情は変わらない。

 恐ろしく冷たい光を宿したまま、その瞳を飛鳥に向けた。


「この世界は私のものだ。一度ならまだしも、二度も神界からの侵入に気付かないと思ったか? それにお前、新しい英雄よ。我が魂の欠片は今、お前の中にあるようだな」

「まさか、それを辿って……!」


 狼狽えるアーニャに、メテルニムスが初めて笑みを浮かべる。


「ところでアニヤメリア、他の英雄や神々はどうした? 私の力は既に上位英雄を凌駕している。たった二人でどうにかなると思っているのか? ニーラペルシも酷なことをする」


 メテルニムスの言葉に、アーニャは悔しそうに拳を握りしめた。だが、


「いやいや、お前が倒した英雄たちなんて大したことないから」


 と、飛鳥が笑う。


「飛鳥、くん……?」

「あんな連中を倒したぐらいで調子に乗ってるのか? 魔王ってのも案外大したことないんだな」

「ちょっ、飛鳥くん!? 何言ってるの!?」

「…………お前の方が、やつらよりも強いと?」

「当たり前だろ」


 腸が煮えくり返る思いだが、飛鳥はそれを隠し自信満々に答えた。


 どいつもこいつもアーニャを馬鹿にしやがって……! 次会った時は絶対にぶっ倒してやるからな! 今はニーラペルシに頼んで一度撤退しないと……!


「ニーラ──」

「そんな格好では説得力に欠けるが、まぁいい。今日はお前たちを殺しにきたのではない」

「何……?」


 訝しむ飛鳥から目を外し、メテルニムスは空を睨み付けた。


「私はこの女、ステラ・アンシャールの中から神界の様子を見ていた。そこに映っていたのは、酷く傲慢で醜い神々と英雄どもの姿だった。それぞれの世界にはそれぞれの摂理というものがある。誰も彼もそれを無視し、好き勝手に暴れ、挙句これが救済だと宣っていたよ。私たちからすれば神界のやっていることは救済ではない、侵略だ」

「ふざけないで! それじゃあ人間が奴隷のように扱われるのが摂理だと言うんですか!?」


 アーニャが思わず声を上げる。


「あぁ、その通りだ」

「そんなの間違ってる……! 誰にだって自由に生きる権利がある筈だ!」


 飛鳥も怒りを露わにするが、メテルニムスは視線を戻さずに問いかけた。


「お前も英雄ならどこか別の世界で生まれ育ったのだろう? お前がいた世界の人間は自由に生きているのか?」

「当たり前だ! それが人間だろう!」


 メテルニムスが笑う。

 心底愉快そうに、嘲るように笑う。


「それはお前の世界の摂理だ。私の世界とは違う。自分こそが絶対の正義だと思っている連中ほど滑稽なものはないな」


 尚も笑みを漏らすメテルニムスに、飛鳥とアーニャは歯を食いしばる。

 彼女の言うことは間違っている。

 そんな摂理を認める訳にはいかない。

 しかし、今の自分たちにそれを覆せるだけの力はない。


「さて──」


 メテルニムスは大きく息をつくと、飛鳥の方へゆっくりと歩き出した。


「名を聞いておこうか、新たな英雄よ」

「……皇飛鳥だ」

「良い名だな。では飛鳥よ、私の魂を返してもらおうか」


 飛鳥は今度こそ思いっきり力を込め、立ち上がろうと足掻いた。

 ここで魂の欠片を奪われる訳にはいかない。

 だが、その細腕からは想像もできないほどの力で掴み上げられ、飛鳥は呻き声を漏らした。

 逃れようと掴み返すがビクともしない。


「本当に哀れな生き物だな。英雄というやつは」

「は、な……せ……!」

「安心しろ、殺しはしない」


 すると、飛鳥の体から黒い霧のようなものが立ち昇り、メテルニムスに吸収されてしまった。


「おぉ……!」


 メテルニムスが興奮した様子を見せる。

 そして、既に興味をなくしたのか飛鳥を放り投げた。


「がぁっ!?」

「遂に……全てを取り戻したぞ!!」


 空を仰ぎ、耳をつんざくような雄叫びをあげる。

 彼女の体から真っ黒いオーラが噴き出し、飛鳥とアーニャは地面を転がった。


「そん、な……」


 最悪だ。

 考え得る中で一番最悪なパターンになってしまった。

 ニーラペルシを呼ぶべく飛鳥が拳を握る。

 しかし、メテルニムスの口から出た言葉は意外すぎるものであった。


「そう怯えるな。私の魂を連れてきた褒美をやろう」

「褒美だと……?」

「そうだ。何を望む? 人間どもの管理をするでも、私専属の飼い人になるでも自由に選ぶがよい」

「ふざけるな!! 言った筈だ、俺たちはお前を倒してこの世界を救う!! お前に従う気なんてない!!」


 飛鳥が怒鳴り声を上げると、メテルニムスはつまらなそうに目を細めた。


「そうか、残念だ」


 メテルニムスが発したオーラが徐々に集まっていき、オーロラのような真っ黒い壁を作り上げた。

 そこからガシャリ……ガシャリ……と不規則な金属音が響く。


「あれは……!」


 壁から現れたのは、多数のボーンナイトと黒い翼を持つ褐色肌の女であった。

 ボーンナイトの方は意思がないのか、皆一様に剣を構えその場に佇んでいたが。


「あ! メテルニムス様ちぃーっす!」


 黒い翼の女は辺りを見回した後、メテルニムスを見つけると明るく手を振った。


「ペルラ、新しい飼い人を欲しがっていたな?」

「えっ!? くれんの!? マジで!?」

「あぁ、忌まわしき神界の連中だ。まずはこの世界の摂理を教えてやりなさい」

「かしこまりぃ!」


 ペルラと呼ばれた女が大はしゃぎで敬礼すると、メテルニムスは壁の中へと消えていった。

 彼女を見送り、ペルラは『うーん』と伸びをすると、


「そんじゃー始めよっか! ……救済者気取りのバカども」


 飛鳥たちを見つめ、舌舐めずりをした。

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