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一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第二章 イストロス編
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第43話 復活

 ティルナヴィアへ向かった時と同じ真っ暗な空間の中で、妙な浮遊感を感じながら、飛鳥はイストロスの大地が見えてくるのを静かに待っていた。

 前回は初めてのことで大騒ぎしてしまったが、二回目ともなれば慣れたもの。

 それよりも考えなければいけないのは到着してからのことだ。

 今の自分たちには『神ま』がない。

 情報収集ももちろんだが、協力してくれる人と活動拠点を速やかに探さなければならない。


「あの、飛鳥くん……」


 アーニャが飛鳥に声をかける。


「ん、なぁに?」


 考え事をしながら振り返ると、そこには顔を真っ赤にしたアーニャがいて。

 あまりの可愛らしさに先ほどまでの思考は遥か彼方に吹っ飛び、飛鳥は固まってしまった。


「あ、えぇと、その……」


 何を言えばいいか分からず手をバタつかせていると、彼女は飛鳥を見つめ口を開いた。


「今回のこと、ありがとう」

「え……?」


 この時、自分はどんな顔をしていただろう。

 アーニャの口から出た言葉が、予想から最もかけ離れたものだったからだ。

 彼女の意思も聞かず、自分の言いたいことだけ言って、イストロスの救済も勝手に決めて。

 最悪非難されて、嫌われても仕方ないと思っていた。

 それなのに。


「『神ま』が読めないのをずっと黙ってたのに……嫌わないでくれて、ありがとう。助けてくれて、本当にありがとう」


 アーニャはゆっくりと、しかし、はっきりとそう述べた。


「私、今度こそイストロスとステラちゃんを救えるように頑張るから……。これからも、よろしくお願いします」


 と、アーニャが頭を下げる。


「アーニャ……。うん、イストロスを救って一緒にティルナヴィアに戻ろう」


 飛鳥が微笑むと、アーニャも嬉しそうに笑う。

 やっぱり彼女は強い人だ。

 こんな状況でも自分の使命を大切にしていて、一緒に笑ってくれて。


 あぁ、そうか。だから僕は、こんなにもアーニャのことを……。


 すると、二人の体が光を放ち始めた。

 やましいことは何もないのだが、思わずアーニャから目を逸らす。


「あれ? これって……」


 意外そうな声を上げるアーニャの方を振り向くと、白金のプレートアーマーに赤と黒の膝上のバイカラースカート、そして真っ白いマントを身につけ、手に持ったロングソードをまじまじと見つめていた。

 その様子に飛鳥が問いかける。


「どうしたの?」

「うん、この装備……前と同じものなの」

「前と? じゃあアーニャの装備や能力はステラと組んだ時と同じものってこと?」

「確実とは言えないけど、そうだと思う」


 それを聞き、少しだけだが安堵した。

 勝手が分かるのであれば、神格がなくても幾分戦いやすい筈だ。

 イストロスに着いたら『精霊眼(アニマ・アウラ)』で確認してみよう。

 次は自分の装備だ。

 光が形を帯びていくのを飛鳥はジッと見つめていた。

 そして、現れたのは──。


「武器は無し、か……」


 白い上着に黒いズボンと茶色の靴。

 それから黒いマントと、アーニャよりは軽装だが銀のプレートアーマー。

 最後に黒い十字架のペンダントが現れた。


「鎧、ちょっとお揃いっぽいね」


 嬉しそうに口元を綻ばせるアーニャに、飛鳥が顔を赤らめる。


 何その反応……! 可愛すぎるだろ……!


「飛鳥くん! イストロスが見えてきたよ!」


 アーニャが指差す先に目を移すと、緑の大地が目に飛び込んできた。

 彼女の手を握りしめる。


「いよいよだね」

「うん……!」


 真っ暗な空間を抜け、地面へと降り立った飛鳥は目の前に広がる光景に呆然としてしまった。


「ここが、イストロス……」


 どこまでも広がる自然豊かな大地に、柔らかな日差し。

 時折吹く風は優しく頬を撫で、まるで春の行楽地を思わせるような景色であった。

 これが救世の旅でなければ一緒に弁当を作ってピクニックデートでもしたいくらいだ。

 キョトンとしている飛鳥にアーニャが微笑みかける。


「意外だった?」

「う、うん……。魔族が支配してるって聞いたから、もっとおどろおどろしい世界かと……」

「魔族が害を及ぼすのは人間だけなの。動物や自然には必要以上に手を加えないみたい」


 それって地球の人間より余程まともじゃないだろうか、なんて飛鳥は複雑な気持ちになってしまった。


「でも、人間のことは奴隷のように扱って、平気で命も奪って……。前回の旅でも、私たちがもっと早く魔王を倒していれば……」


 前言撤回だ。今度こそメテルニムスを完全に倒して、世界を救わないと……。


 決意を新たにする飛鳥であったが、困ったことが一つ。

 三百六十度見渡してみても、目に映るのは草原や森、山ばかりで町はおろか民家も人も見当たらない。

 日光の角度から見てすぐに夜が来る訳ではなさそうだが、できる限り早く行動を開始しなければ。


「アーニャ、ここがどの辺りか分かる?」


 聞いてみるが、アーニャは首を横に振った。


「ごめんなさい……。前来た時にはこんな場所通らなくて……。『神ま』さえあれば──」

「それじゃあさっそく町を探そう! 町まで行けば地図も売ってるだろうし! ねっ?」


 段々表情が沈んでいくアーニャを見て、飛鳥は努めて明るく振る舞った。

 彼女は何も悪くない。

 自分だけは何があってもそう伝え続けると決めたんだ。

 アーニャもそんな飛鳥の気持ちに気付いたのか、泣きそうなくらい顔をくしゃくしゃにして笑う。


「うん! そうだね! ……ありがとう、飛鳥くん」


 互いに微笑み合い、一歩踏み出した、その瞬間。

 見えない『何か』に押し潰され、二人は地面に倒れ伏した。


「なっ……!? これは、一体……!?」


 そこで飛鳥はあることに気付いた。

 右目に、『精霊眼(アニマ・アウラ)』に何も映らない。

 辺りには明らかに異常な気配が渦巻いているのに何も映らない。

 息が詰まるような嫌な感覚に飛鳥は胸を押さえた。

 脳裏にある記憶が蘇る。

 フラナングの館、ハマールの集落、そして、プリムラの庭園──。

 ならばこれはエレメントなどの類ではない。


「まずい……! 早くここを離れないと……!」


 立ちあがろうと地面に手を突くが力が入らない。

 それだけで近付いてくる存在がいかに強大なものか思い知らされた。


「飛鳥くん、空が……!」


 アーニャの言葉で空を見上げると、先ほどまで雲一つなかった青空が禍々しい紫色に変化していた。


「何だよ、これ……」

「また貴様か、女神アニヤメリア」


 気の強そうな女の声がアーニャの名を呼んだ。

 その声にアーニャの顔がみるみるうちに青ざめていく。


「あなたは……!」


 視線の先には琥珀色の長い髪をもち、全身に真っ黒い鎧を纏った女が一人立っていた。

 女は酷く冷たい瞳でこちらを見つめている。

 アーニャの反応を見ただけで、女が何者なのか理解してしまった。

 同時に、絶望が心を侵食していく。

 アーニャは震える声で女の名を口にした。


「ステラ、ちゃん……」

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