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一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第二章 イストロス編
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第42話 最後の一欠片

 ──ここは、女神アニヤメリアの神殿()()()()()


 主を失った──アーニャの神格が失われた為か、壁はところどころ剥がれ落ち、床もひび割れ、まるで廃墟のような状態になっていた。

 それを目の当たりにしたアーニャの気持ちはどれほどのものであったか。

 想像もできず、飛鳥は彼女に声をかけることができなかった。


 神殿に戻ってすぐ、二人はニーラペルシから着替えてくるよう言われ、それぞれ足早に別室へ移動した。

 真っ白い一枚布の服に着替えたアーニャはティルナヴィアで着ていた服を壁に掛け、シワを取るように撫でながら、


 うあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!


 顔を真っ赤にし、その場にうずくまった。


『俺は、一人の女性として、アーニャのことを愛している』


 飛鳥くんが、私のことを……あ、愛してるって……! しかも、女神だからじゃなくて……一人の、女として……。そ、それってつまり……私と、そういう関係になりたいってことだよね……?


 この宇宙に生を受けてからずっとニーラペルシの命に従って救世の旅を続けてきた。

 それが自分の使命であり、自分の全てだと思っていた。

 だから、誰かを異性として愛するとか愛されるとか、もちろん知識はあるし、同じ下位神の中にも伴侶がいる者もいるが。

 自分がその対象になるなんて考えたこともなかった。

 しかも──。


「は、初めて会った時からって……」


 飛鳥が『救世の英雄』に選ばれ、この神殿で出会った日、最初彼は真っ赤になったまま何も話してくれなかった。

 でも、自分が出したコーヒーを飲んで、美味しいと笑ってくれて。

 ティルナヴィアに着いてからはいつも一緒にいてくれて、いつも命懸けで戦って、いつも自分を守ってくれて。


「…………」


 つまり、彼がいつも可愛いって言ってくれたのは、そういう意味で。

 自分の言動に対して突然嬉しそうにしたり、落ち込んだりしたのも、そういう意味で。

 リーゼロッテやアクセルの行動も彼のことを気遣ったもので。

 思い返してみれば、気付くポイントはいくつもあって。

 アーニャは悶絶し、床を転がった。


 アクセルさんの言う通り、私はダメ神だ……。能力だけじゃない。飛鳥くんの気持ちにずっと気付けなかった。飛鳥くんはあんなにも私を想ってくれてたのに……。


 飛鳥の言動を思い返せば思い返すほど、恥ずかしさと申し訳なさと、それと同じくらい喜びが込み上げてきて。


「私は、どう応えたらいいんだろ……」


 誰かに相談したいが、そんな場合でないことは理解している。

 とにかくまずはイストロスとステラを救い、神格を取り戻さなければ。

 その中で、飛鳥と旅を続けることできっと答えも見つかる筈だ。

 アーニャは頬をペチペチと叩き、部屋を後にした。


 同じ頃──。


「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」


 やってしまったああああああああああ!! どさくさ紛れにアーニャに告ってしまったああああああああああ!!


 飛鳥もまた、今までになく顔を真っ赤にし、雄叫びをあげていた。


「うるさいですよ、飛鳥」


 ニーラペルシが嗜めるが、飛鳥の耳には届いていない。


 一番辛い思いをしてるのはアーニャなのに……! こんな、弱みにつけ込むようなやり方で、しかもアーニャには何も言わせず僕は何をやってるんだああああああああああ!!


「いい加減黙りなさい。うるさくて敵いません」


 しかも戻ってくる途中一言も喋ってくれなかったし……。何だったら目も合わせてくれなかった……。当たり前だよな、返事なんて考えてる場合じゃないし……。僕はどれだけ最低なんだ……。


「うわあああああ──。……? ッ!?」


 急に声が出なくなり、飛鳥は自身の喉元に触れた。

 喉はちゃんと震えているのに声にならない。

 ハッとし振り向くと、ニーラペルシの『神ま』が淡い光を放っていた。


「(お前の仕業か! ニーラペルシ!)」

「えぇ、非常にうるさかったので」


 口をパクパクさせ抗議する飛鳥に、読唇術の心得でもあるのだろうか、ニーラペルシは的確な答えを返してきた。


「もう騒ぎませんか? それなら元に戻してあげますが」


 彼女の言葉に、飛鳥が口をへの字に曲げ渋々頷く。

 ニーラペルシはまだ疑いの眼差しを向けていたが。


「まぁいいでしょう。また奪えば済む話ですから」

「──あ。おぉ、元に戻った……」


 ニーラペルシが『神ま』を閉じると声が出るようになり、飛鳥は喉元を触りながら毒突いた。


「くそっ、何でもありかよ。上位神は」

「私はあなたの管理者ですよ? その気になればあなたを死人に戻すことも可能です。覚えておくように」


 飛鳥は唇を噛み締め、彼女を睨み付ける。

 だが、ニーラペルシは意に介していないようだ。

 そこへアーニャが戻ってきた。


「ニーラペルシ様。あの、今回のこと、本当に……」


 謝ろうとするアーニャに対し、ニーラペルシが首を振る。


「あなたが謝ったところで状況は変わりません。イストロスは再び魔族の手に落ち、ステラと他の英雄たちの命は奪われてしまいました」


 返す言葉が見つからず、アーニャは俯いてしまった。

 飛鳥がニーラペルシに詰め寄る。


「そんな言い方しなくてもいいだろ! 俺たちが必ず解決する! お前も認めたじゃないか!」

「飛鳥くん、いいの。……ありがとう」

「う、うん……」


 目が合うが、二人とも顔を赤くし、すぐに逸らしてしまった。

 ニーラペルシが面倒臭いなこいつらとでも言いたげな表情を浮かべる。


「……説明を始めてもいいですか?」

「あ、あぁ」

「はい!」


 彼女は再び自身の『神ま』を開いた。


「イストロスの時間軸ではあなたとステラの救世から丁度十年が経過しています。復興が進んでいたようですが、メテルニムスが復活したことで魔族が勢力圏を取り戻しつつあります」

「そんな……!」


 アーニャが辛そうに顔を歪め服を握りしめるのを見て、飛鳥も顔をしかめる。

 そんなに自分を責めないでくれと言っても彼女は聞かないだろう。

 言葉で伝えるだけでは駄目なのだ。

 表向きはどうであれ、アーニャは自分を責め続けてしまう。

 だから行動で示すしかないんだ。

 アーニャの責任じゃないと。

 アーニャとステラは確かに世界を救ったんだと。


「要は元に戻ったってだけだろ、そんなの予想の範囲内だ。メテルニムスの能力や弱点、そういう情報はないのか?」


 飛鳥が尋ねると、ニーラペルシは彼をジッと見つめ、


「弱点とまではいきませんが……ある意味、あなた自身が切り札です」


 と、告げた。


「俺が?」

「メテルニムスは力のほとんどを取り戻しましたが、まだ完全ではありません。その最後の一欠片を握っているのが飛鳥、あなたです」

「もうちょっと分かりやすく説明してくれないか? 俺はメテルニムスに会ったこともないんだぞ?」

「メテルニムスは発見されないよう魂を分割し、ステラだけでなくアニヤメリアの体にも侵入を試みようとしました。ですが、神の肉体に魔族の魂が入ることなどできません。そこで一欠片だけ、新たにアニヤメリアのパートナーになったあなたの体に眠っているのです」

「俺の中に、メテルニムスの魂が……!?」


 唖然とする飛鳥とアーニャに、ニーラペルシが続ける。


「ですから飛鳥、あなたの中にある魂の欠片が奪われない限り、メテルニムスが完全に復活することはありません。では、イストロスへの転送を始めましょうか」


 神殿の中央へ進もうとするニーラペルシに飛鳥は待ったをかけた。


「なぁ、こっちはレーヴァテインも『神ま』もないんだ。情報だけじゃなくイストロスでも何かしら協力してくれないか?」

「これ以上を望みますか」

「当たり前だ。元はと言えば、お前がアーニャたちをちゃんと見ていれば防げたことだろう」


 言われ続け多少は自覚が出たのか、それともこいつしつこいなくらいにしか思っていないのかは分からないが、ニーラペルシが考え込む。


「…………分かりました。では、一度だけニーラペルシチャンスをあげましょう。ここぞという時に叫んでください。力を貸してあげましょう」


 ニーラペルシはたっぷりと時間を使った後、やや真剣な表情で提案した。

 彼女の言葉を受け、飛鳥が戸惑いを見せる。


「ニーラペルシチャンス……? それって真面目な場面でも言わなきゃ駄目か……?」

「当然です、ニーラペルシチャンスですから。小声ではダメですよ、きちんと大きな声で言うように」


 口調は変わらず淡々としているが、その表情はどこか誇らしげだ。

 言わせたいだけではないかと飛鳥はやや呆れたが、これ以上問答をしていても仕方がない。

 たった一回でも協力を約束させただけで十分だろう。

 飛鳥とアーニャも神殿の中央で立ち止まった。


「あなたたちの救世が成功することを願っていますよ」


 と、ニーラペルシが床を軽く蹴る。

 いつも通りポッカリと黒い穴が開き、飛鳥とアーニャは穴に飛び込んだ。

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