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一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第一章 ティルナヴィア編
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第38話 豹変(2)

 ライルは腕組みしたままエミリアを呼んだ。


「おい、アルヴェーン准将。あんたは確かキーウ・ルーシでスメラギと共に賊と戦ったんだったな?」

「そうだよ。ってか上官にタメ口きくなっていつも言ってるでしょ!」

「なら上官らしい態度を見せてくれ」


 エミリアが叱るが、ライルに反省の色は見られない。

 それどころか、彼は飛鳥に視線を移し、エミリアに命じた。


「あんたはアクセル・ローグを何とかしてくれ。手の内がバレているスメラギ相手よりはいいだろう」

「勝手に決めないでよ!」

「さぁ、行くぞ」

「話を聞けー!」


 彼らに対し、アクセルが笑いを堪えるように口元を押さえた。


「そういうことみたいだぜ。じゃあさっさと始めようか。なぁ、チビ女」

「あ!? 今チビって言ったかお前!?」

「あぁ、それ以外特徴が見当たらなくてなァ」


 アクセルは挑発するように首を傾げてみせた。


「ぶっ殺すッ!!!」


 エミリアがシグルドリーヴァを構え、勢いよく床を蹴る。


「死ぬのはてめぇだ。──あ?」


 アクセルが視線を落とすと、両手両足に真っ赤な鎖が絡まっていた。

 振り向くと、そこにはマリアの姿が。


「これでもう逃げられませんよ、アクセル・ローグ」


 彼女は鎖を更に締め付け、エミリアに向かって叫んだ。


「姉さん! 今です!」

「ナイス! マリア! はあああああああああああああああ!!」


 エミリアを包む炎が激しさを増していく。


「これでも喰らえッ!! 『いのち短し(シャーリィ・シ)愛せよ乙女(グルドリーヴァ)』!!」


 シグルドリーヴァがアクセルの心臓を捉えた。

 エミリアがガッツポーズを取るが、


「ッ! 私の炎が……!?」


 炎が徐々に小さくなり、氷がシグルドリーヴァを侵食していった。


「……これが、ロマノー最強の精鋭部隊『八芒星(オクタグラム)』ねぇ」

「何よ!?」

「足りねぇなァ……」

「はぁ?」


 トンっと小さな音が響く。

 アクセルは足をエミリアの胸に押し当てた。


「第八門と戦おうって連中がこの程度なんざ哀れで笑えねぇよ」


 二人の間に小さな重力球が生み出される。


「なっ──!?」

「『大地を揺らすは(フェンリルバイト)魔狼の咆哮(・グラビトン)』!!」


 トップスピードで撃ち出された重力球がエミリアを壁に叩き付けた。


「姉さん!!」


 マリアが悲鳴を上げるが、エミリアから反応はない。


「てめぇもだ」

「きゃあっ!?」


 アクセルは自身を捕らえている鎖を思いっきり引っ張った。

 そのまま振り回され、マリアの体が壁を削る。

 あっという間の出来事であった。

 倒れ、身動き一つしないアルヴェーン姉妹に、兵士が青ざめ武器を下ろす。

 その中心でアクセルは全てを嘲るように笑い声を上げた。


「あのバカ……!」


 飛鳥が顔をしかめ苦々しく呟く。

 だが、何も分からないこの状況で捕まる訳にはいかないのも事実だ。


「ヴィルヘルム! 頼む! 話を聞いてくれ!!」


 しかし、やはりヴィルヘルムは飛鳥を見ようともしない。

 玉座へ駆け寄る飛鳥の前にライルが立ち塞がった。


「よそ見とは感心しないな、スメラギ」


 彼の頭上にポッカリと黒い穴が開き、そこから巨木のような腕が一本飛び出した。

 『精霊眼(アニマ・アウラ)』が反応し、目を見張る。


「これが、伝承武装……!?」

「──()()()()

「ッ!?」


 そして、穴を押し広げるようにもう一本の腕が縁を掴み、やがて姿を現したのは。


「何だよ、こいつは……!?」


 巨人というのが、飛鳥が知っている言葉の中で最も適切なものであった。

 窮屈そうに穴から出てきたその生き物は肌は浅黒く、鈍い輝きを放つ銀色の兜で顔を隠し、腕だけが異様に長い、奇妙な姿をしていて。


「人間……!? いや、でも……!」

「そいつは人間でも獣人でもない。思考も感情も持たないただの兵器だ」


 ライルが淡々と告げる。

 すると、巨人が動き出し、駄々をこねる子どものように飛鳥目掛け何度も何度も拳を打ち付けた。

 その動きは見た目からは想像できないほど俊敏だ。

 巨人がより一層力を込め、拳を振り下ろす。

 だが、レーヴァテインがそれを砕いた。


「ヴィルヘルムと話をするまで捕まる訳にはいかない。悪いが、破壊させてもらう」

「やってみせてくれ。丁度耐久試験をしておきたかったところだ」


 肩まで粉々に吹き飛ばされ、声こそ上げないものの、巨人が苦しそうに身を捩る。

 暴れ回る巨人を眺め、アクセルは吐き捨てた。


「次から次へと訳の分からんものを。てめぇ、一体何がしたいんだ」

「そう言ってやるなよ。お前だってその一つなんだぞ?」


 ヴィルヘルムは民に見せるのと同じ穏やかで優しい笑みを浮かべ、さも当然のように告げた。


「……そうかよ」


 アクセルは唇を噛み締める。

 分かっていた筈だ。

 こいつらが、先帝が望んだのは国を護る英雄なんかじゃない。

 こいつらが求めているのは、いつだって。

 分かっていた筈なのに、無性に腹が立ってしまった。

 こんな訳の分からないものをいつも見ていてくれて、側にいてくれる、大切な人のことまで否定された気がして。


「そうだよなァ、さすがは魔王だ」


 アクセルが不敵に笑う。


「てめぇに裁定はいらねぇ。さっさと死を受け入れろォ!!」


 アクセルの影から『女神』が現れた。

 腐った半身をぎこちなく動かし、ヴィルヘルムを指差す。


「こんなものを使おうなんて、父上は全く……」


 ヴィルヘルムが『女神』を見据える。

 次の瞬間、七色に輝く剣が『女神』を貫いたかと思うと、彼女の体がボロボロと崩れていった。


「がぁっ!? ぐっ……ぐうううううああああああああああ!?」

「学習能力がありませんね、アクセル・ローグ」


 悶え苦しむアクセルの目の前にプリムラがしゃがむ。


「この……クソ(アマ)ァ……!」

「ソフィア・リストには驚かされてばかりです。一部とはいえ、あの結界を再現するとは」


 プリムラは興味深げにアクセルの霊装を手の中で転がした。


「やめ……ろ……!」


 手を伸ばすアクセルに、プリムラが少しだけ哀れむような様子を見せる。

 しかし、それも数瞬のこと。

 小さな音を立て、霊装が砕け散った。


「あ……!」

「アクセル! おい!! しっかりしろ!!」


 飛鳥が叫ぶが、アクセルは倒れたまま動かない。


「くそっ!!」


 助けようと走り出すが、ライルが割り込んだ。


「同じことを言わせないでくれ。よそ見をしている暇はないぞ」

「ぐぅっ!」


 蹴り上げられた目の前には巨人の拳が。

 思いっきり殴り付けられ、飛鳥は床を転がった。


「二人を牢に連れていけ。それと、すぐにエミリアとマリアの手当てを頼む」


 ヴィルヘルムの命に、プリムラとバルドリアスが無言で頭を下げる。


「待って、くれ……。ヴィルヘルム……」


 だが、全身から力が抜け、飛鳥は意識を失った。

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