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一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第一章 ティルナヴィア編
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第31話 戦う理由

 カトルたちと共に闘技場に入ると、威勢の良い声が全身を叩いた。


「待っていたぞ! 皇飛鳥!」


 マティルダは闘技場の中央に立っていた。

 先日と同じ黄金の鎧を身に着けている。

 彼女以外に観客席に当たる場所には十数人の老人たちが集まっていた。

 その中にはハマールの姿もある。

 彼は飛鳥と目が合うと気まずそうに逸らしてしまった。

 カトルが空いている席を指す。


「あちらの方々は各集落の長とレグルス家に仕える三大臣様です。あなた方もどうぞお席へ。共に証人になっていただきます」

「わ、分かりました……!」


 アーニャが緊張した面持ちで頷き、三人は言われた通り席に着いたが、突然近くにいた一人が喚き出した。


「やはりこんな決闘なしだなし!! 何故ですか姫様ぁ!! レグルス家のお方が決闘を申し込む意味は分かっておいででしょう!? なのに……なのにぃ!! よりにもよって人間相手になんてあっていい訳がなぁい!!」


 服装からして三大臣の一人だろうか、茶色い髪の男が細い目を思いっきり開き、涙ながらに訴えている。

 あまりの癇癪っぷりに、アーニャたちは思わず身を引いてしまった。

 観客席から身を乗り出し、今にも落ちそうになっているその男の首根っこをオレンジ色の髪をオールバックにした男が担ぎ上げた。


「落ち着かんか、キタルファ。マティルダ様が負けると思っているのか?」

「放せアンカー!! 考え直してくだされ姫様ぁ!!」


 キタルファがアンカーの丸太のように太い腕を叩き、マティルダへ呼び掛ける。

 そこへ光球が飛来し、正確にキタルファのみを弾き飛ばした。


「キタルファ! いつまでも姫様姫様と……! 子ども扱いするなといつも言っているだろう!」

「だって……だっでぇ!」


 尚も泣き喚くキタルファを無視し、マティルダは飛鳥に視線を戻した。


「見苦しいところを見せたな」

「いい家臣じゃないか」


 飛鳥の言葉にマティルダの目付きが鋭くなる。


「国を保つ為に各々役職を持ってはいるが、余にとっては皆等しく家族のような存在だ。下に見たことなどない」

「……そうか。悪かった」

「分かればよい。さて、貴様の望みを聞こうか。協力と言っていたが、具体的に何をしてほしいのだ?」

「ロマノーと同盟を結び、一緒にスヴェリエと戦ってほしい。もしロマノーが負ければ次はエールがターゲットになる。この前ので分かっただろ?」


 マティルダは大きく息を吐いた。


「この国の成り立ちを知らぬ訳ではあるまい。それでも、人間と同盟を結べと?」

「人種なんて関係ない。俺は戦争を終わらせたいんだ。お前たちにはそれができるだけの力がある、その力を借りたい」

「分かっていながらそのように言うか。──よかろう! 貴様が勝てばエールはロマノーと同盟を結ぶ! しかし余が勝った時は即刻この国から出ていってもらうぞ! よいな!」

「待ってくれ、もう一つ頼みがある」

「何だ? まだあるのか?」

「俺が勝っても負けてもトーマスさんとブリギットに今まで通り接すると約束しろ。俺たちが巻き込んだだけで二人に罪はない」


 それにマティルダは戸惑いを見せた。


「ロマノーの、それも人間が余の民を助けようとはどういうつもりだ?」


 彼女の問いに首を横に振る。


「さっきも言っただろ、国も人種も関係ない。二人は俺たちを助けてくれた。その恩返しがしたいだけだ」


 すると、マティルダは一瞬だけキョトンとした後、心の底から嬉しそうに笑った。


「ふむ、そうか。そうかそうか! 皇飛鳥! 人間にもこれほど気高き魂の持ち主がいようとはな!」


 マティルダのエレメントが急激に高揚し、黄金の鎧が弾け飛ぶ。

 そして、彼女の体が光に包まれた。


「その魂に敬意を表し、全力で相手をしてやろう!!」


 マティルダに起きた変化を『精霊眼(アニマ・アウラ)』が捉え、情報が整理されていく。

 パズルが完成するように映し出された結果に飛鳥は身構えた。


「これが、獅子王の……!」

「見よ! これこそ余の『特異能力(シンギュラススキル)』! その名も『煌輝なる獅子王(ブリリアント・コア)』だ!!」


 光の中から現れたマティルダの体は頭のてっぺんからつま先、髪の毛一本に至るまで黄金に輝いていた。

 その能力は最上級の精霊術を遥かに凌ぐ絶体的な防御力だ。

 彼女に匹敵する強度のエレメントでなければ傷一つ付けられない。


 こいつを破るには、それこそ──。


 だが、怖気付いてはいられない。

 勝つと約束したのだから。


 マティルダの咆哮を合図に同時に地面を蹴る。

 しかし、二人の間を炎と熱風が薙いだ。

 観客席からもどよめきが起きる。


「この炎……! やっぱりまた来たか!」

「誰だ!!」


 見間違う筈もない、恒星のように激しく燃え盛る炎。

 視線の先には恭介とのどかが立っていた。


「今度こそその命貰い受けるぞ。マティルダ・レグルス」

「焔王……! 貴様ぁ……!」


 わなわなと身を震わせながらマティルダが恭介を睨み付ける。


「ここに立ってよいのは選ばれし戦士だけだ!! 余と飛鳥の決闘を邪魔するつもりか!!」

「貴様の都合など知らん。俺たちの目的は貴様の命だと言った筈だが」


 ただただ冷たくそう告げる恭介に、マティルダは今度こそ怒りを爆発させた。


「ならば貴様から先に仕留めてやるッ!! 誰も手出しするな!! 飛鳥!! 貴様もだ!!」

「悪いけど、それはできない」


 レーヴァテインを振り、彼女を制止する。


「貴様!! 余を愚弄するか!!」

「違う!!」


 マティルダに負けじと声を張り上げる。

 そのまま飛鳥は恭介を見据えた。


「万全のお前に勝たないと意味がないんだ、お前だってそう言っただろ。それだけじゃない。俺は焔の考え方にムカついてるんだ」

「何だと?」


 恭介が訝しむように眉を寄せる。


「どうしてお前はそこまで獣人を目の敵にしてるんだ。彼らがお前に何をした」

「目の敵? 何の話だ、俺自身は何もされてなどいない」

「はぁ? だって劣等種って……」

「それは事実を言っただけだ。獣人になど関心はない」

「じゃあ、どうして……?」

「陛下の望みだからだ」


 飛鳥は彼の言葉に耳を疑った。

 唖然とする飛鳥を無視し、恭介が続ける。


「獣人は力は強いが知性と理性が足りない。今もそうだ、お前たちは話し合いではなく決闘などという野蛮な手段で解決しようとしている。陛下は人間が安心して暮らせる、秩序ある世界を作る為に獣人を滅ぼせと命じられた。大陸統一はその第一歩だ」

「……ふざけるな」


 飛鳥は血が滲むほど強く拳を握り締めた。

 脳をぐちゃぐちゃとかき回されるような不快感に襲われ、全身が熱を帯びていく。

 それらは雷となり、全身を駆け巡った。


「スヴェリエ王に命じられたからとか、関心がないとか、お前は獣人と触れ合ったことがあるのか!? 彼らを理解しようとしたのか!?」

「必要ない。陛下の命こそが俺の戦う理由だ」

「そんなの間違ってる! 大事なのはお前自身がどうしたいかだろ! そんな理由でマティルダやこの国の人たちを傷付けさせはしない!」

「飛鳥……。妙なやつだ。だが、よい」


 と、マティルダは斧を担ぎ、レーヴァテインを押し除けた。

 恭介が剣を抜く。


「同じことを言わせるな、お前の意見など聞いていない。のどか、援護しろ」

「はい」

「決闘は中断だ! 行くぞ、飛鳥!」

「あぁ、これ以上俺たちの邪魔はさせない」


 飛鳥たちは恭介目掛け勢いよく飛び出した。

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