表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第一章 ティルナヴィア編
21/52

第21話 急変(2)

 三人は急いで謁見の間に向かった。

 『精霊眼(アニマ・アウラ)』が反応を示す。

 飛鳥は眼帯を外し、壁を見つめた。

 反応は二つ、一つはアクセルのエレメントだが、もう一つは見たことがない不思議なもので。


 何だ? このエレメントは。属性が読み取れない……?


「どうしたの? 飛鳥くん」


 アーニャもリーゼロッテも不安そうに飛鳥を見つめている。

 飛鳥は首を振った。


「ごめん、何でもない。二人は少し後ろからついてきて」


 扉の前に立ち、レーヴァテインを抜く。

 警備の兵がギョッとし、槍を構えた。


「お待ちください英雄殿! 陛下はお取り込み中です! それに──」

「一度しか言いません、そこをどいてください」


 もう一人が緊張した面持ちで飛鳥に近づいていく。


「剣をこちらに。このままでは貴方を捕えねばならなくなります」

「──レーヴァテイン」


 荒れ狂う雷が兵を吹き飛ばし、扉を砕いた。

 敵対行為と取られても仕方のない状況だが、そんなことを気にしている暇はない。

 飛鳥は雷を纏ったまま謁見の間に踏み入った。


「そろそろ来る頃だと思っていたぞ、飛鳥」


 謁見の間にヴィルヘルムの声が響き渡る。

 飛鳥はレーヴァテインを床に置き、彼の前まで行くと膝を折った。

 プリムラとバルドリアスがヴィルヘルムを守るように立ち塞がる。


「まずは先ほどの無礼をお詫びいたします」


 飛鳥は身を縮め、深々と頭を下げた。

 ヴィルヘルムが笑う。


「安心してくれ。気にしてないよ、俺はな」

「……ありがとうございます」


 その様子をアーニャとリーゼロッテは入り口の影から見つめている。

 リーゼロッテは青ざめ、今にも倒れそうだ。

 アーニャは落ち着かせるように彼女を抱き寄せた。


「大丈夫、飛鳥くんがきっと何とかしてくれるから」

「二人とも下がれ」


 ヴィルヘルムの言葉に従い、プリムラとバルドリアスが身を引く。

 飛鳥は顔をあげ、彼に問いかけた。


「陛下、これはどういうことかご説明いただけますでしょうか」

「見ての通り、ここには俺たちしかいない。そんなに畏まらないでくれ」


 ヴィルヘルムが柔らかな笑みを浮かべる。

 だが、その表情は仮面を貼りつけたかのようで。

 初めて会った時の明るさや優しさは感じられなかった。

 飛鳥は態度を変えず、もう一度問いかける。


「……陛下、お答えください」

「飛鳥」


 ヴィルヘルムは寂しそうに顔を曇らせた。


「どうしてアクセルをここへ連れてきたんですか?」

「どうしてって、アクセル・ローグにはすぐに軍務に就くよう命じた筈だが?」

「それでしたら報告書に記載した通りです。リスト主任技師の霊装が完成するまでお待ちください」


 飛鳥は非難の視線を送った。

 それを受け、ヴィルヘルムが静かに息を吐く。


「この八年、被害者の家族はどんな気持ちで過ごしていたんだろうな」

「それは……」


 アクセルが起こした事件について言及され、飛鳥は言葉に詰まってしまった。


「被験者や開発局の者たちはこの国の為に身命を賭してくれた。民に至っては何の落ち度もない。平穏な暮らしを突然奪われたんだ」


 ヴィルヘルムの言うことはもっともだ。

 どんな理由があるにせよ、敵意もない者を殺していい筈がない。

 でも、だからこそ。


 ヴィルヘルムは試すように飛鳥を見つめた。

 飛鳥が立ち上がる。


「このままアクセルを放置すれば八年前と同じことになるかも知れません」

「かもじゃない、同じことになるんだよ。犠牲になるのは俺かお前か。それともそこで見ている獣人の娘かもな」


 飛鳥は唇を噛みしめ、湧き上がってきた怒りを抑え込んだ。

 ヴィルヘルムの真意は分からないが、ここで誰かを犠牲にする訳にはいかない。

 何より、正体を明かした時のアクセルの顔が忘れられなくて。

 これ以上、リーゼロッテの悲しむ顔を見るのが嫌で。


 二人を助けられなくて何が英雄だ……!


 飛鳥は覚悟を決め、ヴィルヘルムを睨みつけた。


「やつを戦場に出すよう提案したのは俺です。これからやつが行う全ての責任は俺が取ります」

「そうか。じゃあまずはこの状況を何とかしてくれないか?」


 無言のまま、アクセルに歩み寄る。

 そして、飛鳥は彼の背中に手を当てた。

 『精霊眼(アニマ・アウラ)』が輝き、脳に刻まれた情報を映し出す。

 エレメントでできた鎖が二人を結びつけ、ふっと消えた。

 途端に酷い脱力感に襲われ、飛鳥が崩れ落ちる。

 額に汗を滲ませ、今にも倒れそうな体を何とか支えながらもう一度頭を垂れた。


「これで、よろしいですね……?」

「……お前の覚悟は分かったよ。アーニャ、リーゼロッテ、二人を部屋へ連れていってやってくれ」


 アーニャとリーゼロッテは急いで駆け寄り、二人を抱き起こすと謁見の間を後にした。


「飛鳥くん! しっかりして! 飛鳥くん! これは一体……」


 部屋に戻り、アーニャが必死に呼びかけるが、飛鳥から反応はない。


「めちゃくちゃだな。霊装が完成するまでこうしてるつもりか? 死ぬぞ、てめぇ」


 代わりに応えたのはアクセルであった。

 先ほどより幾分顔色が良くなっている。

 狼狽えるアーニャの腕の中で飛鳥がゆっくりと頭を動かした。


「そんなに……ヤワじゃないよ……。でもお前、燃費悪すぎだろ……」

「飛鳥くん、喋らないで。横になろ」


 と、アーニャは飛鳥をベッドに寝かせ膝の上に頭を乗せた。

 普段なら嬉しさと恥ずかしさで真っ赤になる状況だが、そんな余裕はない。

 体内から急速にエレメントが失われ、それを補うだけで精一杯だ。

 飛鳥は大人しくアーニャに身を委ねた。

 リーゼロッテが飛鳥に毛布をかける。


「リーゼロッテ……ありがとう……」

「ううん。私たちの方こそ、助けてくれてありがとう」


 ここで謝ったら飛鳥の頑張りを否定してしまう、侮辱してしまう。

 そう言いたげに、リーゼロッテは努めて笑顔で礼を述べた。

 飛鳥も微笑み返すが、思考は謁見の間での出来事に向いていた。


 ヴィルヘルムは……何を、考えているんだ……? 初めて会った時とは別人みたいだ……。どっちが、本当のあいつなんだ……?


 しかし、そこで思考が途切れ、飛鳥は深い眠りへ落ちていった。

 その横顔を見て、アーニャが心配そうに頭を撫でる。


「おい、鈍感ダメ神」

「鈍感ダメ神っ!?」


 アクセルの放ったどストレートな悪口に、アーニャは叫び声をあげた後慌てて口を塞いだ。

 だが、彼は至って真面目な様子だ。

 それにリーゼロッテは牙を剥き、高く飛び上がったかと思うとアクセルの頭を蹴り飛ばした。


「あだっ!?」

「助けてもらったのに何よそれ! ちゃんと名前で呼びなさいよ! あんたのそういうとこ本っ当最低!」

「俺は事実を言っただけなんですが……。おい、アーニャ。飛鳥にはこの世界を救う為の能力が与えられているとか言ってたな。俺の体を維持できるほどのエレメント、これもその一つか?」


 アーニャは飛鳥がちゃんと眠っているのを確認し答えた。


「……分からないんです」


 その声は微かに震えている。

 アクセルとリーゼロッテは顔を見合わせた。


「分からない? 何故だ? お前の持ってる本に全て書かれてるんだろう?」


 アーニャが首を振る。


「飛鳥くんに関するページだけ、どうしてか読めないんです……。真っ黒に……塗り潰されてて……」

「どういうことだ?」

「分かりません、こんなことは初めてで……」

「そのこと、飛鳥は知ってるのか?」


 青ざめるアーニャを見て、アクセルは呆れ顔で椅子の背にもたれかかった。


「はっ、哀れなもんだなァ。そんなにも尽くしてるのに隠し事をされてるなんてな」

「ちょっと! そんな言い方ないでしょ!?」


 リーゼロッテが再び牙を剥く。


「ううん、アクセルさんの言う通りです。でも……飛鳥くんを、不安にさせたくなくて……。だから、その……」

「言わねぇよ、俺には関係のない話だ」

「ありがとうございます……」

「んで、霊装ができた後はどうすんだ?」

「そのことなんですけど、二人にも協力してほしいんです。特に、リーゼロッテちゃんに」

「へっ!? 私!?」


 いきなりの指名にリーゼロッテは間の抜けた声を発した。

 アーニャが力強く頷く。


「うん! 次は北方の獣人の国、エール共和国に行こうと思うんです!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ