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一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第一章 ティルナヴィア編
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第20話 急変

「ふぁ……あ〜ぁ……」


 アーニャは目を覚ますと、両手を組みぐーっと背伸びをした。

 カーテンを開け外を見ると、はらはらと雪が降っている。

 上着を羽織り飛鳥を起こそうと体を揺すった。


「飛鳥くん、朝だよー」

「ん……アーニャ……。おはよう……」

「おはよう」


 飛鳥は目をこすりながらボソボソと返事をした。

 起きたはいいものの、体は重く疲れが残っている。

 二度寝しないよう転がるようにベッドから出た。

 それにアーニャが笑顔を浮かべる。


「もうちょっと寝ててもいいよ。フラナングからこっち、結構大変だったし」

「ううん……」


 ありがたい申し出だが、大変だったのはアーニャも同じだ。

 甘えてばかりでは申し訳ないし、ソフィアを待つ間何もしないという訳にもいかない。


 飛鳥は眼帯をつけ、部屋の隅に設けた着替えスペースに入った。

 アーニャに着替えを見られるのは恥ずかしいし、逆はもっと恥ずかしい。

 着替えを終え、飛鳥は彼女に声をかけた。


「ちょっと散歩してくるね。風に当たって目を覚ましてくる」

「うん、行ってらっしゃい」


 と、アーニャが飛鳥にマントを羽織らせる。

 出勤前の夫婦みたいだなぁなんて考えて照れてしまった。


「私も着替えて、コーヒー用意しておくね」

「ありがとう」


 廊下へ出て、あまりの寒さに身震いする。

 飛鳥はマントに包まり、壁に目をやった。

 初日の迷子事件のお陰で、廊下の壁には短い間隔で案内板が設置されている。

 少し情けなさを感じつつも、それに従い宮殿の外へ出た。

 朝の訓練だろうか、遠くから大勢の掛け声が聞こえる。


 昨日ソフィアの元を訪ねた後、改めてマリアと話をしたが、ロスドンでの一件以降スヴェリエ軍の進攻がピタリと止まったそうだ。

 今年は例年より雪が多く、互いに思うように動けないのだという。

 あれだけ北部攻略を主張していたクラウスもようやく納得し、今は訓練と物資の確保、そして情報収集を行いつつ雪解けを待つ方針で固まったらしい。

 数ヶ月の猶予ができたのは非常にありがたい。

 それだけ時間があれば、ロマノーとスヴェリエ両国の反戦派に接近することもできるだろう。


 色々と考えている間に目も覚めてきた。


「戻ってコーヒー飲も……」


 その時だった。

 近くの茂みが音を立てる。


「ん?」


 飛鳥は振り向こうとしたが、それより速く何者かに口と腕を掴まれ茂みに引きずり込まれてしまった。

 思考が一気に切り替わる。


 何だ!? まさかスヴェリエのスパイがここまで!?


 逃れようと身をよじるが、想像以上に相手の力が強く地面に叩きつけられた。


 この野郎……!


 体内を巡るエレメントが急加速する。

 それらは雷撃となり、相手を弾き飛ばした。

 『ぎゃうっ!?』と短い悲鳴が聞こえ、体が自由を取り戻す。

 そのまま体勢を立て直そうとする飛鳥であったが、


「その声は……」


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはラベンダー色の髪の毛に金色の垂れ耳が生えた獣人の女、リーゼロッテがうずくまっていた。


「リーゼロッテ!? どうしてここに!? 大丈夫か!?」

「や、やった本人が聞く……!? いや、それより……」


 リーゼロッテが苦しそうに顔を上げ、飛鳥のマントを掴む。


「お、お願い……アクセルを、助けて……!」

「アクセルを……? どういうことだ? 何があったんだ?」


 そこで飛鳥は気づいた。

 満足に休息も取らず走ってきたのだろう。

 彼女の靴は泥だらけで、体は氷のように冷え切っていた。


「とにかく、一度僕たちの部屋に!」


 飛鳥はリーゼロッテを抱きかかえ自室へ急いだ。


「アーニャ!」


 勢いよく扉を開けると、アーニャは暖炉の前でのんびりとコーヒーの用意をしていた。

 しかし、抱えられたリーゼロッテを見て目を丸くする。


「どうしてリーゼロッテちゃんがここに?」

「話は後で! というか、僕もまだ何も聞いてないんだけど、まずはリーゼロッテを暖めないと……」

「そうだね! リーゼロッテちゃんをこっちに!」


 アーニャはリーゼロッテに毛布を被せ、体をさすった。

 リーゼロッテがアーニャの手を握る。


「私はいいから、あいつを……」

「リーゼロッテ、落ち着いて。僕らが必ず何とかするから。まずは休んで、話を聞かせてくれ。アーニャ、食堂でスープか何かもらってくるよ。リーゼロッテをお願い」

「分かった!」


 そして、飛鳥が持ってきたスープをリーゼロッテの口に運んだ。


「温かい……」


 少し回復したのか、リーゼロッテがホッと息をつく。

 だが、すぐに立ち上がり飛鳥に迫った。


「そうだ! アクセルを助けないと! 飛鳥、お願い! あいつを助けてやって!」


 アーニャがふらつく彼女の体を支える。


「アクセルさんに何かあったの?」

「リーゼロッテ、何があったのか聞かせてくれないか?」

「昨日の夜、いきなりロマノー兵が館にやって来てアクセルを連れてったの……。あいつも抵抗したけど、勝てなくて……」

「ロマノー兵が?」


 リーゼロッテは力無く頷いた。

 彼女の肩を抱きつつ、アーニャが困惑した様子を見せる。


「でも、アクセルさんが負けるなんて……」

「兵士はアクセルを運んでいっただけで、戦ったのは一人なの。全身黒ずくめだったから顔は見てないけど女だったわ、声を聞いたの」

「黒ずくめの女って……」


 飛鳥の目つきが鋭くなる。


 プリムラさんがアクセルを……? あの人にそれほどの力が?


 『精霊眼(アニマ・アウラ)』を持つ彼女の実力は未知数だ。

 しかし、『特異能力(シンギュラススキル)』を持たないとはいえアクセルは第八門の精霊使い。

 そう簡単に負ける筈がない。

 プリムラの『精霊眼(アニマ・アウラ)』は第八門との実力差を埋められるほどの能力なのだろうか。


 今考えても埒が明かない。

 飛鳥はリーゼロッテの顔を覗き込んだ。


「それで、アクセルを助ける為にここまで来たのか」

「うん、においを辿ったらここに着いて……。でも警備が厳重で入れなくて……。だから誰か捕まえて案内させようと思ったの。正直飛鳥の顔ちゃんと見てなくて……。あんなことしてごめん……」

「ううん、僕で良かったよ。他の人だったらリーゼロッテも酷い目に遭ってたかも知れないし」


 アーニャも同意する。


「そうだよリーゼロッテちゃん! リーゼロッテちゃんに何かあったらアクセルさんが悲しむよ! 私たちがいるんだから、もうそんな無茶しちゃダメだよ?」


 と、言い聞かせた。

 リーゼロッテが涙ぐむ。

 飛鳥は立ち上がり、レーヴァテインを手に取った。


「ヴィルヘルムに会いに行こう。あいつの命令ならやめさせないと」

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