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一目惚れから始まる異世界終焉譚-ラグナロク-  作者: 宮井ゆきつな
第一章 ティルナヴィア編
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第18話 情報交換

「あ、あんた……いきなり何言ってんのよ……?」


 リーゼロッテはおぼつかない足取りで後退り、床石につまずいた。

 転びそうになる彼女をアーニャが抱き止める。


「リーゼロッテちゃん! 大丈夫?」

「あ、ありがと……」


 そんな二人を見て、アクセルは困ったように笑った。


「うん、思った通りの反応です。それに比べて飛鳥、お前はつまらん奴だな」

「視たんだから今更驚かないよ。……それが八年前に受けた実験の結果か」

「そういうことだ」


 タネを明かされた手品師(マジシャン)のようにアクセルは肩をすくめた。

 黙り込む彼の代わりに、飛鳥は話を続ける。


「お前の体は脳以外をヴァナルガンド、ミドガルズオルム、ヘル──獣たちによって代用されている。でも見た目だけだ。本来の臓器としては機能していない。だから……」

「そう、俺は他の生物のエレメントを吸収することでしか命を保つことができない。今はこの館を覆っている精霊術からエレメントの供給を受けているが、ここを出れば命を奪うか餓死するまで耐えるかのどちらかになる」


 二人の話を聞いていたアーニャはハッとし、『神ま』をめくった。


「それじゃあ……貴方が八年前に起こした殺人事件は……」

「あぁ、死ぬ訳にはいかなかったんでな。仕方がなかったんだよ」


 アクセルが心底不快そうに吐き捨てる。


「そんな……アクセルの、体が……」


 自身を抱きしめるリーゼロッテを見て、アクセルは目を伏せた。


「先帝と軍は人為的に第八門を生み出しスヴェリエに対抗しようとしていた。あわよくば自分たちが大陸統一をって考えもあったかもな。それが実験の目的だ」

「人為的に……!? そんなことできるんですか……!?」


 アーニャの質問に、アクセルが呆れたように首を振る。


「目の前に実例がいるだろうが。まぁ、半分は失敗だ。俺は『特異能力(シンギュラススキル)』を得ることができなかったし、スヴェリエの第八門と戦ったところで勝てる見込みはない」


 ざまぁみろと言わんばかりにアクセルは笑った。

 軍に恨みを持っているのだから気持ちは分からなくもないが。

 そこでふと、飛鳥はあることを思い出し、彼に聞いてみた。


「お前はスヴェリエの第八門がどんな奴なのか知ってるのか?」

「ん? お前らこそ軍人のくせに知らないのか?」

「あ、いや、その……」

「……そういえばお前らの話がまだだったな」

「私たちの……?」


 アーニャが不思議そうに聞き返す。

 頷き、彼女を見据えるアクセルの前に飛鳥が立ち塞がった。


「用件はもう伝えただろ」

「そっちじゃない、お前らが何者なのかって話だ。特にアーニャだったか? 人間とも獣人とも違う、お前は何だ?」

「だから僕らは軍人で、ここに来たのは陛下の命で……」


 思わず目を逸らしてしまった。

 アクセルが馬鹿にするように詰め寄ってくる。


「他人の過去を散々ほじくっておいてそんなのが通用すると思ってんのか? 言えよ、てめぇらはどこの誰で、何でヴィルヘルム・ヒルデブラントの使いっ走りなんかやってんだ?」


 アーニャと見つめ合う。

 本当のことを言うべきか。そもそも信じてもらえるのか。

 すると、アクセルは苛立ったように述べた。


「安心しろ、誰にも話す気はねぇよ。個人的な興味だ」


 アーニャが不安そうにリーゼロッテに視線を移すと、彼女は慌てて両手を振った。


「わ、私だって誰にも言わないわよ! こんなとこに連れてこられて、役人や軍人は嫌いだし……」

「あぁ、それは俺が先帝に交渉した結果ですよ」


 アクセルが何気なく放った一言に、リーゼロッテの目が点になる。

 どうやら知らされていなかったようだ。


「は? ちょっと待って、どういうこと?」

「ほら、さっさと聞かせろ。お前たちは何者で、目的は何だ?」

「ちょっと! 私の質問に答えなさいよ!」


 掴みかかるリーゼロッテを脇によけ、アクセルは二人を見つめた。

 ここに来た時の殺気や闘気の類はない。

 むしろ彼の表情からは何かを期待しているように感じられて。

 飛鳥はアーニャに目配せした。


「分かった、全部話すよ」

「飛鳥くん、いいの?」


 彼女はまだ不安げだ。


「うん。多分大丈夫、だと思う」


 それから二人は、主にアーニャだが、アクセルとリーゼロッテに話して聞かせた。

 自分たちは神界からやってきた女神と『救世の英雄』であること。

 この宇宙の在り方と旅の目的。

 そして、現在帝国に協力している理由──。


「ふぅん……」


 話を聞き終え、アクセルは考え込むように目を瞑った。

 彼の隣では、理解の範疇を超えてしまったのか、リーゼロッテが口をポカンと開けたまま固まっている。

 当然の反応だ。あなたたちの世界を救う為に別の世界から来ました、なんて聞かされてすぐに信じる方がどうかしてる。


 しかし──、


「話は分かったよ。それにしても……」

「えっ、信じてくれるんですか……?」


 アーニャはアクセルの顔色を窺うように尋ねた。


「あぁ、信じてやるよ。この世界を救うときたか、面白いじゃないか。精々勝手に頑張ってくれ。それよりお前、女神にしては弱くないか?」

「うぐぅ……」


 一番気にしているところを突かれ、アーニャが膝を折る。

 彼女の体を支え、飛鳥はアクセルを睨みつけた。


「もう一度細切れにされたいのか? お前」

「細切れにされた覚えはねぇよ。つまりお前らの当面の目的はロマノーとスヴェリエの和睦で、俺はその為の駒の一つってことか」

「こ、駒だなんてそんな……。私たちは協力してほしいだけで……」


 アーニャの顔が曇る。

 だが、そんな彼女を余所にアクセルは先ほどの疑問に答えた。


「さて、スヴェリエの第八門についてだったな」


 と、彼は指を二本立てた。


「スヴェリエには第八門が二人いる。一人目の名前はクリスティーナ・グランフェルト、貴族の出だ。通り名は『氷の戦乙女』。ヴァルキュリア隊って女だけの部隊を率いている。そして、もう一人だが……」


 そこまで言って、アクセルは押し黙ってしまった。

 何か迷っているように見える。

 飛鳥は先を促した。


「もう一人は、何だよ」

「正直、さっさと降伏した方が無駄な犠牲を出さずに済むと思うけどな」

「そうはいかないだろ。スヴェリエは獣人を差別してるんだ、降伏なんかしたらリーゼロッテだって……」


 アクセルが鼻を鳴らす。


「リーゼロッテさん以外の獣人のことなんぞ知るか。話を戻すぞ、もう一人は焔恭介(ホムラキョウスケ)。『焔王』と呼ばれる、この大陸最強の精霊使いだ」

「焔恭介……」

「どうだ? 差は理解できたか?」


 飛鳥は神妙な面持ちで頷いた。

 スヴェリエには規格外の精霊使いが二人。

 対してロマノーはアクセルと第七門の集団である『八芒星(オクタグラム)』のみ。


 この差を埋めるには……。


「どちらかを説得できないかな? 向こうの中からも停戦の声があがれば……」

「焔は無理だ、国への忠誠心のみで戦ってるようなやつだからな。スヴェリエ王が大陸統一を宣言している以上やつは止まらん。グランフェルトの方は実際に話してみるしかねぇな」

「そうだな……」

「アクセルさんはそういう情報をどこから?」


 アーニャの問いかけに、飛鳥は顔を上げた。

 言われてみればその通りだ。

 アクセルはこの八年間フラナングの館から出ていないのに随分と情勢に明るい。

 彼が答える前に、リーゼロッテが嫌そうに自身を指差した。


「私が集めてるの。私は近くの村までなら外出を許されてるから、その時に動物たちに教えてもらってね」

「そっか、獣人は動物の言葉が分かるもんね。いいな〜私も話してみたいな〜」


 そこにアクセルが割って入る。


「で? どうやって俺をここから出してくれるんだ?」

「ん〜。それは……」


 飛鳥が考え込んでいると、ある精霊術が浮かんできた。

 それは館に入る前に視たもので。


「そうだ、霊装を作ればいい」

「あ? 霊装?」

「この館を覆っている、お前にエレメントを供給してる精霊術。それを再現する霊装を身につければ外に出ても平気な筈だ」

「ほぉ。ならそれを作って持ってこい」

「あ、でも……こんな複雑な術式、霊装に組み込めるのかな……?」

「ソフィア・リスト」


 悩む飛鳥に、リーゼロッテが声をかけた。


「え?」

「まだ帝都にいた頃に聞いたことがあるの。私と同じ猫人族に天才霊装技師がいるって」

「その人が、リストさん……?」


 リーゼロッテが少し顔を赤らめる。

 飛鳥は微笑み、礼を伝えた。


「ありがとう」

「まぁ、アクセルを許してくれたから……」


 リーゼロッテはボソボソと呟いた。

 話は終わりと言いたげにアクセルが踵を返す。


「とりあえず今日はここに泊まっていけ。リーゼロッテさん、二人の世話をお願いします」


 それだけ言うと、彼は館の奥へと消えてしまった。

 突破口が見え、アーニャは嬉しそうだ。


「良かったね、飛鳥くん」

「うん。帝都に戻ったらリストさんを探そう」


 そう言って、二人は微笑み合った。

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