第1話 運命の出逢い
──声が、聞こえる。
可愛らしいのに、どこか艶っぽくも感じる女の声。
歌……?
その声が奏でるメロディは、昔好きだったアニメソングに似ていて。
皇飛鳥はゆっくりと目を開けた。
「ん……ここは……?」
視界に映っているのは真っ白い天井だ。
傷も汚れもない、石造りの真っ白な天井。
でも、だからこそ、飛鳥は少しだけ視線を動かし、もう一度同じ疑問を口にした。
「ここはどこなんだ……? 僕は、何を……」
自宅とも職場とも違う、少なくとも自分の生活圏内では見たことのない場所だ。
戸惑いながらも飛鳥は起き上がった。
頭痛がし、頭に手を当てる。
そのまま周りを見ると、そこは壁も床も真っ白な部屋であった。
広さは六畳ほどだろうか。
部屋にあるのはテーブルが一つと椅子が二脚だけ。
それ以外何もない、殺風景な部屋。
どうしてこんなところにいるのか、自分の身に何が起こったのか、思い出そうとすると再び鋭い頭痛が襲ってきた。
「痛っ! ……って何だこれ!?」
着ている服が目に入り、引きつった声をあげる。
仕事で毎日着ているスーツだが、ところどころ破れ、砂埃と黒ずんだ血でボロボロになっていた。
慌ててワイシャツをめくり怪我がないか確かめるが体は綺麗なものだ。
飛鳥は益々混乱してしまった。
血が出ている箇所はない。
なのに着ているスーツは思いっきり地面を転がったようにボロボロで。
これじゃまるで、事故にでも遭ったみたいな……。
やはり何も思い出せない。
そうしていると、足音と共に先ほどの女の声が近付いてきた。
「あっ、目が覚めたんですね。良かったぁ」
ビクリと肩を震わせ振り向く。
だが、彼女の姿を見た瞬間、先ほどまでの疑問も混乱も一気に吹き飛んでしまった。
「あのっ、ここは、いや、あなたは……」
自分でも引くほどに声が上ずり、恥ずかしさで顔が熱くなる。
そこに立っていたのは、まるで異国のお姫様のような女であった。
腰まであるプラチナブロンドの髪に、透き通るように白い肌と薄い紫色の瞳。淡い桃色の唇。
ややつり目だが、垂れ眉のおかげか威圧感はない。
年齢は二十代前半といったところか。
女が優しく微笑む。
そのあまりの可愛らしさに目が離せなくなり、飛鳥は言葉を失った。
鼓動が速くなり、胸が締め付けられる。
全身に甘い痺れを感じ、呼吸が浅くなる。
それでも、彼女を見つめたまま動けなくなってしまった。
か、可愛い……! めちゃくちゃ可愛い!!
この感覚には覚えがあった。
今までの人生で何度か味わった──そう、これは紛れもなく。
一目惚れだ。
飛鳥が何も言わないのを不思議に思ったのか、彼女は少しの間首を傾げていたが──。
「ご、ごめんなさい!」
と、持っていたトレーをテーブルに置き、駆け寄ってきた。
思わず姿勢を正す。
しかし、彼女が告げた言葉に、飛鳥は口をポカンと開け間の抜けた表情を見せた。
「失礼しました、まずは私から名乗らないとですよね。私は女神アニヤメリア、最高神様に仕える神々の一柱です。どうかこれからよろしくお願いしますね、救世の英雄様」
「…………はい?」