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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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彼方の先へ

 ――天霊としての活動は、ひたすら淡々と続けられた。旅の目的を達成した俺は、世界を眺めながら時折それに介入し、魔王と戦う人を支援し続けた。

 一方でフィーナについては……まさかペンダントを介してここに干渉してくるとは思いもよらず、驚きつつも俺は彼女を快く送り出した……そう思っているのだが、


「所詮それも、独りよがりか」


 結局は自分本位であったのだろう。でもそれしかないと考え実行したのだ。後悔はない。

 花畑で邂逅した後、俺は意識的に彼女のことを見ていなかったのだが……どうやらゼルシアから離れたらしいことだけはわかった。けれど、それ以上のことを調べるつもりはなく、彼女の存在は観測できなくなった。


 これでいい、と俺は内心で呟きながら……あることに気付いた。それはフィーナと再会した一瞬の出来事。あの時彼女は確かに、俺のことを思い出していた。封じられていた記憶が戻ったわけだが……それはこの空間を訪れたためだろう。天霊となった俺の魔力で満ちているため、代償を一時的にはね除けた。

 つまりここへ呼び寄せればフィーナ達の記憶は戻る……でも、それはあくまでここにいる間だけだ。意味はないと思いながら、城の中から花畑を見下ろした。


「もうペンダントもどこにあるかわからないし……ジェノやゲイルはどうしているんだろうな」


 そう呟きつつも、調べようとはしなかった。魔王との戦いは終わった。もうエルーシア王国に関わる理由はない。

 それに、観測できるからといって無闇にやるべきでないというのも自覚できている。だから俺は干渉を必要最小限に留めていた。果てのない魔王との戦い……それを助けながらも、人の社会に対し干渉しようとはしなかった。


 これは正解なのか、それとも間違っているのかもわからない。けれど、長い時間で答えを見いだそう……そんな考えを抱き、俺は窓から視線を外そうとした。

 けれど、その時……花畑の中……そこに人が歩いているのを目に留めた。


「……客か」


 天霊か魔族かと思い直し俺は目を凝らした。ここを訪れるケースもごく稀にあった。久方ぶりだと思いながらどういう存在なのかを確認し、


「……え?」


 一つ呟いた。それと共に、俺は弾かれたように部屋を出て、廊下を走り出した。






 この領域内であれば、俺は城からあらゆる場所を観察できる……でも、そうではなく間近で確かめなければ、と思い俺は城を飛び出した。

 花畑を歩く人間の姿が見える。しかも一人や二人ではない。あり得ない、と俺は思いながらそちらへ駆ける。何か突き動かされるような衝動を抱きながら、俺はひたすら突き進んでいく。


 そうして俺は、その一団と顔を合わせた……同時に、もう一度心の中であり得ないと思った。


「どう、して……」


 ――俺の前に立っていたのは、フィーナだった。最後の邂逅から数年……少しだけ大人びた彼女が、そこにはいた。

 その後ろには、パトリ、ゲイル、ジェノ……さらに、エイラ王女の姿まであった。フィーナと共に、ここを見つけ出して辿り着いた。口で言うのは簡単だが到底あり得ないと思った。


 俺が旅をした事実は残っているため、細い糸をたぐり寄せて進むことはできたはず。けれど、そうだとしても――


「一度だけ、アレスとここで顔を合わせた時、ある女性の姿が私の頭に刻み込まれた」


 フィーナが、話し出す。


「天霊という言葉と共に、アレスを救いたければここを訪れるしかないと」

「フィーナ……」

「あの女性は、全てを予期した上で私に力を授けるために一計を案じていたんだと思う……全ては、天霊として世界を見据えるアレスを助けるために」


 ……俺は、苦笑した。まさかそんなことまで考慮していたとは、あの女性は――


「アレス」


 そしてフィーナは、俺へ告げる。


「今度は、私がアレスを助ける番」

「フィーナ……」

「反対されようが、私は目的を成し遂げるまで帰らないからね? それに、この空間の外へ出ても私の心には大切な人を救うという感情が刻まれている……だからもう、アレスを見失うことはない」


 途端、フィーナの顔に笑顔がこぼれた。聖女となってから初めて見る……太陽のように輝く笑みだった。


「……はは」


 俺は小さく笑い返し、泣きそうになった。それと共に、俺は彼女がここを訪れた事実を……本心から、喜んでいた。


「でもフィーナ、具体的にどうするんだ?」

「今度はアレスの代償を消す。そのために、私は全力を尽くす」

「それは……」

「どれだけ掛かるかわからない。でも、私はやると決めたの。エイラ達も、納得してもらっている」


 後方にいた仲間達は全員頷いた。それを見て俺は、


「……まったく、強情極まりないな」

「それはアレスだって同じでしょ?」

「そうだな、その通りだ……長い話になる。まずは城に入ろうか」

「うん」


 俺達は揃って歩き出す。そしてフィーナは、俺に向かってこれまでの旅路について語り始めた。

 横を歩く彼女はとても嬉しそうで……この時を、彼女は待ち望んでいたのだとわかった。


 ――天霊となった俺と人間のフィーナがどうなるのか、未来はわからない。でも、俺は……希望を願い、歩み続けよう。そう思いながら、仲間達と共に城へと歩み続けた。


完結となります。お読み頂きありがとうございました。

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