真実を知るために
ペンダントから発せられる力が、フィーナの魔力に反応した。無意識の内に魔力を発してしまった――反射的にペンダントを離そうとしたが、遅かった。エイラ王女を含め会議室にいた者達が驚く中で、フィーナの目にはこことは違う景色が映った。
それは、綺麗な花畑。この世のものとは思えない景色の中で、一人の男性が佇んでいた。
そしてどうやら相手は、フィーナのことが、見えている。少し驚いた顔をしたその男性は、少しすると微笑を浮かべ、
「……そうか、ペンダントを通して覗き見たのか」
あなたは――フィーナは声を発しようとしたが、できなかった。けれど、瞬時に悟った。今ある光景。これを手放せばもう、目の前の男性のことはわからなくなると。
ならばどうすればいいのか――反射的にフィーナは全身に力を込め、魔力を発した。途端、自分の体が会議室を離れこの花畑に吸い込まれるように降り立った気がした。
もしかするとそれは、精神だけ分離したのかもしれない。思わぬ行動に男性は目を見開き、
「おいおい、ずいぶん無茶を――」
「あなたは、私の代償を消して満足しているのかもしれない」
必死に、何かをたぐり寄せるように――絶対に離さないと決心するように、フィーナは言葉を紡ぐ。
「でも、私は納得していない! あなたは――アレスは、私にとって大切な人だったはずなのに! それを思い出せなくなって、そんな終わり方でいいはずがない!」
男性は、またも目を見開いて驚いた。気付けばフィーナの目からは涙がこぼれ、必死に訴えるように、
「自分が消えれば全て丸く収まるなんて、そんなはずがない……私は、私は……」
ああ、そうだ――フィーナは思い出した。八歳の時、女神リュシアの魔力を持つとして聖女としての人生を歩み始めた時、その傍らには幼馴染みの男の子がいた。
自分にとって彼の存在はとても大切で――顔を上げる。花畑の中で、絞り出すように。
「……アレス」
それは奇跡と言うべきことだったかもしれない。湧き上がる感情と記憶。彼の代償は記憶を消すのではなく封じていた。だからこそ今、フィーナの頭の中に蘇った。彼と共に戦った記憶が。
「私、は……」
「……ごめん、フィーナ」
全てを悟ったように、アレスは悲しそうに笑みを見せた。
「全部、俺の独りよがりだったのは認めるよ。けれど、フィーナの代償を消すにはこれしかなかった……真実を知れば怒るのはわかっていたよ。でも、俺は……フィーナのことを救いたかったんだ」
アレスは近寄り、右手をかざす。何をするのか――そう思った時、フィーナは自分の体が引き戻されるのを自覚した。
「これで最後にしよう。俺はもう、人の身ではなくなっている。この世界の秩序を担う者として生き続ける……フィーナ、どうか元気で」
「アレス……!」
意識が途切れる。次の瞬間、フィーナは自身を呼ぶ声で覚醒した。
「大丈夫!?」
エイラ王女の声だった。気付けば自分は床に座り込み、俯いていた。
右手にペンダントを握りしめ、目には涙が一筋落ちていた。けれど、わかるのはそれだけだ。ペンダントを手にして一瞬の間に何かがあった。けれど、それが何なのか上手く思い出せない。
でも、そうした中で得たものがあった。一つはそれがとても大切なことであると確信できたこと。そしてもう一つは、まったく別の思念。
フィーナの頭の中に、今まで想像したこともなかった単語が浮かび上がってきた――天霊。それが何を意味するのか、判然としないながらフィーナは、ある女性の顔を思い浮かべた。
笑みを浮かべたその女性は、フィーナへ語りかける――彼を救いたければ――と。
だからこそ、
「……エイラ」
フィーナは王女へ呼び掛ける。その声音がひどく穏やかであったため、慌てふためいていた面々が動きを止めた。
「お願いがあるの。今から言うこと……それは間違いなく、多くの人を裏切ることになる」
一つだけ記憶に残っていた。それは幻想的な花畑の中に、男性が立っていた。その人物はフィーナにとって大切な人だったはずで、
「でも、私は……」
「魔王が消えた以上、聖女の役目も終わりを迎える」
そしてエイラは、全てを理解するように応じた。
「何を言うか理解している……だから、こう言わせて。私達も、真実を知るために手を貸す」
「そうだな」
と、次に声を上げたのはゲイル。
「女神リュシアの力。その役目は終わった。だからこそもう、縛られる必要もない。俺も手を貸す」
それに続くようにパトリもジェノも、頷いた。小さな会議室において、一つの決意が成され、すぐさま全員が行動を開始した――




