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能力検証

 俺とゲイルが受けた依頼の場所は、ゼルシアの町から数時間程度の歩いた先にある農村だった。隣接する森で魔物を目撃したため、退治して欲しいというもの。俺達はまず村の人から話を聞く。そこで、人間の子供ほどの身長を持つ存在だと聞かされた。


「ゴブリンだな」


 俺が断定するとゲイルや騎士パトリは同意するように頷いた。


 ――魔物には二種類いて、魔族や魔王が配下である悪魔のように作り出した存在か、あるいは人間と同じく多種族として存在するパターンだ。大きな違いは前者が魔力の塊であり倒すと黒い粒子となって消える。一方で後者は肉体があるためそのまま残る。

 もし多種族であるなら、話し合いもできるし交渉の余地はあるのだが……そもそも魔王城からそう遠くない場所で、多種族も近寄らない。十中八九魔族が生み出した存在だろう。


「確認だけど、俺が前に出て三人は手出しをしない、でいいんだよな?」


 目的はあくまで手に入れた力の検証だ。当然俺が前線に立たないと意味はない。


「はい……ですが」

「万が一、ということもある」


 パトリの言葉に続き、フィーナが口を開いた。


「だから、私が援護する」


 他ならぬ聖女フィーナの助力……これ以上にないというくらいの助けだ。


「わかった」


 承諾し、俺達は森へと入る。冒険者として幾度となくこうした場所に入り込んでいるが、隣にフィーナがいるということで、なんだか緊張してくる。

 するとそれにフィーナは気づいたらしく、


「大丈夫」


 そう俺へ告げた。次いで見せた微笑は、幼少の頃に見せたことのない、戦士としての表情だった。


「……ああ」


 俺はそう返事をした後、気配を察知した。最弱無能と呼ばれていた時は、魔力などロクに感知できていなかったのだが……今の俺は把握できる。

 村人の目撃情報通り、子供と同等の背丈を持つ子鬼……ゴブリンがいた。肌の色などは様々だが、今回は黒い体を持ち、全身を鎧みたいな硬い皮膚で覆っている見た目をしていた。


 同時――ギヒャヒャヒャ! と、ゴブリンの声が聞こえた。こちらを標的と見なした……俺は剣を抜き、フィーナもまた臨戦態勢に入った。

 そしてゴブリンが俺達へ向け走り出す……数は二体。俺は意識を前方へ集中させると――もうその時点で、謎の剣を手にする前とは大違いだった。


「これは……」


 真正面から突き進んでくるゴブリンの魔力を大いに感じ取ることができた。それは体表面から湯気のように湧き立つような感覚。そればかりか、視界には入っていない別の個体も認識する。加え、その魔力の大きさから能力を看破した――


 頭の中で情報をまとめる間にゴブリンの一体が先陣を切り飛びかかってきた。その右手には棍棒のような武器。いつもならまず攻撃をかわしてから反撃だが……俺は『炎の魔人』を両断した光景を思い出す。膨大な魔力を持つ存在ですら斬った以上、目の前の魔物も両断できると考え、一閃した。

 果たして――俺の剣と魔物の棍棒が激突した、と思ったら俺の剣は易々とゴブリンすらも両断した。そして目の前のゴブリンが塵になる……やはり魔族が生み出した個体のようだ。


 次いで迫ってきたゴブリンも、棍棒を振りかざすより先に剣を振って対処する。この剣を手にするより前と比べ、魔力強化により根本的な身体能力も上がっている。武器の威力以外に、魔力に関する能力全般が向上しているのだとわかった。

 そして後方からさらなるゴブリンがやってくる。俺は前に進み出て、今度は魔力を込めず剣を振ってみた。再び棍棒と激突し……今度はガキンと音を立てて止まった。魔力がなければなまくらな剣……ここで俺は後追いで剣へ魔力を注ぐ。ただその量はほんのわずかなもの。


 どうなるのか――棍棒に刃が食い込む。そこからは何一つ感触がなく……今度こそ武器ごとゴブリンの体を両断した。 

 そして三度剣を振ったことで、俺は一つの結論に辿り着いた。


「まったくわからない……」


 魔人との戦いで感触がなかったけれど、魔力を少量でも剣に付与したらそうなるらしく、剣の能力についてわかったのは、とんでもない切れ味ということだけ。

 ゴブリン相手では、魔人を斬った時のように全力で応じる必要性すらない。結局どのくらいの力を持つ剣なのかまったくわからない……試し切りではあるし、少量の魔力でも魔物を易々と撃破できるのはわかったけど、それ以上のことは不明なままだ。


 他にわかったことは、体力面について。それなりに動いたが、まったく疲れない……本来、一般的な戦士ならこのくらいの戦いで息を切らせることはない。それは魔力により体を強化し体力も増えているから。

 けれど最弱無能な俺の場合、ゴブリンと一体戦うだけでも肩で息をするレベルだった。しかし今回はそんなことはないし、魔力が純粋に増えたことで相手の動きすら推測できるようになっている。


 剣術そのものは、俺が冒険者として生きていく上で必須だったため、無能なりに鍛錬はした。けれどそうした技術も基本は魔力を使う前提であるため、十全に鍛錬の成果を発揮できたわけではない。だから俺は女性から力をもらったことで、ようやく体得した剣術を完璧に扱えるようになったわけだ。

 努力が報われたと言うべきか、それとも今まで無能なりに頑張ってきたのは何だったのかと思うところなのか……微妙だと考える間に戦闘が終了。ゴブリンの姿が目の前から消え失せた。


「……どう?」


 フィーナが尋ねてくる。そこで俺は、


「斬った感触がないな。あの『炎の魔人』を一刀両断するくらいだから、当然かもしれないけど」

「手近にいる魔物では、検証も限界がありそうだな」


 と、ゲイルが近寄ってきて俺に声を掛けた。


「その剣の力は俺達の想像以上にとんでもないレベルなのかもしれない」

「だとすると、検証するなら強力な魔物と戦わないといけない……でも、おいそれと出会えるものでもないし、危険だろ」

「一番手近な相手は『刃の魔人』かな」

「おいおい……」


 さすがにそれは無茶だろ……と思いつつフィーナの方へ首を向けると、じっと剣を見据えていた。

 力の大きさに驚いているのか、それとも――もしかして、この剣が自分の地位を脅かすのではないか、などと考えていたりするだろうか?


 現在まで、フィーナの心情はわかっていない。正直、彼女自身が口を開くまで待つ気だったのだが……これを機に尋ねるべきか。それとも、


「……体とか、痛くない?」


 やがて、フィーナが俺へ向け口を開いた。こっちが「大丈夫」と答えると、今度は視線を俺へ向けた。


「本当に? 腕がきしむとか、足に違和感とかは?」

「え、あ……と?」

「魔力によって体も保護されているみたいだけど、突然宿った力だし、何が起こってもおかしくないから」


 そこで突然、フィーナは剣を握る右腕をとった。魔力の多寡を見定め、異常がないか確認しようとしている。

 純粋に、心配してくれている。これから共に戦うことになるかも、という状況だしある種当然かもしれないけど……まあ国側としても戦力として勘定に入れるなら、フィーナがこんな風に心配するのも――


「アレス」


 それは、俺の目を見ながら言った。どうやらこちらが何を考えているかわかったらしい。


「心配するのは、当然でしょ?」

「……ごめん」

「謝ってばかりだね」

「そうだな……心配掛けてばかりだ」

「村で一緒に遊んでいた時も、アレスの無茶を止めるのが私の役目だった」

「そうだったな……俺は昔から、全然変わっていないってことか」


 俺は苦笑し、その直後、釣られて……フィーナも笑った。それは幼い頃、一緒に遊んでいた時に見せていたのと、ほとんど変わらないものだった。


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