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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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世界を変える力

 先ほど遭遇した天霊の紳士は滅ぼしたと言っていた。けれど実際は――


『最初に言っておくけれど、本体は既に消滅しているの。ここに残っているのは、わずかな力のみ』


 そう彼女は俺へ告げた。


『こうして話をするくらいしかできないけれど……最後、あなたに会えるまで残っていられたのは、良かった』

「……それは……」

『最後に、あなたにいくつか話をしておこうかと。ああ、その前にあなたの力について説明しないと。なぜ、あなたは天霊に対してすら圧倒的なのか。これはそれほど複雑な話ではない。単純に、あなたにそれだけの力を注いだから……もっとも、他ならぬ私自身も半信半疑だったけれど』


 そう言いながら女性は小さく笑った。


『魔王と戦えるだけの……天霊と渡り合えるだけの力を与えた。けれど、私自身ここまで深く干渉したことはなかったから、自分の望む通りの力を与えられているのか、不安だった』

「でも結果的に、成功した」

『そうね。あなたはそれこそ、この世界を変えるだけの力を持っている』


 その言葉に対し、俺は……何も声を発しなかった。正直、戸惑いの方が大きい。


『ピンと来ていないようね』

「それはまあ、そうだな」

『当然、でしょうね』

「最大の問題は、この力によってフィーナの代償を消し去ることができるのか、だ」


 俺の言葉に女性は沈黙する。それはやはり――


『……力を行使することによる影響ならば、対処はできるでしょう。けれど力を使うことによる代償……根本的に、力を手放さない限りは本来は難しいでしょう』

「でもフィーナは、聖女だ。代償を背負おうとも絶対に力は手放さない」

『そうね、あの子は間違いなく、聖女として人生を全うするでしょう……可能性があるとすれば、新たに彼女へ力を付与する』

「力を……付与?」

『彼女が持っている力を上書きする。代償を消すのではなく、例えば力を使うことで記憶が消えるという代償に対し、新たな力を付与することで逆に消えた記憶が戻るようにするとか』

「つまり代償そのものを消すのではなく、別の何かで補完すると」

『そういうことね』

「……でも、俺にそれはできるのか?」

『私が持っていたこの領域を自在に操作する権能……その鍵があれば、可能かもしれない』


 ――先ほど、紳士の天霊が語っていたことか。


『ただし、これはあなたにもう一つの代償を与えることになる』

「それは?」

『権能を手にした時点で、あなたは人の身を捨てることになる』


 ……つまり、俺自身が天霊になるということか。


『他者の記憶から消える代償……それにより、あなた自身人が暮らす場所で生き続けることは難しい、と考えていることでしょう』

「そうだな。俺の存在は厄介の種にしかならない」

『ある意味、そういう性質だからこそ、人の身を捨てることも構わないと考えるかもしれないけれど……天霊というのは、膨大な力を持っているにしろ非常に不自由な存在よ。力を持っているが故に、様々な制約も存在する』

「オススメはしないって言いたいのか?」

『そうね。正直なところ、天霊には――』

「でもそれが、フィーナを救う残された方法なんだろ?」


 その問い掛けで……女性の口が止まった。


『どうあっても、彼女のことか』

「おかしいと思うか?」

『……あなたにとって、聖女フィーナが大切な人であるのは私も理解している。けれど、本当に……本当に、全てを捧げてまでやることなの? あなたが全てを背負う必要は、あるの?』

「……傍からすれば、異様と感じられてもおかしくはないと自覚している」


 女性の問い掛けに、俺は苦笑しつつ答えた。


「それと一つ勘違いしないで欲しいのは、俺は彼女に振り向いてもらいたいからやるとかじゃない。これは完全なる自己満足だ」

『……あなたは、彼女のことが好きだったわよね?』

「ああ、そうだな。今でも好きだ。でも、そういう気持ちに加えて、色々な感情……その全てが混ざって、俺はここまで来た。そして、権能を手にして彼女を救うと決めている」


 ――女性にとって、俺の言葉はどう感じたのだろうか。そこからは長い沈黙があった。俺はただ彼女を見据え、次の言葉を待つ。


『……どうあっても、やり遂げようというつもりみたいね』

「そうだな」

『でも、彼女がこの世界から消えたら? 天寿を全うし、彼女が世界から別れを告げたら……あなたはどうする? 天霊となる以上、あなたは人の寿命を遙かに超えて生き続けることになる。その時――』

「正直、どうなるかわからない……でも、フィーナが色んな人々を救ったように……俺も、人を救い続けると思う」

『……そう』


 女性はそう呟いて、再び沈黙した。

 けれど今回の静寂はそう長くはなかった……やがて女性は、


『なら、私は……あなたに鍵もありかを教えて消えることにするわ。あなたの旅路……果てのない旅に幸あることを、祈っているわ――』


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