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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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訪れた城で

 こんな辺境で城のような建物があるのは何故だろうか……などと考えたが、すぐにその理由は明確になった。花畑に踏み込んだ時点で天霊の領域に入ったためか、肌が粟立つほどの魔力を感じた。

 夢を通して訪れた時にはなかった感覚だが、肉体を持っているからこそ理解できる……ということなのだろう。俺は少しずつ花畑の中を進んでいく。思えば、全てはここから始まった。


 突然無茶苦茶な力を手に入れて、魔王と戦うことになり……結果から言えば勝利した。無論、それには代償があるわけだが……それでもフィーナは救われた。あのまま戦えば彼女はきっと無事では済まなかっただろうから。

 よって、俺がこうして力を得たことは良かったし、自分でも納得している……俺に力を授けた天霊と顔を合わせ、どうするのか。それは今から、ゆっくりと考えればいい。


 綺麗な花畑を進み、夢で見た泉を横目に、俺は城へ真っ直ぐ向かう。邪魔立てする存在はいない。夢ではないから目が覚めることもない。

 俺の足は止まることなく、いよいよ城へと辿り着き……中に入ると、静寂に包まれていた。


「……俺と話をした場所にいるのか?」


 呟きつつ、俺は天霊と話をした場所へ向かう。その道中で、一つだけ気配を見つけた。

 間違いなく、あの女性だ……そう思いながら廊下を歩み、俺は扉の前に辿り着いた。


 一つノックをする。だが反応はない……が、ここまで来て背を向けて帰るわけにもいかない。


「入るぞ」


 ドアを開ける。鍵は掛かっておらず……中は……俺の予想外の状況があった。


「……ん?」


 室内にいた存在が、首を向けた。そして目が合った時、


「……お前は、誰だ?」


 そこにいたのは女性ではなく、男性だった。貴族服のような物を着込んだ紳士。部屋には他に姿はなく……俺は目を細め男を訝しげに見据える。

 当然ながらこんな所に人間がいるはずもない……魔力を探れば、内に秘める力の大きさは相当なもの。間違いなく、紳士もまた天霊だ。


「ほう、まさか人間がこの場所へ足を踏み入れるとは……ふむ、あの女が言っていた人間か?」


 あの女――そう告げた時点で目の前にいる紳士が天霊の女性に対しあまり友好的ではないのだろうと察することができた。


「おそらくは、そうだ」


 けれど話を進めるために応じると、紳士は小さく肩をすくめた。


「なら残念だったな、ここへ来たのは無駄足だよ。少しばかり前に、あの女は滅ぼしたからな」

「……何?」


 どういうことだ……? 疑問に思っていると紳士がさらに続けた。


「ふむ、わざわざこんな所まで来たのだ。解説くらいはしてやろう。天霊という存在に対しどこまで知識があるのか知らないが、私達は魔力を糧にして生きている。そして魔族を滅ぼすために尽力している」

「それは聞いたが……」

「それと同時に、天霊同士も争いがある」


 争い――その言葉を聞いて俺の顔は険しくなる。


「人間同士が小競り合いをするのと同じだよ。しかし、戦うというのは非常にリスクの伴う行為であるのは間違いない。魔力を浪費すれば、それだけ寿命が縮む……死期が迫るという問題があるため、元来天霊同士は争わないし不干渉だが……私のように、天霊から力を奪い我が物としようという存在もいるという話だ」


 ――俺は目を凝らした。目の前にいる紳士から、確かにこの部屋で話をした女性の魔力を感じ取ることができた。


「あと十日早ければ、間に合っていたかもしれないが」

「そうか……それであんたは何をしている?」

「この場所を拠点にしようと思っていて準備をしているところだ。この領域は天霊のすみかとしても最高クラス。よって、ここに新たな城を作る」


 紳士は笑みを浮かべた。この場所に建造する城……その完成図を描き、笑っている。


「ここに存在する魔力があれば……大地に眠る力があれば、死に怯えることはなくなる。私が……私こそが、天霊の頂点足る存在だ」

「……ここにいた女性は、天霊にとってどういう存在だったんだ?」


 俺はさらに問い掛ける。答えが返ってくるのかどうかはわからなかった。しかし、


「天霊の王と豪語していた存在の血筋だ。天霊をまとめ上げていた存在の血を持っていたから、こんな大層な場所に居を構えることができた。まったくふざけている。天霊を束ね、魔王を滅ぼすという役目を放棄し、今までのうのうと生きていた」


 紳士はここで興奮したのか、俺が訊かれてもないようなことを喋り始める。


「後はこの領域に存在する魔力を操作する鍵があれば……それさえあれば、死ぬことはなくなる……だが、見つからない」

「それを探すために城を歩き回っていると」

「城だけではない。まったく、あの女は最後まで面倒を掛けさせる……人間、お前がここに来た目的は知らないが、見たところ力を得て魔王を倒そうとする人間だろう? その役目は私が担おう。お前は自由だ。好きにすればいい――」


 ――正直、天霊の女性がどうとか言うつもりはなかった。でも、代償と引き換えにしたにしろ、俺はあの女性から力を受けたのだ。

 だからなのか、俺は一つの結論を導き出す……目の前にいる天霊は、正真正銘の敵であると。


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