予想外の展開
最終的に俺は、森にいる魔物を駆除してくれという依頼を受ける。ゲイルは特に意見することなく仕事内容に同意した。
その日は宿へ入りゆっくりと休み――翌日、俺は冒険者ギルドが開く時間に合わせて建物を訪れた。朝早くであるため人も少ない。受付で来た旨を告げると、奥にある客室へ案内されて待つことになった。
「俺の力に関して、だよな?」
「一日間を空けたのは、軍部と話をするためだろうな」
ゲイルの考察に俺は間違いないとばかりに頷く。気になるのは、フィーナとの関係性について国がどう思っているか、だ。
フィーナの幼馴染み、という事実は面倒ごとを招き寄せる要因になる。普通なら幼馴染みだからどうしたと切り捨てるだけで終わるわけだが、聖女に近づく存在として煙たがられる可能性は十分ある。
だから俺が冒険者になった目的については、同業者はおろか育ての親にも話していない……あくまで胸の内に秘めたことだ。
「……俺も一応、関わりがある人間ってことで訊きたいことがある」
隣同士でソファに座る中、ゲイルは俺へ問い掛けた。
「答えたくないなら言わなくていいが……アレス君が冒険者になったのは、聖女様と会いたいがためか?」
俺は黙ったまま彼を見返した。どこか陽気な態度を崩してこなかった彼だが、質問をした直後に真面目な顔つきとなった。
俺の心情を探る質問であるため、毅然とした態度である必要があると考えたのだろう。そこで俺は答えようか一考し、
「……ちゃんと向かい合って再会し、話がしたかった」
「話?」
「別に、フィーナの傍にいようとか、聖女であることを止めさせようとか、そんな大層なことを考えているわけじゃないんだ。俺は……八歳の時、儀式を受けて何も言えず姿を消したフィーナに対し、せめて声くらいは掛けられただろうと後悔してる」
「話をしてどうするんだ?」
「別に……元気でやっているのならそれでいい」
ゲイルは腕を組み、俺の返答を吟味し始める。
「なるほど、な……聖女という称号に捕らわれている彼女を救うとか、そういう感じじゃないのか」
「俺は今、フィーナがどう思っているかは知らない。だから俺の願いなんてそれこそ独りよがりの話だろ? もし彼女が望まぬ形で振る舞っているなら、それを是正はしてあげたいと思うけど……俺にやれることは限界があるから難しいかもな――」
会話をする間に、ノックの音がした。俺が返事をすると同時に扉が開き、昨日声を掛けてきた女騎士が姿を現した。
ただ格好が鎧ではなく、冒険者風の……さらに、彼女の後方に一人の女性が。白いマントにフードを被っているのだが――
「……え?」
声を上げると同時に扉が閉まる。そこで女性はフードを外す……フィーナだった。あまりの展開に、俺は言葉を失う。
「どういうことだ?」
代わりにゲイルが問い掛ける。そこで女騎士の方が答えを示した。
「私からご説明を。戦いの結果については真実を国へ報告しました。今日はその内容をご説明する予定でしたが、それだけでなく……結論から言えば『炎の魔人』を倒した者と、関係を深めておけと」
「国がってことか? でも、それにしたって聖女様が――」
「これは、私が要求したの」
フィーナが口を開いた。そして俺達の対面にあるソファへ座る。
「他ならぬ私の幼馴染みである以上、悪さはしないだろうって国の人は言った。でも、大きな力である以上は見定める必要がある」
「それで、聖女様自身が?」
「うん」
――ここに来るまでに、色々とあったのだとは思う。でもフィーナは、自らの意思でここに来た。
「改めて……久しぶりだね、アレス」
「あ、ああ……」
頷きつつ、何を喋ろうか必死に考える。色々なシチュエーションは考えていたはずなのに、やっぱり言葉が出てこない。
「彼を見定めるっていうのは、具体的に何をするんだ?」
そんな俺とは違い、ゲイルが女騎士へとさらに問う。
「聖女様自身が来ている以上、単なる監視ってわけじゃないだろ?」
「監視しろとは言われていませんよ。英雄になるかもしれない方を観察して欲しいと言われましたが……国側はアレス様に敵意はありません。でなければ、フィーナ様がここに来るということも実現できていません」
それはそうだ。危険人物であったら、フィーナが来るどころか見えない所から四六時中監視されてもおかしくない。
「今後、魔王との戦いが待っている以上、お二方の親交を深める方が良いという判断です」
「なるほど、な……だそうだが、アレス君。何か言うことは?」
俺は首を左右に振った。正直、こちらからは文句の一つもない。結果的に望む状況になったのだから。ただ、
「あの、一ついいですか?」
俺は女騎士へ問い掛けると、彼女は笑みを浮かべ、
「フィーナ様の従者、パトリ=アラディアです。パトリと呼んでください。それに、丁寧な言葉遣いも不要です」
「なら、そうさせてもらうけど……俺達は今日、町を出て魔物討伐の仕事をやろうと思っていたんだけど……」
「それなら私達もお付き合い致します。元々、あなたの力について検証もしたかったのです。援護もしますし、当然ながら報酬はいりません」
……フィーナとその従者が一緒にいてくれるなら、俺としても盤石でありがたい。討伐される魔物の方に同情するレベルである。
「フィーナ様も、それでよろしいですか?」
「うん」
頷く彼女……それに対し、俺はどこまでもフィーナに声を掛けることができなかった。
その後、俺達はギルドを出たがここで懸念が一つ。フィーナについては当然顔も知られている。普通に出歩けばとんでもないことになるのでは――
「問題ありません。既に幻術を展開しています」
騎士パトリはそのように告げた。城から出る前より、魔法を使い姿をごまかしていると。本来町中で魔法を使うのは御法度なのだが……まあ、彼女なら悪さはしないと許可が下りたのだろう。
ただ、もう一つ疑問が。それではなぜフードを被っているのかというと……パトリが説明した。
「フィーナ様は現在、視線にすら魔力を帯びている。その魔力で気づかれる可能性を考慮し、相手と目を合わせないように、ということです」
力を持っていることで、難儀な面もあるって話か……大変なんだなと納得しつつ町の外へ。
そこでようやく、俺はフィーナに対し口を開いた。ちなみにゲイルとパトリは俺達を先導する形で歩きながら雑談を行っている。
「……その、次の戦いはそう遠くないのか?」
質問に対し、フィーナは小さく頷いた。
「話によれば、十日後だって」
「十日……ずいぶんと、近いな」
「ダンジョンでの戦いで犠牲が出なかったことも大きいみたい」
「なるほど……次の相手は――」
「同じ魔人……『刃の魔人』と言われる存在」
その魔人は知っている。拠点である町、ゼルシアに対し西側のダンジョンに陣取っていたのが『炎の魔人』で、東側に拠点があるのが『刃の魔人』だ。それ以外にいる魔人としては、雷と盾がいたはずだ。
昔には他にも氷とか、闇とか、属性を持つ魔人がいたらしいのだが、長年にわたる戦いで少しずつ数を減らしていった。魔人となれるような悪魔が生まれるのはそれこそ百年単位の歳月を必要とするらしく、だからこそエルーシア王国は魔人を倒し数を減らせた。
そして次の目標である『刃の魔人』だが……名の通り、刃――剣を扱う魔人だ。その実力は『炎の魔人』と肩を並べるほどだと言われており、厳しい戦いが予想される。
「魔人……炎に続き刃の異名を持つそいつを倒せばいよいよ、魔王へ挑むってことだよな」
「そういう方針みたい」
「なら、全力で戦わないとな……」
俺は次の戦いに思いを馳せつつ横を歩くフィーナへ目を向ける。街道に人がいないため今はフードを外している。その横顔は十年という歳月を経て大人になりながら、どこか面影を残している……何を話すべきか迷う。
かといって、フィーナとしても俺がなぜ冒険者になったのかなど、尋ねようとしなかった。まだ双方探り合っている感じ……どこか緊張感すら存在する中、俺達は目的地へ向け歩き続けたのだった。