覇権を争った存在
「さて、どこから説明したものか……」
「全部だ」
俺の言葉に魔王は小さく笑みを浮かべる。
「いいだろう、長い話になるが……そちらは問題なさそうだな」
「ああ」
「……始まりは数千年前。まだ人間の繁栄が世界中に行き渡っていない時の話だ。当時、世界の覇権を争っていたのは魔族ともう一つ……それが、天霊と呼ばれる存在だった」
「天霊……?」
「人間が言う神でも天使でもない。かといって、魔族を始めとした亜人種の類いでもない。言うなれば、自然から発生した存在……精霊種などに近しいが、それらとも違う」
「どういう起源で生まれたんだ?」
「世界を駆け巡る魔力が、様々な思念と結びついて生まれた存在……魔力によって形作られた存在と言うべきか。非常に曖昧で、生まれた当初は希薄だったが、それがやがて形を成して自我を持ち、やがて自分達こそ世界を統べる存在であると、戦いを仕掛けた。ただ、それは表立ったものではない」
魔王は一度俺から視線を切った。
「奴らは戦闘能力が高いわけではない……純粋な魔力の塊ではあるし、人間と比べればその力の大きさは比較にならないが、それでも天霊以上の魔力を保有する種族もいた。ただ、奴らは自分の力を他者に振りまくことを選択し、それに特化した技能を持つようになった」
「それが……俺が持っているような――」
「そうだ。天霊は人間を始めとした力の弱い種族に目を付け、信仰を煽り力を強大にした。結果的に天霊は人間などを通して世界を統べるべく戦うようになった……その最大の障害が、私達魔族だ。天霊と私達とは、根本的に魔力が違いすぎており、敵対するしかなかった」
「……そうやって、現在まで戦い続けたと?」
「天霊自身が攻撃を仕掛けてきたケースもあったらしい。それにより魔族も相当な痛手を被った……けれど双方とも滅び去ることはなかったが、天霊には一つ問題が生じた」
「問題?」
「純粋な魔力の塊である天霊は寿命で死ぬことはない。だが、年月が経つごとに自分達の力が……すなわち魔力が減っていくことに気付いた。何かから魔力を補給することも特性上難しく、魔力が尽きれば自壊する……魔族と戦っていた天霊があっさりと消えるのを見て、気付いたらしい」
「魔力の回復ができないってことか……」
「そうだ」
魔王は間を置く。何かを思い返すように……さらに言葉を紡いでいく。
「その特性から、生き残っていた天霊は身を潜ませ、人間などを利用して魔族と戦わせる一方で、自分達が滅ばないような措置を講じた」
「滅ばないように……戦わないだけではないのか?」
「他にも色々だ……貴殿は夢などにおいて、見知らぬ空間を訪れたことは?」
俺は素直に頷いた。それは紛れもなく、あの花畑の場所。
「それは天霊のテリトリーだ。奴らは土地事魔力の特性を変えることで、一定の空間において自分達の力が自然に減らないよう処置を施した。なおかつ、人間に与える力についても、自分達が保有する魔力の技術や土地の力を用いて構築した」
「そうやって俺は、天霊から力を得た」
「そうだ」
「で、お前達は天霊を倒すためにエルーシア王国へ攻撃したっていうのか?」
「この国は特に天霊からの干渉が大きい。だからこそ、ここを攻め落としたい……軍事の観点で言えば当然だ。私達は技術を磨き上げ、人間を圧倒するだけの力を持たせた存在を生み出すことに成功はしたが……それを、天霊が阻んだ」
「俺に力を与えて、だな」
魔王は頷いた。正直、花畑のあの場所を目の当たりにしていなければ、さすがに魔王の話は半信半疑だったかもしれない。
けれど俺は知っている……あの場所で力を得て、俺は強くなった。だからこそ、目を背けてはならない。
「……俺は」
そうした中で、俺は魔王へ尋ねる。
「どういう意図であれ、あんたの同胞を倒した。そうした俺を目の前にして……そちらはどうしたいんだ?」
「天霊を倒して欲しい」
「俺に力を与えた存在を……事情を話せば俺が戦うだろうと考えたのか?」
「これは要求ではない。どのような判断をするのかは貴殿次第としか言いようがない。ただ、天霊を倒すことができれば……もしかすると、記憶を戻せるかもしれない」
記憶を――とはいえ、疑問もある。
「単純に天霊を倒したからといって、そんな上手くいくのか?」
「誰も試したことがないため不明ではあるが、あり得ない話ではない」
……もし、フィーナを救えるとしたら……彼女が代償によって記憶が削られるのであれば、それを解決したいという思いはある。
正直、俺のことはどうでもいい……とまではいかないにしろ、優先順位は下がる。
「……俺があんたの望む答えを出すと思っているのか?」
何気なく俺は魔王へ尋ねる。それに対し相手は、
「私を倒したからといって、そちらの問題を解決することはできない。だが、天霊を倒せばその可能性がある。ここから先は貴殿の選択だ。どうしたいのか」
「俺は……」
魔王がでたらめを言っている可能性は否定できない。けれど――
「俺は……」
もう一度呟き考え続ける。何をすべきなのか……それを必死に考える。一方で魔王は、俺の言葉を待つつもりだった。




