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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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彼の決断

 最初、こちらは緊張し沈黙した。対するフィーナは……こちらの顔を見て微笑を浮かべる。

 それは一見、俺が戻ってきたことを喜ぶ姿にも見えた。けれど、違う。その笑顔は……幼馴染みとしての表情ではなく、聖女としてのそれだった。


 彼女でさえも、俺という存在を忘れている……この町で俺を憶えている人間はいないと確信し、フィーナは俺に背を向けた時、人々の輪の中から抜け出した。

 フィーナが立っていた場所からずいぶんと離れてから、俺は立ち止まり呼吸を整えた。気付けばずいぶんと鼓動が早くなっている。平静を保っているつもりでも、実際はかなり動揺している。それを周囲に気取られないようにしつつ……空を見上げ、ゆっくりと息を吐いた。


「……どうしようも、ないか」


 そして得た結論はそれだった。どうしようもない――理不尽ではあったが、どういう形であれ力を得た結果なのだ。代償があることはフィーナの言葉からも知っていたし、むしろ誰かに被害をもたらすことはないということで、肯定的に捉えることもできる……いや、


「まあさすがにそこまで納得はできないけど……理解はできた」


 魔王はこうなることを知らしめるため、俺を帰らせた……ここで選択肢が生まれる。俺はどうすべきなのか。

 より具体的に言えば、魔王の言葉に従い今一度魔族の領域へ行くのかどうか……誰もが忘れるという状況で、俺がゼルシアにいる意味はない。もう城の中にある自分の部屋にすら戻ることはできないのだ。ここに俺の居場所はない。


 ならば、どうすべきか……しばし考え、俺は歩き出す。まずはゼルシアから出る。

 誰も俺のことを憶えていないというのなら、これはこれでやりやすい。俺の記憶がなくなったことでゼルシアは……そして国は先日襲撃した魔物のことをどう考え、どう対策を立てるのかはわからないけど……俺が魔物を倒した。よって、安全だ。


 なら、俺は次に何をすべきなのか……町の外へ出た。そして進路は――魔王城だ。

 ルダー砦経由では人と遭遇し面倒事になる可能性があるため、険しい山肌に沿って進むことになる。道中、俺は幾度となく立ち止まりそうになるが……それでも、足を動かす。


 魔王は俺に力を得た代償を示し、何を求めているのだろうか。そして、俺自身今後どうすべきなのか……フィーナを守る。その意思は変わらない。例え記憶を失い俺のことを憶えていないにしても、俺自身は彼女のことを憶えている。だから、基本方針は変わらない。

 元々、俺は彼女に再会したいと思って冒険者の世界へ飛び込んだ。それに報酬などは必要なかったし、そもそも再会したからどうとか、そういうものでもなかった……俺の冒険者人生は、始めから自分が納得できるかどうかだけだ。最後の最後で力を得て、一時的ではあったけれど彼女の傍で戦えた……それで、十分だ。


 魔王の配下は倒し、魔物の襲撃もないだろう。であれば俺の役目は終わり……腹の底に理不尽な怒りに対する思いはあったけれど、それを押し殺しひたすら歩みを進めていく。

 そして俺は、何をすべきなのか……魔王と出会ってどうするのか。


 どうやら魔王と女神リュシアとは、何かしら因縁がありそれは思ったよりも複雑なのだとわかった。ならば今度は、それを解明しよう。

 場合によっては、女神リュシアの力を得た人物の代償などを取り除くことはできないか……俺はさすがに力が大きすぎるため難しいと思う。それに、一度消えた記憶が元に戻るとも思えない。ともあれ、女神リュシアの力が異様なものであるのはわかった以上、解決したいという気持ちはある。


 そうこうする内に俺は魔王と再び顔を合わせて何をすべきなのか……回答を得る。まずはそれを魔王へと伝えて、相手の反応を見る……それを目標としよう。

 その過程で魔王が攻撃を仕掛けてきたのなら……倒すまでだ。魔族を倒し続けたことにより、俺は魔王でも戦えるのではという意識が芽生え始めていた。それが正解なのかはわからないが――


「とにかく魔王に会いに行く……それしかない」


 俺は森の中へ入る。そして険しい道を乗り越えて……魔族の領域へ再び踏み込んだのだった。






 程なくして、俺は魔王城へと辿り着く。外観は漆黒の城……そして、俺が近づくとあっさりと門は開いた。


「入ってこい、というわけか」


 話がしたいということだろうな……入城し、俺は奥へと進む。内装は人間の王城とさして変わらぬものであった。紅い絨毯が敷かれているし、魔法の明かりが廊下を照らしている……やがて玉座の間へと辿り着いた。そこもまた人間の国における場所と類似していた


「来たか」


 そして魔王は玉座にいた。俺が近づくと、相手は手でこちらを制する。


「私がそちらへ行こう」


 魔王は立ち上がり、俺へと近づく……以前相まみえた時と同じように、硬質な雰囲気はある。しかし、やはり俺へ向けられる気配に殺気はない。


「俺が近づかれたら斬るとは考えないのか?」


 そんな疑問が口を突いて出た。魔族を虐殺しているのだ。魔王だって理解しているはずだ。


 けれど、相手は……魔王は――


「それは絶対にない。なぜなら、貴殿は知りたいからだ……女神リュシアと呼ばれる存在の真実を」


 それだけだった。そして魔王の言うことは当たりであり……俺は剣を抜くことなく、魔王と対峙した。


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