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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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一方的な戦い

 戦闘は、およそ十五分ほど経過して終了した。どれだけ魔族から攻撃を受けようとも、どれだけ魔法を食らおうとも、俺はついぞ負傷することなく、この場にいた魔族全てを殲滅した。


「……こうなっては、報復される危険性もあるな」


 もはや引き返せない段階に来てしまったのだと痛感する。戦闘中は一種の興奮状態で後先考えることができなかったが……。


「とにかく、進むしかない。人々の被害を減らすために、戦い続けるしかない」


 果たして俺はどこまで戦えるのか。魔族の領域で野垂れ死ぬ未来しか見えないが、例えそれがいずれ来る結末だとしても……構わず戦い続ける。それしかないのだと悟る。

 幾多の魔族を倒し、少し精神的におかしくなっているのかもしれない。あるいは、魔族の魔力を身に受けて高ぶっているのかもしれない……建物を出ると、既に周囲は包囲されていた。ここは神殿のような場所であり、重要な施設なのだろう。騒ぎを聞きつけてか、多数の魔物と魔族が俺を見据え警戒していた。


「……たった一人とは」


 その中で指揮官と思しき見た目老齢の魔族が声を上げた。


「なぜこうまで無謀なことをするのか……先日攻撃したためか? だとしても人間は薄情だな。貴様一人にこんな役目を背負わせるとは」

「誰かに頼まれたわけじゃない」


 俺はそう魔族へ返答する。


「判断に迷いながら転移して、やるかやられるかの二択で戦った……それだけだ」

「……だとするならよほど愚かだな。まあいい。ともあれ同胞をここまで葬った以上、生きては返さない。後ほど貴様を殺し、人間共も始末してやろう」

「ああ、そうだな……そういう決断になるだろうな」


 魔力を発する。それと共に、果てしない高揚感が生まれる。今なら――どれだけ大軍勢であろうと、倒せそうだった。


「なら、俺はそれをさせないようお前達を……斬る」


 魔族へ仕掛ける。直後、相手は俺へ向け手をかざした。


「馬鹿め……異様な力だが、これには耐えられまい!」


 その言葉の直後、魔力が足下から生まれた。どうやら大地の力を利用した魔法。その威力は推して知るべしであり、普通なら……例えフィーナであっても無事では済まないだろう。

 俺の場合はどうか……と、考えるよりも先に魔法が発動した。それは全てを飲み込むような虚無。俺は闇に取り込まれ、濁流のような魔力を受ける。


「ははははっ! これで終わりだ、愚かな人間――」


 宣言する魔族の声が聞こえた直後、俺は地を蹴った。いや、闇を蹴ったと言うべきだろうか。底なし沼のように飲み込まれていたら抜け出すこともできなかったかもしれないが、俺は容易に闇を突破することができた。

 そして、魔族の前に躍り出る。相手からすれば闇を受け平然としている俺の姿が映ったことだろう。


「なっ――」


 声を上げる魔族へ、俺は容赦なく一閃した。それで首が落ち、魔族は消滅する。

 周囲にいた魔族達がざわついた。この魔法でも効かない――切り札と思しき魔法を受けても平然としている俺を見て、動揺している。


「……人間共を、始末するだったな」


 背後で闇の魔法が途切れ、俺だけが残される。


「だったら……報復されるようなことがないほどに、全てを終わらせてやる」


 咆哮。俺は全力で駆け、間合いを詰めた魔族へ向け剣を叩き込んだ。それで魔族は消滅し、さらに近くにいた魔族も一刀の下に斬り伏せる。

 戦場は恐慌状態に陥った。俺は恐ろしい速度で、瞬く間に魔族を滅していく。全てが等しく一撃であり、防御することすらできない状況。四方に散らばって逃げられたらかなり面倒ではあったが、まだ戦意はあるのか向かってくる魔族や魔法を使う魔族がいた。


 だから俺は、それを片っ端から切り伏せていく。それは紛れもなく……一方的な戦いだった。

 魔族が恐怖で顔を引きつらせる様子が俺の目に飛び込んでくる。ここでようやく逃げようと踵を返そうとする魔族を発見し、俺は足に力を入れた。


 高速移動――俺の体はきちんと応え、次の瞬間には背を向けた魔族の下に到達。剣を振って滅することに成功する。

 続いて別の魔族が逃げようとして――それもまた高速移動を行い、滅する。敵からしたら転移でもしたかのような移動に見えるかもしれない。俺は感覚が鋭敏化しているのか、魔族達の動きがずいぶんと遅いように感じつつ……敵を捉え、斬っていく。


 気付けば取り囲んでいた魔族の半分以上が消え失せていた。ここに至り俺へ仕掛ける魔族はゼロとなり、かといって逃げようとすれば俺が反応して切り伏せられる。ではどうすればいいのか……どの魔族にもその表情は恐怖があった。次は自分の番かもしれない。そんな考えを抱きながらも動けない。もはや天命を待つしかない状態だった。

 そして……さらに数を減らした時、戦場に変化が訪れる。突如森の奥から、新たな魔族が出現した。


「貴様が――」


 それは武装した魔族であり、異変を感じ取って駆けつけた精鋭部隊らしかった。途端に魔族達から声が上がった。助けが来たという安堵の表情を見せる者もいた。

 それに対し、俺は……足に力を入れた。高速移動で相手が次の言葉を発すより前に、リーダー格と思しき魔族の真正面に移動する。


「は――」


 相手は反応しきれなかった。後方にいた魔族達は武器を構え応戦しようとしたが……次の瞬間、俺の刃が精鋭部隊の間に駆け抜けた。

 またしても一瞬の出来事だった。腕を振り、さらに足を動かしてやってきた精鋭部隊の間を駆け抜ける。時間にして数秒。俺は目にも留まらぬ速さで精鋭部隊の最後尾まで駆け抜け――そして、


「あ……」


 誰かが声を発した。けれどそれが意味を成すことはなく……全てが塵と化し、消えた。

 攻撃する暇すら与えず、倒すことができた。そればかりか体力も無尽蔵に湧き上がり、さらに体の奥底から魔力が噴き上がってくるようだった。これなら、いける……そんな風に思いながら次の標的を見定めようとした時、


「――うああああああっ!?」


 誰かが絶叫して、今度こそ背を向け逃げだそうとした。だが俺はそれを逃さない。ドン! と一つ音を上げて声の主に狙いを定めて移動し、その背を斬った。

 魔族達は戦意がなくなり、全員が逃げていく。だが俺はそれを……許さなかった。


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