力の使い方
結局フィーナが『炎の魔人』を倒したと説明し、大変な戦いは幕を閉じた……俺のことについては、あまりにとんでもない敵だったので腰を抜かして動けなかった、ということにした。
「よく無事だったな」
と、勇者オルトからは驚きの声が。ただそれは称賛とかではなく、悪運が強いなという響きだ。
まさか俺が魔人を倒したなどとは露程も思わない。俺としてもそれを公表してどういう力なのかを問われても答えられない……というか、信じてもらえないはず。
だからひとまずこれでいい……少なくともある程度どういう力なのかを理解できるまでは、公にしない方がいいだろう。突如もらった謎の力なので、解明できるのかすらわからないけど――
「だが、これでわかっただろ」
ふいに、オルトの近くにいた戦士が俺へ近づき、声を掛けた。
「今回の戦い、支援役として帯同したが……戦闘面でほとんど役に立っていない。どんな大望を抱いているか知らんが、どれだけあがいても強くはなれん。潮時だろう?」
……どういう形であれ魔人を倒し、湧き上がっている時に言うことじゃないよなあ、などと思ったりする。勇者オルトはそれほど俺に突っかかってくるようなことはなかったけど、取り巻きについては俺のことを気に入らない人間はいるからな。最弱無能が俺達の勇者に近づくなっという感じで。
まあここは、無難にそうかもしれないと応じておこう……口を開こうとした時だった。
「――ほお、さすが勇者様と共に戦う戦士は言うことが違うな」
突如、横手から声がした。視線を移すと二十代中頃くらいの見た目をした男性がいた。
冒険者風の旅装に加え、ややボサボサの青い髪……ここで俺は気づく。話しかけてきた男性は、俺が悪魔に攻撃された際、敵の頭部に蹴りを叩き込んだ人物だ。
「どこまでも勇者様に従い、邪魔になりそうな人物は排除する……勇者様が退却する時、彼よりも先に逃げ出し退路を確保しようとしたくらいだから、忠義の塊と言っていいな」
皮肉を混ぜすぎて単なる刃と化しているような物言いだった。さすがの戦士も口をつぐみ怒りの矛先を男性へ向けようとしたが……ここで怒っては台無しになると思って引き下がった。
「……まあいい。とにかく、さっさとあきらめた方がいいぞ」
言い捨てて彼は勇者のところへ戻っていった。
「災難だな、君も」
男性は俺へ告げる。そこでこちらは肩をすくめ、
「いつものことなので」
「いつもの、か……でもその状況も今回で変わるな」
……そういえば、目の前の男性は『炎の魔人』の咆哮に逃げ出さず、フィーナに近寄っていたな。そこで俺は彼に改めて頭を下げる。
「あの、戦いの際に助けてくれてありがとうございます」
「ん? ああ、気にするなって。俺の役目は後衛にいる人間の護衛だったからな。単に仕事をしたまでだ。礼を言われるようなことじゃない」
そう言うと彼は俺へ右手を差し出した。
「ゲイル=ファノーグだ。君の戦いぶりや見ていたよ。あの『炎の魔人』を倒したほどの実力……むしろこちらが礼を言いたいくらいだ」
「……アレス=レーディンです」
握手を交わすと、彼はニカッと笑う。見た目に似合わず、子供が見せるような無邪気な笑顔だった。
「俺のことはゲイルでいいぜ。言葉遣いも普段通りで構わん……で、ここからが本題なんだが、君の力に興味を持ってさ。良かったら一緒に仕事をしないか?」
「……仕事を?」
「エルーシア王国は今後、さらに魔王を打倒するべく動くだろう。でも数日後ってわけじゃない。その間に、アレス君は力の検証をするつもりだろ?」
それは正解だった。今後戦っていくのは間違いないが、そのために手に入れた剣がどういう能力なのかしっかりと考察する必要がある。
学もないしどこまでわかるか不明だけど、やっておくに越したことはない。
「まあ、そうだな」
ゲイルの言葉に同意すると、彼はうんうんと頷き、
「一人でやるより、二人で色々試した方が良いだろうと思ってさ。君自身、まだ力のことは秘密でいる……なら、事情を知っている人間と組んだ方がやりやすいだろ?」
それは同意する……蹴りで悪魔を倒したことからも、彼自身相当な実力者であるのは明白。そういう人と組めるのであれば、俺としてもありがたい。ただ、
「提案はありがたいけど……何故?」
「君の力に興味を持った。どういう行く末を辿るのか……英雄としてどう活動するのか見たい。それだけだ」
英雄――正直、そんな風に呼ばれるような資格は現時点でないと思う。ただ、俺の力がどうあれ……この力をどう使うかは決まっている。
それは、フィーナを守ること。聖女として、魔王と戦い続けるだろう。なら俺は、それを助ける……尽力する。だから、やれることは何でもする。よって、
「変わった理由だけど……わかった。よろしく」
「ああ」
ゲイルが返事をした矢先、騎士達が地上へ帰還するべく動き始めた。俺やゲイルもそれに追随し動き出す。
同時に、俺は自分に宿った力のことを振り返る。花畑の光景……世界が白に染まりゆく中で、女性は何か口を開いた。何を言っていたのか明瞭にわかったのだが、
「彼を倒して……か」
確かにそう女性は告げていた。彼とは誰のことなのか
「あの女性が敵か味方なのか……本命は魔王のことだよ、な?」
俺の力で魔王を……果たしてそれができるのか。疑問だらけの中、町へと戻ることとなった。
ダンジョンから脱出し、数日後……知らせは既に伝わっていたようで、町には俺達討伐隊を称える住民達が待っていた。場所はエルーシア王国において魔王の居城からもっとも近い町。幾度となく襲来する魔族や魔物に備え高い城壁に囲まれた、言わば前線基地。ここには城も存在し、今は軍の指揮官が入って作戦を立てているらしい。
町の名はゼルシア。騎乗するフィーナや騎士は人々に手を振ることで応じ、後方にいる勇者オルトやその一行については、人々が近寄って歓声を上げた。一方で最後尾付近にいた俺は、どうしようか考える。とりあえず、このまま抜け出しても誰も気づかない雰囲気ではあるけど……。
「まあまあ、最後まで付き合おうぜ」
何を考えているのかわかったらしく、ゲイルはそう言って俺を止めた。
結局俺は城の手前まで赴き、そこで改めて解散を言い渡された。勇者オルトなんかは仲間に誘われて酒場へ行く様子で、騎士達は理路整然とした動きで城へと戻っていく……俺はどうするか一考していた時、
「すみません」
一人の女性騎士が声を掛けてきた。黒髪を結い上げた切れ目の美人で、一本の美しい長剣を思わせる長身姿。確か、フィーナの傍にいた人物だったはず。
「アレス様。明朝、冒険者ギルドへ開いた直後にお越し頂けませんか」
「俺?」
頷く女性騎士。なんだろうと思いつつ、騎士からの申し出だから応じないわけにはいかないと思い、
「わかりました。明日ですね」
「よろしくお願いします」
一礼した後、彼女は城へ戻っていく……そこで、ゲイルが声を掛けてきた。
「なら今日中に明日以降の予定を決めようぜ」
「そうだな……魔物の討伐依頼でも受けようかと考えているんだけど」
「能力について検証する第一歩としては無難だな。それでいいと思うぞ」
なら、と俺は冒険者ギルドへ足を向けることにした。
――魔王の居城は町から北に位置する山脈の中に存在する。城への進路には渓谷が存在し、それを通ることになるのだが……山の中は魔王のテリトリーであり、時折魔物が人里まで下りてくる。よって、駆除依頼などがこの町にも舞い込んで仕事については事欠かないため、ギルドへ赴けばあっさり仕事は得られるだろう。
ただ、魔王の居城に近いことから魔物レベルも相応に高い。これまでの俺にとって、単なる魔物の駆除依頼ですら命懸けであり、仕事と言えば薬草採取など危険度の少ない仕事が主だったのだが――
「今回の報酬となります」
冒険者ギルドで、まずは今回の仕事の報酬をもらう。内容が内容だったので、額も相当なものだったが、事前に聞かされていたよりもずっと多かった。
「手回ししてくれたのかもしれないな」
そのことを話すとゲイルが応じた。魔人を俺が倒したから、か。
「本来なら当面困らないくらいの報酬だが、仕事はするんだろ?」
「ああ」
ゲイルへ答えつつ、俺は依頼書が貼ってある掲示板まで移動した。