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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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無茶な作戦

 エイラ王女の発言……魔王は女神リュシアの力を所持する人間に狙いを定めた。それを聞いて、この場にいた者達は俺を含め全員、険しい顔をした。


「そして、ゼルシアもまた攻撃を受けました。被害は甚大であり、城壁が破壊されてしまった以上は防衛拠点としても使えない状況。兵や騎士も死傷者多数であり、駐屯地から援軍が来なければどうなっていたか……」

「魔物は倒せたのか?」


 ゲイルが問い掛ける。それにエイラ王女は、


「ジェノの力により、強化された魔法でどうにか……ですね。騎士達の攻撃すら通用しませんでしたが、彼らが足止めをしている間に魔法を撃ち込んだ……フィーナの能力も通用しましたし、それでどうにか」

「全部で何体だ?」

「五体です」


 ――俺達へ振り向けた戦力の方が多い。これはおそらく俺やゲイルがいたため、そちらに戦力を多く振り分けたのだろう。


「同じような敵が現れれば、次はもたないでしょう」


 と、エイラ王女はさらに告げる。


「加えて、もう一つ悪い情報が」

「……ルダー砦で何かあったか?」


 ゲイルが問い掛けると王女は首肯した。


「その通りです。砦に常駐していた騎士団が襲撃を受けました。魔物の詳細はわかりませんが、おそらくゼルシアへ攻撃した魔物と同格でしょう」

「結果は……」

「砦内に備えがあったため、迎撃することはできたようです。騎士達の攻撃は通用せずとも、大規模魔法ならば……とはいえ、かなりのリソースを消費した上に被害も大きい。立て直すのに時間が掛かる」

「状況は、一瞬でひっくり返されたか」


 ゲイルがさらに告げると、会議室内の空気が重くなった。


「……今回出現した魔物が、打ち止めであることを祈るしかできませんね」


 と、エイラ王女は現状を踏まえてそうコメントした。


「あの魔物が群れを成して襲い掛かれば、おそらく王都ですら陥落する」

「相当にヤバい敵だからな……前回ゼルシアに襲撃した魔物とは雲泥の差だ。何があると思う?」

「魔物を生成する実験をする中で、魔人に付与したものと同様の魔力を魔物に付与することができたと仮定するのが一番納得できますね」


 なるほど……となれば、


「今後、同様の敵が出てくる可能性は高い……それを防ぐには、もはやこちらも手段を選ぶことはできない」

「現状の戦力で魔王の領域に踏み込んで、戦うしかないのか……」


 俺の言葉に一同重い表情を示す。


「もし今回の魔物が魔族などによって生成されていたとしたら、そいつを倒せば解決する可能性があるけど……」

「魔王にも同様の能力があると考えるべきでしょう。現状ではどれだけ強固に防衛しても確実に突破される。とはいえ、私達が攻め寄せるにしても、敵側がそれに応じて動くとは限りません。最悪、私達の留守を狙って魔物が押し寄せる可能性も……」


 もしそうだとしたら、今度こそゼルシアは終わりだろう。いや、この町だけではなく、最悪王都でさえも――


「……二手に、分かれるしかないな」


 と、ゲイルは王女へ提案する。


「とにかく防備を固めないとまずい。ただ、敵は空からやってくる以上はどれだけ警戒しても被害は出るだろうな」

「魔法で飛ばしていると思うのですが、それだけでも止めることができれば……伝令によって、町に警戒するよう通達しているので、後は全力で態勢を整えるだけですが……ゲイル、二手というのは?」

「片方は防備を固め次の攻撃に備える側。これはジェノさんが適任だし、彼ともう一人いればいい。もう片方は、ルダー砦を越えて魔物を生成する敵を倒す……ただ、何も情報がない状態だ。しかも軍だって攻撃により麻痺しているだろ。正直無謀な作戦だが――」

「俺が行きます」


 そこで俺はエイラ王女へ向け発言した。


「今回の魔物について、攻撃を受けても問題ありませんでしたし、俺の剣なら一撃でした」

「英雄アレス……」

「それに、二手というよりは俺が単独で動いた方が良いと思います……その、隊を編成するより身軽だし、単身でここまで戻ってこれる」

「いくらなんでも、危険だろ」


 ゲイルが横やりを入れる。確かに、たった一人で魔族の領域に足を踏み入れるなど、自殺行為でしかないが、


「敵の内情を知ることだってできるかもしれないし、何かしら情報を手にできればその時点で帰還するよ」

「……本音を言えば反対だが、アレス君の能力はこの戦いにおいて最重要になってしまったな。現状を打破するには、誰かが無茶しなくてはいけないのも事実だが……」

「エイラ王女、許可を」


 俺の言葉に王女は無言となる。傍らにいるフィーナは俺と王女を交互に見て、何か言うべきか迷った様子だった。

 ゲイルやジェノは渋い顔をしたままで、王女の言葉を待つ構え……今回の襲撃が行われる前ならば、即座に否定していた作戦のはずだ。けれど、もはや一刻の余裕もなく、なおかつ割ける戦力もない。そして、俺の能力ならば――


「……情報取得を、優先としましょう」


 やがてエイラ王女はそう告げた。


「ただ防衛準備をしているだけでは勝てないどころか敗北する……かといって人員を用意できるほどの余裕はありません。確かに、この状況では英雄アレスに情報収集してもらうのが一番良い手段だとは思います」

「では……」

「とはいえ、危険であることに変わりはない。それに加え、こちらも状況を確認できなければ次の一手も打てない。少し無茶をお願いしますが、短期間で情報収集を行い、戻ってくる……まずはそれでいきましょう」


 俺はそれに同意する。無論、俺だって無茶をするつもりはない。

 だが、ここでどうにかしなければ……そんな思いが宿る。危機的状況の中で、俺は何をすべきなのか――ゲイルやジェノ、パトリが無念そうに王女の言葉に同意する中、フィーナだけは唯一何も言葉を発さず、ただ真っ直ぐ俺のことを見つめていた。


 こちらはそれに見返すことしかできない。なおかつ、彼女との会話もなく……やがてエイラ王女は号令を発し、次の作戦に移るべく行動を開始した。


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