関係性
魔王との戦いにおいて、女神の介入はあれどそれは代償を伴うもの……女神の力が大きすぎる故の弊害ということなのか、ともかく女神の援護もまた、俺達にとっては悩みの種の一つにはなっている。
「……まあ、正直なところ女神の力なんてものは、普通の人にとっては重すぎるってことなんだろう」
と、ゲイルはやれやれといった様子でなおも続ける。
「どういう力であれ、これに頼らなければ魔王に勝てないんだから仕方がないけどな」
「そうだな……」
「まあ無茶苦茶な力に対抗できているだけ、よしとしなきゃならないのかもしれないが……と、話はここまでにするか」
そこで会話を打ち切り、俺達は店を出ることに。町の人々は明るく、往来している商人なんかも表情は明るい。戦闘があるにしろ、人々は笑っている……ここについては、幸いと言うべきか。
「……フィーナは」
と、俺は何気なく彼女の名を口にする。
「それこそ、目の前にいる人々を守ろうと聖女として戦っているんだよな」
「ああ、それは違いない。たぶん、そういう風に教えられてきただろう」
そこでゲイルは俺を見た。
「けどアレス君は違う」
「それはまあ、そうだな……俺は、フィーナを守りたくて今、戦っている」
「彼女を守ることは、魔王を打倒することに繋がるから別段問題はない。ただまあ、もう少し自覚は持ってくれた方がいいかもしれないな」
「俺が魔人や魔族を倒したことで、か?」
「そうだ。経緯が経緯だから、君自身はピンときていないかもしれないけどな」
「そこは、頑張るさ」
と、俺は言うのだがそれを気のない返事だと思ったかゲイルは苦笑する。
「ま、もう少し戦いを経験して……だな。さて、今日は暇になったしどうする? 俺は町を見て回るつもりだが」
「……宿に戻るよ」
「わかった」
――そこから俺は一人になって、やがて宿へと戻ってくる。時間的には昼間なのでさすがに眠るのは……と思ったが、なんとなくベッドで横になる。
防具が完成したら……といっても俺の戦い方が劇的に変化するわけでもないし、これまで通りでいいだろう。
そしてゲイルの言っていた懸念について……体は問題ないし、特段おかしなこともない。ただ、気付いていないだけ……その可能性は十分ある。
とはいえ、俺は別に方針を変えるつもりはない。俺の目的はフィーナを守ること……ただそれだけだ。けれど当のフィーナはどう考えているのだろう。
「顔を見せなかったということは、やっぱり思うところはあるだろうからなあ……」
ゲイルは楽観的だが、俺としてはそういうわけにも……と考えたところで、これは聖女としての役割に問題が出るためなのか、それとも――
「幼馴染みとしての関係が崩れてしまうからなのか……」
口にしてから、俺は苦笑した。なぜなら、懸念していたというのは間違いなく、幼馴染みという関係性のことだったためだ。
聖女としての立場なら、何の問題もない。俺のことがあろうとも、役目を果たせばいいだけの話だ。けれど、幼馴染みとしての関係は……俺の戦う目的を知ったため、何かしら変化が生じるだろう。
「自分本位の考え方だったって話か……」
なら、ゲイルの言うとおり戦いに支障は……連携において足並みが乱れる可能性はゼロじゃないけど、聖女として訓練を受けてきた彼女なら上手く立ち回れるだろうか。
「ただ、俺の考えを知って俺が無理をしたならどうなるか……その辺りは気を遣う必要がありそうか」
今後どうやって立ち回っていくべきか……頭を悩ませていると、どんどんと時間が経過していく。
結局眠ることもなく俺は夕方くらいまで色々と悩んでいたのだが、結局結論は出ず城へ戻った際にフィーナと顔を合わせてどういう反応をするのか……それを見てこちらは適宜動こうと決めた。
「出たとこ勝負なのは申し訳ないけど――」
そう呟きかけた時、俺はふと天井を見上げた。といっても何かあるわけではない……いや、より正確に言えば、天井ではなくもっと上――空に、何か違和感を抱いた。
俺は部屋の窓を開けた空を見上げる。空が茜色になろうとしている中、相変わらず大通りには人々が多数往来している。夜につれて人通りは減っていくだろうけど……と考えた時、俺はあることに気付いた。
「……影?」
黒い何かが空にあった。それが何かの影か、などと思った次の瞬間、それが徐々に大きくなっているのを認識する。
魔法の類いではない。かといって鳥などの動物ではない……そこまで考えた時、俺は空から魔力を感じ取った。それは紛れもなく、黒い何かから発せられたもの。
俺はすぐさま部屋から出た。次いで一気に外へと出ると、上を見ながら走り出す。
「何だ、あれは……!?」
ただ、確実に言えるのはあの黒い何かがこの町へ迫っていること。そして、近づくにつれてわかるほど、異様な魔力を発していることだけだ。
飛来物に対し俺は着地地点を見極めるべくひたすら走る。距離感が上手くつかめないため、大きさすらもまだ認識できない……いや、接近してくることでおぼろげにわかってくる。そしてどうやらあれは、町の外にある街道近くに飛来してくるようだ。
「――おーい!」
そこでゲイルが俺に声を掛けてきた。どうやら彼も気付いたらしい。
「何か、来るな」
「ああ、現場へ向かっているところだけど……」
「わかった。俺は念のためこの町に常駐する騎士とかに連絡してくる」
「頼む」
二手に分かれ、俺は町の外へ。そしてようやく、俺は黒い何かの形状を認識する。
「球体、か?」
隕石のようにも見えるが……その大きさは、人の身長はあるくらいみたいだ。俺は即座に街道を往来している人へ呼び掛けた。魔物が空から迫ってくる。町へすぐに入るように、と。
周辺にいる人々は察し、すぐに町へとなだれ込む。パニックにならずに済んだのは幸いだが、とにかく町を守らなければならない。
あれが魔物であれば、あれ以外にも他にどこからか飛来してくるのか……空を見回したが他に黒い物体は見受けられない。ひとまず、確認できる一つだけのようだ。
そして、とうとう黒い何かが地面へと迫り――それは恐ろしい速度で地面に激突し、轟音を上げ土砂をまき散らした。




