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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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個人の力

 夢を介して手にしたペンダントが、新たな仲間であるジェノにどんな影響を及ぼすかわからないが……どうやら相当な魔力を秘めた物であるのは間違いなく、ジェノ自身の能力を強化するもので間違いないようだった。

「不思議なこともあるもんだな」

「魔王との決戦があるからこそ、成しえた出来事なのかもしれない」


 と、俺は自身の考察をジェノへと語る。


「女神リュシアが……この戦いに介入していることは、間違いなさそうだ」

「間接的に、か。力を分け与えるって相当なことだとは思うんだが……」

「それだけ魔王を倒さなければならない……と、他ならぬ女神が考えているんだろうな」


 ジェノは押し黙る。フィーナは同意するように頷いた。


 女神リュシアは、おそらく魔王が何かをしているというのを察知している……とはいえ、具体的に何をしているのかまでは語られていないのだが……いや、女神も魔王が実際に何をしているのかはわかっていないのだろうか? 危険な兆候……あるいは予感を抱き、俺達を助けているのだろうか?


「……夢の出来事は、俺が力をもらったことと、ペンダントをもらったことで現実に干渉できると断定できる」


 さらに俺は続ける。


「少なくとも、女神からの援護があるのは確かだ……それを当てにするというわけじゃないが、心強い味方がいるというのは、嬉しくもあるな」

「もっと直接的に出てきて欲しいけどな」

「さすがに無理だろ。それができたら女神そのものが降臨しているだろうし」


 フィーナは俺の言葉に小さく頷く。ある意味……聖女という肩書きを持つ彼女が女神の代わり、という表現ができなくもない。

 そのカリスマ性は、女神に引けを取らない……と思うけど、今回の戦いでそうした性質があまり役立つことはない、かな。


「……エイラ王女は、さらに仲間を引き入れる気だ」


 これを機に、とばかりに今度はジェノが話し出す。


「この戦いは、軍団と軍団の戦いではない……もっと極端な、個人同士の戦いだと評していた」

「それはある意味正解だな……実際、魔人との戦いは俺が単独で倒したし、今回の戦いだって最終的にはジェノの力によって迎撃した」

「戦争にここまで個人の力が関わってくるなんて、さすがに想像もできなかったな……どれだけ力を持っていようとも、大多数で行われる戦争で個人技なんて戦局を変えることすら難しいはずだ」

「それだけ、圧倒的な力ということ」


 フィーナが述べる。ジェノはそれに小さく頷き、


「ま、俺の力が役立つことを祈るばかりだ……というわけで、ペンダントはもらうよ。これを使って、あがいてみるとするさ」


 そう告げる彼の表情は、明るいものだった。






 その後、結局一度も敵の攻撃が来ることはなく、厳戒態勢は解除された。とはいえ敵の攻撃がいつ何時始まるのかわからないため、見張りを増やして夜だろうが早朝だろうが常に魔王がいる山脈へ目を光らせることにした。


「とはいえあれだけの数……さすがに、短期間で同様の攻撃が来る可能性は低いでしょう」


 そうエイラ王女は考察する……翌日、俺はフィーナやジェノと共に会議室を訪れ、エイラ王女の話を聞いている。


「敵の目論見はわかりませんが、それに警戒して身動きがとれないようではまずい。よって、今まで通りフィーナ達は鍛錬を続け、私はさらなる人材を迎えに行きます」

「目星はついているの?」


 フィーナの問い掛けにエイラ王女は頷き、


「ええ、今度は一人ではなく複数人、連れてくるつもりです」

「相手に連絡は?」

「している途中です。しかし、その返答を待っていては遅いので、私が直接出向きます」


 ……王女が来るというのは相当なプレッシャーになるだろうな……そもそも断るなんてできそうにない。まあここは王女もわかって上でやっているんだろうな。


「……いずれ、魔王へ挑むことになるだろうけど」


 と、フィーナは王女へ問い掛ける。


「仲間をどれだけ集めたら、攻撃をするの?」

「現状、見つけ出せているだけの人員を受け入れたら、ですね。それほど多くはありませんし、合計しても十人に満たないくらいです」


 ……俺やフィーナと同じくらいの力を持っているとしたらこの上ない戦力になるだろうけど、ジェノのような能力を目の当たりにすると、それもまた厳しいのだろうなとなんとなく思う。

 フィーナは魔力の質が根本的に違うし、俺の方はずいぶんと特殊な事例……女神から直接力をもらったというパターンだ。今後引き入れた人物がジェノのようなきっかけで強さを得たとすれば、俺やフィーナと比べて能力的に魔王へ対抗できるかは、微妙かもしれない。


 ただ、ジェノが示したように俺やフィーナでは成しえないようなことができる戦力であったのなら……そういった人を集めることで、魔王を討つ戦力になることはできるだろう。


「十人、か」


 俺の呟きにエイラ王女は小さく笑みを浮かべ、


「たかが十人……かもしれませんが、それは間違いなく精鋭中の精鋭です。私としても、大部隊は必要ないと考えています。魔王を討てる力を持つ者が少数……挑むにはそれで十分です。そして」


 と、王女は俺とフィーナを一瞥する。


「魔王を討つ切り札は間違いなく、英雄アレスとフィーナの二人」


 ……実績と、女神リュシアの力を持つ度合いを考えれば、俺とフィーナが最後の最後で挑むというのはある種当然な話と言える。そしてそれは、俺にとって好都合かもしれない。

 なぜなら俺とフィーナが切り札であれば、俺は彼女の隣に立って戦うことができる。ひいては、彼女を守ることに繋がるのだから――


「敵はおそらく、今日のような戦いを継続的に仕掛けてくるでしょう」


 と、エイラ王女は俺達へ語る。


「敵の目的が実験なのかそれとも本気なのかは不明ですが、少なくとも大軍による侵攻が有効的ではないかと仮定して、今回襲撃を行ったのは間違いないはず。それは実際機能した。英雄アレスも聖女フィーナも、大軍勢を……しかも空を飛ぶ相手に決定打に欠けた」


 確かに、あのまま戦っていればどうなっていたことか。


「けれど、それは適した環境でなかっただけ。英雄アレス、フィーナ、二人は自分達で何もかもできる必要はありません。二人には二人に適した戦場がある。二人はそれを磨き、魔王との決戦に備えてもらいます――」


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