押し寄せる敵軍
飛竜の皮膚は強固であり、城壁に備えられた魔法でも一撃で倒すのが難しいわけだが、俺の剣は容易く両断した。魔人を倒せるだけの威力がある以上、当然ではあるのだが……それを目の当たりにした周囲の騎士や兵士からはどよめきの声が上がる。
続けざまに、さらなる飛竜が城壁へ降り立った。即座に俺は足を向け、攻撃を開始するより前に剣を振り、頭部を斬った。それで飛竜は動きをなくし、胴体は城壁から落ちて……地面に届くより前に塵となった。
「順調ではあるけど……」
矢による攻撃が効いているため、城壁まで来る敵は少ない。悪魔の中には迂回しようとする個体もいたが、その全てが魔法陣の矢によって迎撃された。
ひとまず、敵は倒せている……俺は真正面にある山を見据えた。第二波からまだ後続はやってこないが……この調子だとおそらくは――
「……来たぞ!」
騎士の声が飛んだ。直後、俺も肉眼でさらなる悪魔と飛竜がやってくるのを捉えた。
「すぐに魔力を装填しろ!」
声を張り上げる騎士。とはいえ、まだ周囲に悪魔も飛竜も残っている。倒すペースは順調ではあるが、第三波が来るより先に全て迎撃というのは、おそらく無理だ。
あるいは、敵がやり方を変えてこちらの射程外へ逃げ、援軍が来るのを待つなどしたら途端に苦しくなるが……敵はなおも突き進んでくる。とにかく押しの一手というわけか。
それならそれでやりやすいが――飛来してきた悪魔を斬る。その時、俺は捨て身の突撃を行う悪魔を目に留めた。
「撃てぇ!」
騎士も気づきすかさず声を張り上げたが……滑空してくる悪魔は体を右へ左に動かして魔法攻撃を回避する。
城壁に降り立つというより、城壁を破壊するような……その時、俺は走った。そして刀身に魔力を注ぐ。
あれを真正面から受けたら、衝撃で俺の体がすっ飛ぶ……結界にぶつかって終わりだとは思うが、突撃に衝撃によって城壁が破壊される恐れがある。
なら、俺にやれることは……ぶっつけ本番だが、可能性があるならやるしかない!
「おおおっ――!」
声を張り上げ、剣に魔力を込め――飛来する悪魔へ向け、一閃した。本来ならばその衝撃で、俺は吹き飛び悪魔も滅ぼしきれずに城壁にぶち当たる……といった光景が生まれるはずだが、今回は違った。
俺の剣が振れた瞬間、その衝撃と魔力が、悪魔へ全て降り注いだ……悪魔が突撃してくる衝撃を完全に相殺し。そればかりか悪魔の体そのものを弾き返すほどの威力を見せた。
悪魔の体が、途端に後方へ吹き飛ぶ……地面に落ちる前にまたも悪魔の体は崩壊し、どうにか事なきを得る。
とはいえ、だ。同じように突撃してくるような悪魔が現れれば、一人ではカバーしきれない……と、そこへフィーナがやってきた。
「戦況は?」
彼女の問い掛けに騎士が端的に説明を開始する。聖女が現れたことで士気も上がり、敵への攻撃に鋭さが増したような気がした。
そして、魔法陣からの一斉発射……第二波の敵達もかなり数を減らしつつある。なおかつ、どうにか守り切れている。
とはいえ、いつ均衡が崩れてもおかしくない状況であるのは間違いないため、ここからどう動いていくのか――
その時、フィーナが動いた。剣から魔力を発露すると、床に剣を突き立てる。
直後、俺達の真正面に魔力が生まれた。すると悪魔達はそれに反応。その中の一体が、俺が吹き飛ばした悪魔と同様に、滑空しながら突撃してくる。
だが、次の瞬間――悪魔が何かに激突したかのように衝撃を轟音を上げて動きが止まった。
「敵の進路を塞ぐ魔法です。とはいえ、一度に動きを止められる敵の数には限界があります」
フィーナは剣を地面から抜きながら解説する。見れば、悪魔に加えて飛竜も何かに邪魔されるように動きを止める個体があった。ただ全てではなく、どうやら城壁に近しい敵から数えて何体までの進路を結界で塞ぐ、といった効果を持たせているらしい。
極めて高度な魔法であるのは間違いなく、どういう仕組みなのかと疑問に思うレベルだが……問い掛けることはせず、俺は結界を突破してきた悪魔を速やかに一体倒した。
彼女が出現したことで、戦況は一気に傾いた。悪魔達は進路を妨害されて混乱している様子。とはいえ食い止める数には限界があるし、第三波が来れば、またも状況は変わってくるはず。
その時、後方からやってきた敵の援軍が到着した。再び悪魔と飛竜の混成部隊であり、なおも俺達を狙い執拗に攻撃を仕掛けてくる。
ただ、今度はフィーナによって生み出された妨害魔法により、動きが先ほどと比べて遅くなった。これにより、魔法陣からの攻撃が届きやすくなり、敵の撃破速度が大きく増した。
どうやらその効果によって、さらなる援軍の攻勢はこれまでと比べてずいぶんと落ちたようだった……城壁に届く個体はごく一部。これなら――と俺が考える間に、敵の数はみるみる内に減っていく。
「とはいえ……」
戦況を優位に進める中、俺は周囲を見た。魔法陣からの攻撃は絶え間なく続いているし、まだ騎士や兵士に疲労の色はない。ただ、際限なく敵の攻撃が続けばいずれ戦えなくなる。第三波で終わってくれればいいのだが――
「……どうやら、また来たようだ」
さらなる敵が、山から来るのを確認。断続的に、というのがこちらの精神的な余裕を削ってくる。
「でも、一度に攻撃をしてこないのは理由があるのか?」
「それは敵がこちらの防備をわかっているからだと思う」
疑問に対し、フィーナが俺へ向け答えた。
「一度に攻め寄せれば、大規模魔法により一気に数を減らせる」
「なるほど、そういう準備もあるのか」
「寡兵でも対抗できる手段を、というのがこの防備のコンセプトだから。実際、過去にこの町に魔物の大軍勢が来たことがあるけれど、守り切った。それはこの町に備えられた魔法のおかげ」
「敵はそれがわかっているから、あえて逐次投入しているのか?」
「そういうことだと思う。この場合だと、こちらは大規模魔法を使えない。あれは日に何度も撃てる魔法じゃないし」
だとすると、敵は……俺はこの攻撃が何を目的としているのか、それを類推しながら、城壁に届いた悪魔を一体撃破した。




