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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第二章

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気分転換

「俺の能力の検証なんかは引き続きやっていくとして……問題は、俺が今後どういう風に強くなっていくのか……そこはちゃんと相談しないとまずいと思う」


 例えば、魔法でも剣で斬る時と同じようにできないか。あるいは、剣術を鍛えるにしろその方向性を変えるとか……やり方は様々あるが、今の俺ではどうにもならない状況もあるだろう。


「攻撃能力にかまけて進歩がなかったらダメだからな」

「アレスは何か案、ある?」

「いや、正直今の状態でも持て余し気味だけど……」


 フィーナは何やら考え込む。俺自身と腰に差している剣を交互に見て、吟味し始めた。


「現状の能力をさらに高めるだけでも大きいとは思うけど……」

「それは前提での話だ。戦術に幅を持たせないと、色々とまずくなりそうだろ」


 俺は頭の中で色々と想定を始める。


「俺のことがどれだけ敵に伝わっているかわからないけど、直接攻撃しかできないとかなら、相手だってやりようはあるはずだ」

「確かにそうだけど……だからといって付け焼き刃でも意味がないと思うよ?」


 フィーナは言う。彼女の言葉も一理あるけど……。


「アレスは少し急ぎすぎているかもね」

「俺が……?」

「ここまでの戦いでアレスが魔人や魔族を倒してきた。私の能力も、とアレスは言うかもしれないけど、実質アレスがいなければどうにもならなかったことを踏まえれば、私だって戦いに役立っているとは言えない」


 フィーナは冷静に分析すると、俺と目を合わせる。


「つまり、事実上アレスが単独で敵を倒してきたってことになる……その状況下でもし対策を立てられたら、と懸念するのはもっともだし、何かやらなければと思うのも理解できるよ。でも」

「……でも?」

「魔王を倒すのであれば、きっとアレスだけの力に頼ってはいけないし、だからこそエイラは動いている。アレスの存在は主軸に据える形にはなると思うけど、絶対に頼り切るようなことにはならないし、させない」


 彼女はとても真剣であり、また同時に俺だけに背負わせるわけにはいかないという、聖女としての責務のようなものを垣間見ることができた。


「だからアレスは、今ある技術を高めることを優先して、足りない部分は私達が補うから。それが魔王討伐の近道だと思うよ」

「……そう、かな」


 俺は困惑しつつも、彼女の言葉に対する道理を理解する。そもそも俺は、剣術だって達人なんてほど遠いレベルだ。確かに『刃の魔人』と戦ったことで、俺はかの魔人から色々と技術を得た……のだが、それだって完璧なわけじゃない。

 今持っている技術を習熟させて、能力を高める方が良い……というわけだ。まあ確かに魔法とか新たな技とか、脇道へ逸れて失敗する可能性も十分ある。それを考えれば、フィーナの言った通りじっくり腰を据えてやるべきではある。


 その間……つまり、俺やフィーナが強くなり、さらに新たな味方が増えるまでは、苦しい戦いが続くけど――


「ふむ、アレスは思い詰めているみたいだね……当然と言えば当然か」


 フィーナは俺へ言う。そんな彼女は決して暗い表情ではない。


「なら、少し気分転換でもしようか」

「町にでも行くのか?」

「ううん、今日は、そうだね……町の外へ出て、魔物の討伐とか。鍛錬だってメリハリが必要だし、場所を変えるのだけでも効果はあるよ」


 気分転換か……まあどこかへ観光に行くとか、そういうことができそうにない状況だから、そういう風にしかできないか。


「本当は、故郷へ顔を出すとかが一番なのかもしれないけど」

「……フィーナは、平気なのか?」


 俺はなんとなく尋ねてみた。彼女は戦う代償として記憶を削る……それがどういう苦しみなのか想像もできないが、辛いものであるのは確かだ。


「故郷へ行くこと? もしアレスと一緒なら、忘れていることも上手く誤魔化せそうでしょ?」

「まあ、事情を知る俺は可能な限りフォローするけど……」

「私自身、忘れたことも多くはなってしまったけど、故郷が特別な場所であることは変わりないよ。だから、その時が訪れたら一緒に来てくれる?」

「ああ、もちろんだ」


 俺は頷く……俺達の故郷が特別な場所。それを聞いて、彼女は聖女になっても変わっていないんだなと思って、少し嬉しくなった。






 その後、俺がフィーナの提案を受け入れて外へ出る。もちろん外出許可は得ているけど、騎士は少し心配そうだった。

 とはいえフィーナはそういうことを気にする様子を見せず、俺を先導する形で森へと入った。ゼルシアから少し距離のある場所で、人が少ないため魔物を見かけることが多いらしい。


 実際、俺は森へ入った直後に魔物を見つけて倒した。相変わらず剣から伝わる感触は皆無なのだが、それならそれで対応するしかないと今は割り切っている。


「魔人がいなくなったせいか、魔物はなんだかおとなしくなっているな」

「魔王の影響下が薄れたってことかもしれないね」


 俺の言葉に対しフィーナはそう答えた。


「この辺りは山側から魔物が降りてくることが多かったけど……そういった個体も少なくなっているのかな?」

「なあフィーナ、魔王の支配下にある場所にいる魔物は、全て魔王やその配下が生み出した個体なのか?」

「うーん、どうなのかな……全部が、と断定することはできないけど、魔物と遭遇して魔族などが生み出した個体である確率は、当然ながら他の場所よりも高いけど」

「もし魔王が山から出るなと魔物に厳命していたら、魔物とあまり遭遇せず終わるって可能性もあるぞ」

「そこまでは考えてなかったけど……ただ、魔王が故意に何かしているって可能性は高そうだね」


 俺は小さく頷く。魔人を倒したことにより魔物が少なくなった、というのは良い影響が出ているということでもあるから、喜んでいいわけだが……。


「山方面に進んでみるか?」

「そうだね。山に入って調査、というのもよさそう」


 意見が一致したので、俺はフィーナと共に森の奥へと進む。普通なら危険極まりない状況ではあるのだが、俺もフィーナも大丈夫――そんな確信を抱きつつ、進み続けることとなった。


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