明かされた秘密
「……はい」
ノックに対し、フィーナが応じる。何か連絡か、それともルダー砦の方で何かあったのか。
俺が振り向くと同時に扉が開いた。現れたのは――予想とはまったく異なる人物だった。
「駆けつけましたが、無事みたいですね」
そう告げたのは女性……綺麗な青い騎士服に身を包む、金髪の女性だった。
一目見て、気品とかオーラがあるということが明瞭にわかるほどの存在感。振り向いた状態で俺が思わず硬直するくらいには異質な空気をまとっており、また同時にフィーナに会いに来たのだろうと思った。
しかし、誰なのかはわからなかったが……ん、待てよ。この顔はどこかで――
「エイラ王女!?」
反応を示したのはフィーナであり……それと共に、俺は言葉を失った。
王女……名前は聞いたことがある。スベン王子の妹にして、卓越した魔法使いである王女。それが、目の前にいる女性の詳細だった。
「連絡を聞いて、さすがに私も向かわなければと思い、ここまで来ましたが……なるほど、魔人を打倒した英雄が、あなたを救ったと」
どうやら俺のことも知っている様子。こちらが沈黙を守っていると、エイラ王女は俺へ向け笑みを浮かべた。
「初めまして……名前は伺っております」
「ど、どうも……」
エイラ王女に対しどうにか挨拶を行うと、彼女はクスクスと笑う。
「力を得た経緯も聞き及んでいますが、なるほど英雄としての風格というのは、まだまだ少ないようですね」
「正直、英雄と呼ばれることに対しては荷が重いかなと」
「あなた自身、自分の力ではないからと仰るのかもしれませんが、力というのは結局使いようですからね。もっと自信をもって良いと思いますよ」
そう告げた後、エイラ王女はフィーナへ顔を向ける。
「無事であることを確認したので、私は出番なく終わりましたが……兄が不甲斐ない結果に終わった以上、私が前に出ることになるでしょう」
「……それって」
フィーナの言葉と同時、部屋の中に入る人物が。それはゲイルだ。
「お、エイラ王女じゃないか」
「あらゲイル、お久しぶりです」
「知り合い、なのか?」
ゲイルに尋ねると彼はやれやれといった様子で、
「王女様の仕事をいくつか請け負った……実を言うと俺は、王家の遠縁なんだよ」
「は……は!?」
「まあ誰にも言ってないけどな。それに、遠縁といっても貴族という立場じゃない。元々、王家にまつわる政争に負けて、城を出た家系なんだよ」
と、肩をすくめゲイルは語る。
「俺は別に返り咲いてやろうとかいう気もなく、ただのんびりと冒険者家業をやっていたんだが……ある時、俺の血筋に目をつけて王女様が色々と仕事を振ってくるようになった」
「それこそ、王家に関連する事柄であれば、あまり外部に漏らせませんからね」
エイラ王女は言う……ただゲイルは苦笑し、
「俺も血筋は関係あるにしても、部外者なんだけどな……ま、この血縁関係のおかげで、王女様としては俺が人に王家の情報を話すこともないだろうって考えたわけだ」
「……王室関連の情報に詳しかったのも」
「それが関係している。でもまあ、王都に行けば容易く手に入れられる程度の情報しか喋ってないけどな」
そこまで語ったゲイルは、フィーナを見た。
「スベン王子と魔王討伐の手法について議論していたのは、エイラ王女だったんだよ。その辺り、聖女様も聞いていないだろ?」
「そう、だね……」
「私を心配してくれるのはわかりますが」
と、エイラ王女が口を開く。
「私はこの国を統べる存在。であれば、魔王との戦いについても重要な関係者です。いずれ戦うことは確定していましたよ」
「……そっか」
――俺は、フィーナとエイラ王女の関係については尋ねなかった。というより、その表情から友人であることは、容易に断定できたからだ。
たぶんフィーナは、魔王と戦おうとするエイラ王女のことを心配していたのだろう。仮にスベン王子と対立していると知ったら、止めに入るかもしれないくらいに。だからこそゲイルも、王女のことは話さなかった。
「……あなたがここに来たということは」
俺は王女へ向け、一つ質問をする。
「今後の指揮は、あなたが?」
「軍全体を統括する役目を担うことにはなるでしょう。しかし、今回の戦い……現状の戦力で魔王城へ踏み込むのは危険でしょう」
王女もまた、俺やフィーナと見解が同じらしい。
「故に、女神の力を持つ存在を集める……といっても、それは決して夢物語ではありません。私達は、それを捜索する術を持っている」
「捜索……どのように?」
「女神リュシアの力は極めて特殊であるが故に、判別ができるのです……私はそうした研究を続け、フィーナと同質の力を持つ存在の観測に成功しました……ゲイルもまたその一人です」
「王家の遠縁かつ、そういう力を持っているからこそ、俺に仕事を提供したってわけだ」
なるほど、な……俺は彼の言動について、全て理解した。
「エイラ王女は、フィーナと同じように女神リュシアの力を持つ存在を探している……それとは別にアレス君が登場したわけだが……」
「特にあなたは異質な存在と断言できます」
そう王女は俺へ告げる。
「どういう経緯で力を得たのか……詳細を聞きましたが、あなたにだけ直接というのが異例です」
「……そういえば、ゲイルさんはどういう経緯で力を?」
「あー、俺は女神リュシア由来の道具なんかを使っているんだよ。その過程で、道具から魔力が体に移ったことで、人よりも強くなれたって感じだな」
なるほど……同様の経緯で力を得た存在が他にいるかもしれないのは当然だが……やはり俺の存在が王女の言う通り異質だな。
「とはいえ、決して悪い話ではありませんよ」
エイラ王女は、俺へ言った。
「むしろ女神リュシアが魔王との戦いに……私達の動きに呼応したという考えもできます。であるならば、女神は魔王との戦いに終止符を打ちたいと考えている……ならばそれに応えるのが、エルーシア王国の役目であり、また同時に国の悲願です」
「俺のような存在が出現したことを、好機と捉えていると?」
「はい、まさしく」
エイラ王女は頷く……それはとても力強い返事だった。




