力の代償
「女神リュシアの力は、強大であり、おいそれと継承できるものではない……結果、その力を行使する場合、何らかの制約が課せられるケースがある」
制約――俺はフィーナの言葉を聞いて、自分の状況を吟味する。
彼女の言い分が正しければ、俺は能力を行使することで、何かしら体に影響を受けているということになるのだが……。
「ただ、アレスについてはそんな雰囲気がない」
と、フィーナはさらに語る。俺にはないというのは――
「考えられる可能性は二つある。一つは女神様から直接力をもらったことで、私などとは違うのかもしれない」
「……無茶苦茶な力であるのは間違いない。これを何の力も持たなかった俺が使うんだから、代償とか、体への影響とか、あってしかるべきだと思うんだが……」
「でも、アレスは変調があるわけじゃないでしょ?」
フィーナの問い掛けに俺は無言となる。確かに、体がおかしいという感覚はまったくない。むしろ魔力を受け取る前よりも、遙かに体は軽いと感じる。
「もう一つの可能性は……これはアレスにとっては皮肉な話かもしれないけど……」
「どうした?」
「女神リュシアの力……この魔力について調べてもらったことがあるけど、この力は私が持っている本来の力と融合しているけど、本質的には別の魔力らしいの。さっきも言った通り、女神リュシアの力は魔王が滅んでも復活するのと同じように、継承されるシステムを構築した。その時代において、適した人……つまり女神リュシアの力に馴染む人間に継承される」
「それがフィーナだったと」
「うん。この継承については、元々魔力を多大に所持している人が選ばれやすいって話もあるみたい。だから、私は……知らなかっただけで、魔力面で才覚があったってことになるのかな」
「元々持っていた力と、女神リュシアの力……二つが合わさることで、強くなったと」
「そういうこと」
「それは理解できるけど、なぜ俺にとって皮肉な話なんだ?」
「問題はここから。私が持つ生来の力と、女神の力は混ざり合っているけど、同じじゃない。その関係で、体に影響が出てくる」
影響……フィーナもそれに晒されているということは、どういう代償が――
「……以前、二人で町を見て回った時、メンナおばさんの話をしたでしょ?」
「ああ」
「その時、変な顔をしたよね」
「自覚はあったのか……」
「それは当然だよ……私は」
意を決するように、フィーナは言う。
「メンナおばさんのことを、思い出せないの」
「……え?」
「力を使うことによって、記憶が削られているの。だから、子供の頃の記憶とか、すごく曖昧になっている」
衝撃的な内容だった。記憶が……。
「でもアレスのことは憶えていたし、例えば村で印象に残った出来事とかは憶えているよ。でも、それだって時間の問題かもしれない」
「フィーナ……」
「女神リュシアの力は非常に強力だからこそ、何かしら影響が出てしまうってことだと思う……私のことが気になるかもしれないけど、ここからが本題。それじゃあアレスの場合はどうなのかって話」
そこまで言われて、さすがの俺でも気付いた。
「俺は、元々魔力をほとんど持っていない人間だ」
「そう。だからアレスは本来の力で戦っているわけじゃない。ほぼ全て、託された力で戦っている。私は自分の力と女神リュシアの力を行使することで、記憶に影響が出てくる。でもアレスの場合は……」
「俺自身の力が必要ないから、影響も出ないってわけか」
「……あんまり良い話じゃないね」
「どうなんだろうな。そりゃあこの話が正解だとしたら、俺は弱いから……女神リュシアの力だけで戦っているわけだから、自分の力と呼べるものがないかもしれない」
そう言った後、俺は肩をすくめた。
「でも、まあ……この力が役に立つのなら、それでいいと思うぞ」
「アレス……」
「ただ、疑問は残る。フィーナの推測が正しければ、どういう理屈にせよ俺は女神リュシアの力だけで戦っていることになる。それは……例えばフィーナのように、自分の力と女神の力、二つ合わさった方が強い気がするけど」
「そこはもっと検証しないとわからないかな。ただ、アレスの場合はシステムによる継承でもないから、非常に特別なケース……と考えれば、理解できなくはないかな」
「理屈、と言えるかは微妙だけど、説明はつくか……なら、もう一つ。なぜ俺に力が宿った? 幼馴染みのフィーナが女神リュシアの力を持っていたから、それに影響して? それとも『炎の魔人』との戦いで、何かきっかけがあったのか?」
「そこもわからない……でも、未だかつてこんな風に女神リュシアが人に介入した事例はないみたいだから、あの戦いだけに、何かがあったということなのかも」
……色々と推論は出るが、結局答えは出ないか。それとも、夢……俺がさっき見た夢を通して、知ることができるのだろうか?
疑問は多々あるし、何よりフィーナは代償を背負っていることがわかった……それでも彼女は戦おうとしている。なら、俺がやるべきことは一つしかない。
「……フィーナ、話してくれてありがとう」
「うん」
「でも俺の考えは変わらない。国側の判断次第ではあるけど、フィーナが戦うのであれば、俺もそれに従う」
「ありがとう……アレス」
「お礼はいらないよ」
二人して笑う。多くの真実を知り、俺とフィーナの距離が、縮まったような気がした。
「さて、方針も決まったところで……ルダー砦については制圧に動いているし、魔族が介入してこなければ当面俺の出番はなさそうだけど」
「なら、ゆっくり休んで」
「昼まで寝て十分だけどなあ」
「女神の力によって、体力も相当上がったのかな?」
「だろうな……夢については、何かわかったら随時報告するよ」
「うん、わかった」
「女神リュシアについて……真実を知ることはできるのかな?」
「まだわからないけど、アレスが夢で訪れた場所……そこはきっと、アレスが願えばたどり着ける場所ではないと思う。つまり、女神リュシアの意図があるんじゃないかな」
「だとしたら、今後も同じような夢が出てくるかもしれないな――」
そう返答した時、部屋にノックの音が舞い込んだ。




