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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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いくつもの懸念

 俺達は砦に舞い戻り、すぐさまフィーナへの治療を開始した。その間に騎士パトリは騎士エッドへ報告。彼の方は砦からいなくなっていたことでもしかしたら……などと思っていたらしい。


「騎士パトリまでいなくなっていたからな……とはいえ、またも無茶をしたのか」


 とはいえそれで魔族まで倒してしまったので、騎士エッドとしては怒る気もないらしい。


「私としては、その力を今後も貸して欲しい、としか言いようがないな」

「それは、もちろんです」

「君が味方で本当に良かった……無論、君の懸念も理解できる。犠牲者がいないことは大変喜ばしいが、実際のところは君や聖女フィーナの力だけで魔人や魔族を倒している状況。今回の魔族クバスほどの実力を持っている敵が複数現れれば、この状況はあっという間に崩れるだろう」

「では、どうしますか?」


 こちらの問い掛けに騎士エッドは渋い顔をした。


「騎士パトリの言う通り、国に問い掛けてどうするか決めてもらうしかないな……正直なところ、現状の戦力で魔王に挑むのは危険だと私は考える。だが、魔王の力……魔人などに与えた力は脅威だ。これを放置すれば、将来どうなるかわからない」


 と、騎士エッドは語ると、深刻な表情を示す。


「いや、将来などという遠い未来の話ではない。一年か、半年か……その程度の時間で全てが終わってしまう可能性も孕んでいるな」

「……だからといって、エルーシア王国側に相応の策は――」

「現状、ないと言っていいだろう。スベン王子の部隊で手も足も出なかった以上、軍勢をどれだけ率いても、勝つのは厳しい」


 そう述べた後、騎士エッドはため息を漏らす。


「他国へ支援を願うという手段もある。だが、正直スベン王子や騎士エザを始めとした精鋭に比肩する者達というのは……」

「世界中から勇者を集いますか?」

「そのくらいしなければ、厳しいだろうな。とはいえ、国がそういう方針に切り替えたとしても、今から人を集めていたのでは……」


 間に合わない可能性もある、か。


 魔王が何かをしている兆候から、エルーシア王国はフィーナという切り札を採用して魔王討伐に乗り出した。しかし、相手はそれを上回る……いや、魔人に力を付与した時点で、勝負は決まっていたのかもしれない。


「ここまでは君の能力と、何より幸運に恵まれて戦ってこられた」


 と、騎士エッドはさらに告げる。


「魔人に付与した力の大きさを考えれば、町を攻められたら為す術もなかった。しかし敵としても能力の検証などをする必要性があったため……何より、聖女フィーナの力を警戒して、攻撃はしてこなかったのだろう」

「でも結果的に、魔人の力が圧倒的だった」

「そうだ。もしアレス君がいないまま『炎の魔人』との戦い……どうにか退却できていたとしても、魔王は付与した力は圧倒的だと気づき、間もなく総攻撃を仕掛けていただろう。それを防ぐだけでなく、倒したのがアレス君だ」

「……やはり、俺に力をくれた女性は、女神だったんでしょうか」

「その可能性は十分あるな……今となってはタイミングも良かったことを考えると……」


 だが、何故俺なのか。疑問ではあったが……騎士エッドに問い掛けてもたぶん「君が聖女フィーナに近しい人だったから」と答えるだろう。というか、それしか俺が力を得る根拠がない。

 もし女神リュシアが、フィーナの身を案じて俺に力を託したのだとしたら……そういう筋書きが一番しっくりとくる。なぜ魔人と戦っている最中に、とか疑問は残っているが……力をもらったおかげで犠牲者もなくここまで来たのは確かだ。


「……今後どうするかは、報告を待とう」


 騎士エッドはさらに続ける。


「それまでは待機……とはいえ、ルダー砦の制圧は行う。そこは私達や他の騎士団が受け持つため、君はひとまず休んでくれ」

「はい、わかりました」


 そういえば、徹夜で戦い続けたというのに、体力的には問題ない。むしろ高揚感すらあるような状況。これもまた力のおかげなのだろうと考えつつ、俺は自分にあてがわれた部屋へと向かう。

 フィーナについては現在治療中だが、そう心配していない。資料も手に入ったし、大丈夫……そう思いながら部屋へと入った。


 時刻は朝だが、さすがに眠ろう……そう思いながらベッドに腰掛ける。横になろうかと思った時、俺は一つ気付いたことがあった。


「少なくとも、スベン王子のような人間は今後出てこないだろうな……」


 間違いなくエルーシア王国において、最強の騎士団がやられてしまった……犠牲者はいないにしても、魔神を前にして何もできなかったことを考えると、もう王子のように前へ前へ……なおかつ、魔王との戦いを政争として利用するような輩も現れないだろう。


「今後はフィーナを中心に戦っていくとしたら、少しはやりやすくなるかな」


 その中で俺の役割は変わらない……俺にとって幸運なのは、少なくともフィーナに加え彼女に近しい騎士が味方であることだ。もしそういう人物がいなければ、ただ強大な力を前に警戒されていたかもしれない。

 ただ、ルダー砦の魔族や魔物を俺一人で倒したなんて無茶をやった以上、さすがに俺の扱いについて改める可能性は否定できない。正直、別に監視とかついてもおかしくないけど……俺としてはひとまず、フィーナを守れるのであればそれでいい。もし話し合う機会とかあったら、その思いをぶつけよう。


 問題は、魔王を倒した後とかだろうか……俺の能力が必要なくなった瞬間、国側はどう考えるのだろう。


「そもそも、魔王を倒せるなんてできるかわからないけど……」


 ま、先の話か。その時のことはその時考えよう……そんな風に思いつつ、俺は横になって目をつむる。疲労感はあまりなかったが、すぐに睡魔がやってきて……俺の意識は、深い闇の中へ吸い込まれていったのだった。


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