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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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犠牲者なしの終結

 戦いは結局、夜明けまで続いた。最後まで疲労することなく、戦闘開始直後の集中力を維持したまま終わりを迎えた。

 本当なら、砦にいた魔物をもっと早期に倒すことはできたのだが、時間が掛かったのは色々と検証していたのも関係している。


 相変わらず剣を介してしか、魔族を一撃で倒すほどの力は得られないが、魔法も少しはマシになった。後は、敵と相対するからこその検証……結局魔物は全て一撃なので、進歩したにしろそこまでではないが、確実に強くなっている……魔力を使いこなせているようになっているのは確かだ。

 そうやって俺は、魔物がいなくなった大地に立ちながら朝日を浴びる。ルダー砦……堅牢であり、エルーシア王国の攻撃を防ぎ続けた砦は、あっけないほど容易く陥落した。


「よお、まだまだいけそうだな」


 やがて砦からゲイルと騎士パトリが姿を現し、歩み寄ってきながらこちらに声を掛けてきた。


「正直、作戦すら必要なかったかもしれないぞ、これは」


 ゲイルは魔物がいなくなった砦周辺を見回す。


「魔物を全て倒すとは……その力の恐ろしさを垣間見た気がする」

「……資料は?」


 俺の問い掛けにゲイルは騎士パトリへ視線を移す。


「ちゃんと残っていたよ」


 彼の言う通り、パトリの手には資料の束が。


「これで呪いを解くことはできるみたいだ」

「良かった……」

「こちらとしても助かったよ。思ったより砦の中は複雑で、単に忍び込んだだけでは厳しかったかもしれないな」


 笑いながらゲイルは語った後、俺の肩を一つ叩いた。


「さて、英雄アレス。凱旋といこうじゃないか」

「……英雄、か」

「他にどう形容する? 魔人を倒した。魔族を倒した。しかも文字通りの一蹴だ。なら、英雄と言う以外にないだろ」

「俺はただ、フィーナを助けたいという一心でやったことだけど……」

「その心が、この状況を生んだんだ。もっと誇りに思っていいさ。ま、君の場合は不可思議な力を得ての結果だ。釈然としない部分だってあるかもしれないが、その力を活用して聖女を救ったのは他ならぬ君。だから、英雄で合っているさ」


 言った後、ゲイルは歩き始める。


「肝心の聖女様はまだ呪いの渦中だ。とっとと戻って解決しよう」

「ああ」


 俺もまた歩き出す。そしてパトリもそれに続く。

 朝焼けの道は無人で、俺達は一気に拠点としている砦まで走り抜ける。ただその道中、ゲイルはパトリへ一つ質問した。


「騎士パトリ、今回の件はどう報告する?」

「少なくとも今までと同様に、国の上層部には真実をお伝えすることになるかと。公には騎士達が砦へ侵入し、アレス様と騎士で魔族と遭遇し打倒した……で、よろしいかと」

「魔人を倒した話だって出ているわけだし、それが一番いいだろうな」

「さすがに、単独で倒したというのは荒唐無稽すぎるよな」


 俺が苦笑すると、ゲイルは小さく頷きつつ、


「ただ、君の功績が過小評価されることにもなる。不満か?」

「いや、それでいいよ」

「なら、そういう方針で……後は聖女様を助けて、本格的に魔王討伐かな」

「……勝てると、思うか?」


 俺の疑問にゲイルも騎士パトリも答えなかった……いや、答えなど出ない問い掛けだった。

 魔王という存在がどれほどのものなのか、俺達はわかっていない……エルーシア王国は情報を得ていたはずだ。しかし『炎の魔人』との戦いから魔族クバスまでの戦いを振り返れば、人間側と力の差は歴然だ。


 ただこれは、エルーシア王国の見立てが甘かったというわけではない……魔王が何かをしている。それが理由で圧倒的に敵が強かった。


「正直、敵の能力について再調査するくらいのことはしないとまずくないか?」

「それを判断するのは国側だな」


 ゲイルはやや厳しい目をしながら俺へ返答する。


「騎士パトリも実感していると思うが、魔人も魔族も相当強い。これまでの戦い……それこそ、アレス君がいなければどこかで終わっていただろう」

「私も、そう思います」


 ……俺としては複雑ではあるが、実際のところそうだろう。魔族クバスとの戦いで『雷の魔人』についてはフィーナが倒した。彼女の実力ならば、魔人に対抗できる……そう断言できる力を持っているが、それ以外の面々については――


「ルダー砦の戦いでわかったことは、魔王から賜ったとかいう謎の力……それを得た魔人や魔族は、人間の手に負えないレベルにまで強くなる。対抗できるのは聖女様か、アレス君だけだ。これは朝の戦いを見ればわかる。勇者や騎士でさえ……最高戦力を揃えても厳しいわけだから」

「そうですね」


 パトリはあっさりと同意した。彼女としても、魔王に挑んで良いのかわからない様子だ。


「今回のことも全て真実を王室へ報告します……スベン王子が窮地に立たされた事実は、精鋭部隊でさえ対抗するのが難しいという証左にもなりますから、武力による討伐という判断はしなくなるでしょう」

「そこから先は、国側がどうするかだな」


 ゲイルは空を見上げる。雲は少なく青空が広がっている。


「ただ、今から魔人や魔族に対抗できる戦力を育成するなんて到底間に合わないし、可能かどうかも不明だ。そもそも、魔王が何かをしているから動いたところを考えると……悠長にしていては、逆に攻められる可能性がある」

「どういう選択をしても、厳しいですね」


 パトリの苦々しい声。ただゲイルはここで一転、肩をすくめながら笑った。


「ま、現状は大変だがここまでの戦いで犠牲者はゼロだ……全て聖女様とアレス君のおかげ。その点については、喜んでいいと思うぞ」

「……そうだな」

 俺は素直に頷いた。犠牲が出ていない――これは今までの戦いを考えると、奇跡と呼んでいい状況だ。


 戦況だけを考えると、人間側は無傷である以上は順調に見える……少なくとも、外部からはそう見えるだろう。けれど実際は、俺がもらった力で魔人や魔族を倒しているだけ……この力を与えられた理由は魔王にあるのかもしれないが、それにしたって本当に魔王へ挑めるのか……という不安がつきまとうような展開となっている。


「今はひとまず、休んでください」


 考える間に、パトリが俺へ口を挟んだ。


「どうなるのかは、国が責任を持って判断します。アレス様は、次の戦いに備えてください」

「……そうだな」


 彼女の言葉には同意し……俺達はフィーナがいる砦へと急いだ。


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