魔族を倒す力
呪いの魔力、それが明瞭にわかり始めた段階で、俺は確信めいた予感を抱いた。だから俺は、剣に力を込め……魔物へ接近し倒す速度を上げる。
魔族クバスはこちらの行動に対し、嘲笑にも似た表情を示すのが月明かりの下でもわかった。愚かな……そんな心の声が聞こえてくる。だが俺は構わず魔物を倒し続ける。
その時、魔族クバスは新たな行動を示す。といっても魔族自身が攻撃するわけではない。呪いを持つ魔物……それを一斉に、俺へ差し向けた。
どうやら敵は、俺にどうしても呪いを付与したいようだ……魔神を倒した実績を考慮し、あえて搦め手を用いて攻撃を仕掛ける。そういう目論見なのだろうと、俺はおぼろげながら理解する。
それに対し俺は、構わず魔物を倒し続ける。やがて周囲に呪いの魔力を持つ個体ばかりとなり……それを一蹴した時、呪いが周囲に充満し、俺の体を覆った。
対策はしている……が、それをすり抜けそうなほどの濃密さだった。どうやらこの呪いの力、かなり特殊な魔力が込められている。それが何であるのか判然としないが……俺はまとう魔力越しに、もし触れたらどうなるのか、明瞭に理解した。
だからこちらは……魔物を倒し続ける。その時、とうとう呪いの魔力が俺の体に触れた。どれだけ警戒しようとも、呪いの魔力は貫通してくる……対策はこの魔力に近づかないことだけみたいだが、戦いとなったらそうもいかない。
つまり、実質回避不能な攻撃……だが、俺は一つの確信があったからこそ、魔物を倒し呪いの魔力に触れた。
結果――俺の力は呪いの魔力をも、弾き飛ばした。
「……何!?」
それを察知した魔族クバスが、驚愕の声を漏らす。
「馬鹿な……魔法そのものを防いだだと!?」
正直、相変わらず俺の得た魔力は正体不明。しかし呪いの魔力を受けてわかったことは、目の前の敵……魔族や魔王を倒すために、与えられた力だということだ。
呪いの力が効かないと相手が認識したところで、俺はさらに魔物を倒す速度を上げながら、魔族へ迫ろうとした。
無論、相手も黙ってはいない。ここまで静観していたような立ち位置だったが、呪いの魔法が通用しないことから、選択に迫られた。すなわち、後退するか魔物と共に攻撃するのか。
城門からはさらに魔物が出現する……俺としては好都合。とにかく時間を稼げさえすれば、ゲイル達が作戦を遂行してくれるはずだ。残る懸念は、魔族クバスが逃亡することだけだが……魔族の力が膨れ上がる。とうとう相手も本気になったか。
とはいえまだ仕掛けてくる段階には至っていない。すると今度は悪魔が出現する。さらに魔物の厚みも増す。
質を高め、なおかつ物量を増やし押しつぶす……呪いの魔力を付与している魔物は、それほど強くないのだろう。魔物を倒すことで魔力が拡散するのであれば、むしろ強くする意味がない。俺にフィーナにやった攻撃が通用しないのであれば、実力行使……というわけだ。
だが、俺は……剣に魔力を込める。なおかつ全身にも……それで一閃すると、数体の魔物をまとめて消し飛ばした。
ここで俺の戦いにも変化が。剣を振ると、剣が持っているリーチの外側にいる魔物が死滅していく。これは剣に魔力を込め、刃を形作って刀身を延長する……攻撃範囲を拡張したことによるものだ。
魔法についてはあまり攻撃力は上がらなかったが、どうやら剣から離れなければ本来の切れ味は発揮されるらしい……リーチが伸びた俺の剣は相当な速度で敵を滅してく。そしてこの事実は、どうやら魔族クバスも面倒に感じたようで、先ほどの笑みとは一転、苛立たしげに俺のことを観察し始めた。
特に注目しているのが、俺が持つ剣。どういう仕掛けで魔物を瞬殺しているのか……ただその間にも俺は魔物を倒し続ける。悪魔も接近してくるが、こちらは構わず一閃。容易く両断することに成功した。
砦からどれだけ魔物が押し寄せようとも、俺の敵ではない……そこで魔族クバスも動き方を変えた。手を振ると――魔物や悪魔の動きが止まる。
「なるほどね。なぜ一人で来たのか……それが明瞭にわかったよ」
納得したような声を上げると、魔族はさらに魔物へ指示する。指揮者のように手を振り、悪魔や魔物は俺を取り囲むように布陣する。
「呪いを防ぎ、こちらの手勢を倒しきれるだけの力……捕らえてその体を解剖でもしたいところだね」
「やれるものなら、やってみろ」
挑発的な言動に魔族クバスはなおも苛立たしげに顔を歪める……しかし、魔物へ攻撃命令は出さない。
これはおそらく、俺が逃げるのを防ぐための処置だろう。つまり魔物達は壁の役割……では誰が俺と戦うのかというと、当然ながら目の前にいる魔族だ。
「ともすれば聖女を超えるかもしれない力……それに対抗するには、一つか」
ズアッ――形容するならそういう音。大気を震わせるほどの魔力を噴出し、魔族クバスは俺を見定める。
「正直、どういった経緯で力を得たか知りたいところだけど、それより優先すべきは、これ以上被害の拡大を防ぐため、さっさと始末することだね」
……魔族クバスもまた、魔人と同様に魔王から力をもらっている。ただこれは想定の範囲内だ。魔人でさえ力を受け取っているのに、重要拠点を守る魔族が力を得ていないはずがない。
その動きに対し、俺は全身に力を入れる……向こうは俺の実力をつぶさに理解した。最初から、全力で攻撃してくるだろう。それに果たして対抗できるのか……呼吸を整える。相手がどんな攻撃を仕掛けてこようとも、俺にできることはたった一つだ。
俺は身の内で魔力を練り上げる。体の奥底から……魔族を倒すために必要な力を呼び出す。その動きに対し、俺に宿った魔力はあっさりと応じた。魔族クバスが力を高め、渾身の一撃を放とうとしている。だから俺は、応じるべく今まで以上に……先ほど魔物を倒した力を遙かに超えるだけのものを、体から引き出す。
そして――俺と魔族は同時に足を踏み出し間合いを詰めた。勝負は間違いなく一瞬。その刹那の時間に打ち勝つため、俺は雄叫びさえ上げながら魔族クバスへ接近した。




