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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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魔族の呪い

 結局のところ、魔族クバスをどうにかしなければいけないと。問題はそれをどうやって――


「現時点で私達にできることは、フィーナ様の容体を安定させることだけです」


 と、騎士パトリはなおも話す。


「現状維持しかできない以上、フィーナ様を救うには再び魔族クバスへ攻撃を仕掛ける他ありませんが……」

「騎士エッド、どうするんだ?」


 そう問い掛けたのはゲイル。彼は腕を組み、厳しい表情で騎士を見据える。


「聖女様を助けるには、再び砦へ向かうわけだが……」

「現状、すぐにでも出撃できるように態勢を作っている。魔法により麻痺してしまった者達は交代となるが、人数的には朝の攻撃と同じ規模にはできるはずだ」


 苦々しい表情を伴い、騎士エッドは語る。


「だが攻撃して勝算があるかというと……聖女フィーナが倒れた以上、士気は上がらないだろう。倒れたことで奮い立たせるという手法だって考えられるが、騎士を励まし先頭に立つ人材がいない。それができる王子や騎士アジェンは魔人にも歯が立たなかったことを考えると、玉砕覚悟で攻撃しても……」


 そこから先は言葉を濁した。分が悪すぎる戦いだと言いたいようだ。


「私達にとれる選択肢は二つ。再び攻撃を仕掛け魔族クバスを打倒、もしくは砦から情報を奪取すること……もう一つは、王都からの救援を待つこと」

「王都からの救援で、フィーナは救われる?」


 俺が質問した。それに対しパトリが、


「正直なところ、わかりません。魔族クバスがどのような魔法を仕掛けたか……解明しても、それが果たして解けるようなものなのか」


 ――俺はこれまで戦った魔人のことを思い返す。敵は何らかの手法で……魔王の手によって人間側の想定を上回る強化が成されていた。それは間違いなく、魔族クバスも同じであり、また同時にフィーナに掛けた呪いについても同じなのだろう。


「仮に王都の救援でも解けなかった場合は……」

「王都からの援軍と共に、魔族クバスと戦う……それしか道はないでしょう」


 パトリが重々しく語る。正直、どの選択肢をとるにしても、大変なリスクを伴う。

 この状況下で俺にできることは何があるのか……必死に考えながら、俺は一つ疑問を口にした。


「質問が……魔族クバスの呪いに関する情報、それは砦の中にあるってことでいいのか? 仮に戦うにしても、そこが空振りだったら、魔王城まで行かないと見つからない可能性もあるけど」

「断定したことは言えませんが」


 と、パトリが質問に答える。


「砦にある可能性は高いかと」

「根拠はあるのか?」

「魔族クバスは研究者としての側面があります。もし魔法が魔王の手によって完成されているなら、魔人が使用してもおかしくはない。しかしあくまで魔族クバスがフィーナ様へ向け使った……それを踏まえると、魔族自身の魔法だと考えることができます」

「つまり、独自の技術だと」

「はい。そして、フィーナ様の力を抑え込むだけの呪いである以上、相当な研究を行ったはずです。それに関連した研究資料などが砦に現存する可能性は、十分にあるかと」


 ……賭けには違いないが、分が悪い話ではないってことか。


「もし攻撃するなら」


 と、ゲイルが告げる。


「早い方がいい……とはいえ現状の戦力では、厳しいよな」

「そうだな。無論、聖女フィーナは助けたい。だが勝てる公算がない以上……」


 言葉に悔しさを滲ませる騎士エッド。実際のところ、砦にいる騎士だけでは到底魔族に勝つことはできない。

 魔人に圧倒された現状では、どれだけ兵力を集めても勝つのは……、


「……最悪なのは」


 と、ゲイルがさらに続ける。


「魔族クバスが資料を持って魔王城へ戻ることだが……さすがにそれはないか?」

「可能性としてはあり得ますが」


 パトリが冷静に言葉を紡ぐ。


「数日程度なら、砦にいるのは確実でしょう。魔族としてもフィーナ様がどうなるのか、確かめたいはず。その様子を窺うのに、砦に留まる……」

「確かに、な。ただまあ、猶予はほとんどなさそうだな。騎士エッド、攻撃するならするで、早い内に決断しないとまずいぞ?」

「ああ、わかっている。軍議を開きどうするか決めることにするが……正直――」


 そこから先は何も言わなかった。どうなるのか、予想がついているのだろう。

 さすがに、フィーナを救うために戦いに出ようという状況ではない……保身のために王子などが逃げ出してもおかしくはないが、ひとまずそういう事態にはなっていないのが救いだろうか。


「……呪いについてだが」


 俺が無言となる中で、ゲイルがなおも騎士パトリへ話し掛ける。


「仮に戦う場合だが……魔物と切り結ぶ中で魔法を使われたら避ける術がない。魔族クバスを倒せる可能性があるとしたら、アレス君だが、彼にも呪いが付与されてしまったら、まずいぞ」

「そこについては、とにかく油断なく魔力を体に張り巡らせて、防ぐほかないでしょうね。おそらくですが、フィーナ様もほんの一時の緩み……そういったところを狙われたはずです。魔法攻撃ではなく魔力の付与によって呪いを受けたのであれば、それを身の内に入れなければおそらく発動しない」

「常に防御、か」

「達人級の腕前を持つフィーナ様であっても、動きの癖などで魔力による防御に緩みが生じる……常に魔力を弾くことを意識して初めて、呪いを防ぐことができるのでしょう」


 魔族と戦うにしても、非常に厳しい戦いを強いられる……ただ、ここまで話し合った中で、俺は一つの決断をする。

 それはフィーナを……しかしその思いを口にすることはなかった。無言に徹し、ゲイル達の話を聞き続ける。


「……とにかく、動ける人員をまとめる」


 やがて騎士エッドが俺達へ告げた。


「再び攻撃を行うかはわからないが、どう動こうとも部隊の再編成は必要だ。騎士団の状況をまとめ、どうするかは決める……場合によっては明日以降、厳しい戦いが待っている」


 そして俺とゲイルへ目を向けた。


「二人は、次の戦いでも重要な役割をお願いすることになる……今はひとまず、休んで次の戦いに備えて欲しい。戦うか留まるか……その点については、少しでも早く決める。だから、万全の状態を整えておいて欲しい――」

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