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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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魔族の謀略

「ずいぶんとまあ、派手に暴れ回っているねえ」


 どこか皮肉げに……青年を思わせる軽い口調と声色で、魔族クバスは俺達へ言った。


「とりあえず動きを止めて様子を見るつもりでいたけど、まさか側近を容易く倒すとは。まあ炎と刃のそれを倒した事実を鑑みれば、当然かもしれないが……ひとまず、聖女様がどれだけ面倒な相手なのかは、ボクも理解したよ」


 俺とフィーナは剣を構える。魔物がさらに出現するが、もしそちらへ意識を向ければ魔族の攻撃が飛んでくるかもしれない――


「さて、とうとう魔族が来たけどどうする?」

「……アレス、さっき言った通りに」


 あくまで退却というわけだ。それは間違いなく正解だ。後方を放置して魔族に決戦を挑むのはさすがにリスクが高すぎる。


「いいのかい? 絶好の機会だろ?」


 魔族は俺達の行動を察知し、言及してくる。


「君達からしたら、眼前に魔族がいる……打倒できる可能性があるわけで」

「挑発には、乗りません」


 フィーナが端的に返答。するとクバスは予想通りといった風に、


「ま、さすがにそちらの戦況を考えると当然か……まあボクはどちらでもいいよ」


 余裕の笑みを見せる魔族クバス。ただそれは、俺達を倒せるという雰囲気とは少し違う。それはまるで――


「既に、こちらの策は成っている」


 何……驚愕が場を包んだ矢先、異変が起きた。


「っ……!?」


 フィーナの声がした。視線を転じると、膝をつき剣を取り落としそうになっている彼女を見た。


「フィーナ!?」


 反射的に駆け寄り彼女を抱き留める。次いで俺はクバスをにらみ、


「何を、した!?」

「戦っている魔物の中に、密かに仕込んでいたのさ……けれどさすがは聖女。魔力を受ければ即座に効果を発揮する魔法のはずが、これだけの時間を要した……加え、耐えている。だが果たして、どの程度もつかな?」


 フィーナの顔は熱に浮かされたようになっていた。最初毒かと思ったが魔族は魔法と言った。それは、


「お前は――」

「話している暇はあるのかい?」


 砦からさらに魔物が出てくる。その時、


「戦士アレス!」


 パトリの声だった。何が言いたいのかは即座にわかり、俺はフィーナを抱える。今はとにかく、後退するしかない。


「しばし休戦といこうじゃないか」


 退却する寸前、俺は魔族クバスの声をしかと聞いた。


「もっとも、君達に次があるのかはわからないけどね」


 一度相手を見ると、魔族は笑みを見せていた。それに俺は敵意を発しながらフィーナを抱えながら全力で退却する。

 魔物達は追ってこなかった。俺の速度に追いつけないという一面もあるが、魔族クバスとしては追う必要もない、ということだろう。魔族は倒せなかったが、魔人は打倒できた。戦果を挙げたのは事実だが、フィーナが……俺は奥歯を噛みしめながら、ひたすら砦から離れ続けた。






 やがて俺達はルダー砦からもっとも近い駐屯地の砦へ辿り着き、フィーナを護衛する騎士団が彼女の治療を始めた。隊の中には凄腕の治療術士もいるようで、それに加え王都から応援を呼ぶらしい。

 現在時刻は昼前。戦闘時間そのものは短く、またここまで戻ってくるのにそれほど時間も掛からなかった。


「王都からの応援は、時間にして最低でも五日は掛かる。それまで私達だけで治療しなければならないが……」


 砦内の廊下で、俺に騎士エッドが言う。その表情は、後悔の念が刻まれていた。

 戦いそのものは、魔人の魔法が炸裂したのに犠牲者はゼロ。それでいて魔人を倒したため奇跡的な戦果ではあったが、それに引き換えフィーナがという構図。敵の作戦、それを見破ることができなかった。もちろん、あの戦いの中で気付くのは至難だとしても、


「アレス君のせいじゃないさ」


 ふいに、近くにいるゲイルから声を掛けられた。


「向こうのやり口が予想以上に下劣だったって話だ」

「かもしれないけど」


 俺は俯きながら横へ視線を向ける。そこには一枚の扉があり、現在フィーナはその中で治療を受けている。


「魔法……魔族が放った魔法が原因だとしたら、それを解除すれば?」

「物理的な毒では通用しないと判断した魔族の策だな」


 と、騎士エッドは俺へ告げる。


「どう転ぶかはわからないが、聖女の力を信じるしかない……こちらとしては、次の戦いをどうするか、それを決めておくべきだろうな」


 ――この場に王子や騎士、勇者の姿はない。何も言わずに待機している。自信満々に挑んだ結果が先の戦いであるため、さすがにここへ来る気が引けたと考えるべきだろう。

 少なくとも身内で騒動が起きる可能性は低い……そこについては幸いと言うべきだろうか。


 そうした考えを抱いていた時、ガチャリとフィーナを救護する部屋の扉が開いた。処置が終わったらしく、治療術士や騎士パトリが出てくる。


「ひとまず、終わりました」


 パトリが代表して口を開く。そこでエッドは、


「状況は?」

「まず、念のため物理的な毒などがないか確認しましたが、ありませんでした。加えて精神魔法などもなし。魔族クバスが語った魔法のみがフィーナ様に付与されています」


 パトリは淡々と語った後、核心部分に触れる。


「そして現在掛かっている魔法は、呪いに近いものです」

「呪い?」

「魔力を彼女の身の内に宿し、影響を及ぼす……魔法であることは間違いありませんが、人間が扱うものとは質が違う。解呪するには、ここにある設備では難しい。しかし、他ならぬフィーナ様が持っている力により、すぐに悪化する可能性も低い」

「それが魔族の耐えている、という言葉か」


 俺の言及にパトリは首肯しつつ、


「とはいえ、耐えられているのは体力があるからこそ。現在の状態では食事をとるのも難しいでしょう。魔力を付与することによって体力を維持することは可能ですし、一日二日では変化する可能性は低い。しかし、長期間となれば……」

「魔族クバスを倒せば、解決するのか?」


 俺の問い掛けに対し、パトリは難しい顔をした。


「正直、わかりません。魔族の魔法に対しあまりに情報が少なすぎる。もし、この魔法を解くならば、何より情報が必要です。どういった性質の魔法なのか……付与された魔法は非常に強力で、おそらくフィーナ様に対抗するために作り出されたものでしょう。ならば研究資料が砦に眠っている可能性があります。それを手に入れることができれば、対抗魔法を作成することができるはずです――」

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