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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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聖女の剣

 ここまで魔人と戦ってきたが、フィーナにとっては直接攻撃するのは初めてだ。聖女の剣、それが果たして『雷の魔人』に通用するのかどうか。

 魔人が攻撃を行うよりも先に、フィーナが踏み込み一閃する。その鋭さは、剣術は……『刃の魔人』から技法を得た俺であっても、おそらく対抗するのは難しいだろうというくらいの、神速の剣戟だった。


 動きも洗練され、迷いなく仕掛けるその姿は、まさしく歴戦の剣士。十年――その歳月によって得られた彼女の力だ。

 その年数はフィーナにとって人生の半分以上を費やした長い時間。しかし人の歴史を考えればほんの一時のもの。だがその歳月で、到達した極地……それがまさしく、聖女の剣だった。


 魔人は間違いなく対応できていない。反応した時には既にフィーナの剣が、魔人の体へと入っていた。


『ぬうっ……!?』


 まさかここまであっさりと――そんな風に考えているかもしれない。そしてフィーナは魔力をさらに高め、剣を振り抜く。

 直後、彼女の刃は魔人の胴体に大きく傷をつけた……さすがに一撃とはいかないが、その威力は相当なものだったらしく、魔人は雄叫びを上げる。


 間違いなく効いている。ここでフィーナはさらに追撃を仕掛けた。俺は周囲から迫る魔物を倒しつつ援護の構え。押し込めるか、それとも魔人は反撃をするか。

 刹那、魔人が杖をかざし防御する様子を見せた。杖の先端からは光が溢れ、もし攻撃を仕掛けるならば魔法を放つ……そういう思惑であると容易に想像できた。


 それに対しフィーナは、剣を振り抜くことで応じた。魔人に臆することなく――相手も魔法を放った。閃光と破裂音が周囲に満ち、俺は一時フィーナの姿を見失う。だが魔力は明確に感じ取ることができた。彼女の気配は魔法を受けても……まったく変わることがなかった。

 光が途切れる。直後、フィーナはさらに魔人へ剣を叩き込んだ。それはさらに深いダメージを与えることに成功し、


『舐めるなぁ……!』


 魔人は声を放ちながらどうにか抵抗しようとする。だがフィーナは構わずさらに肉薄する。

 一見、無謀とも思える行動。先の戦い……特に『炎の魔人』との戦いを振り返れば、強力な魔法が来ればフィーナも無事では済まないと思ってしまうところ。


 だが今の彼女は大丈夫だと確信しているが故に、攻撃を仕掛けているのが明瞭にわかった。この決戦までに、可能な限りの対策を施した……先ほど、魔法が直撃したけれどフィーナは無傷。それはまさしく、魔族との戦いに備えて行った準備の成果だった。

 彼女の刃が、魔人の首を捉えた。相手は抵抗しようとしたみたいだが、彼女は横薙ぎを放ち……その首を、両断した。


 王子や騎士も歯が立たなかった相手に、フィーナは圧倒的な力で勝利する……魔人は一度ビクン! と体を大きく震わせ、ゆっくりと地面に倒れ伏す。首から上は既に消滅し、フィーナの完全勝利と言って間違いない。

 しかし、俺達は勝利の余韻に浸ることなく砦を見据える。魔人はあくまで前哨戦。雷の魔法……その威力を考えると、魔人は『炎の魔人』や『刃の魔人』と同等の力を備えていたに違いない。それをフィーナは倒したわけだが、こうなると魔族についても当然――


「フィーナ、どうする?」


 俺はなおも近づいてくる魔物を倒しつつフィーナへ尋ねる。後方はどうにかフィーナに近しい騎士達が倒れる者達を救助しているが、まだ時間が掛かりそうな気配だ。このまま留まって魔物を倒し続けるのか、それとも後退するのか。


「……周辺の魔物を倒したら、後退するよ」


 フィーナはそう決断した。


「このまま砦には向かわない……この場で後方の救助が完了するまで食い止める」

「わかった。なら俺はフィーナと一緒に戦うよ」

「俺も付き合うぜ」


 と、横からゲイルの声。見れば蹴りで魔物を吹き飛ばす彼の姿があった。それに加えて騎士パトリが剣を振り別の魔物を倒している。


「人数は多い方がいいだろ?」

「ありがとうございます……魔族の動向は気になりますが、今はとにかく時間を稼がないと」

「そうだな」


 俺はフィーナに同意しつつ、剣を振り魔物を倒す。魔法を使って一気に倒せれば良いのだけれど、今の俺にそこまでの力はない。魔人を一撃で倒せるにしろ、俺には足りないものがまだまだ多い……魔王と戦っていく以上、もっと精進しなければならない、と思っている間に砦からさらに魔物が出現する。

 それはこれまでの質が何も変わらない個体ばかりであり……断続的にやってくるため面倒この上ないが、それでも対処できない数ではない。砦の城門から一度に出てこれる数にも限界がありそうだし、俺達の魔物を倒すペースが早いというのもありそうだが……何か違和感がある。


 魔人を易々と打倒できたことは、相手にとって予想外だとは思うが……いや、もしそうなった場合に備えて何か策を立てているとしたら? 魔族は人間を見下し、普通ならば策など用いることはないが、もし魔人を立て続けに倒したことで手段を選ばなくなったとしたら、どういう行動をとるのか予測できない。最大限の警戒をする必要性がある。


 そもそも目的の魔族はどこにいるのか……俺はフィーナを見る。都度砦へ視線を向けているため、彼女もまた警戒をしている様子だった。

 しかし、出てくるのは魔物だけで魔族クバスについては……と、考えていた時だった。


「お出ましだな」


 ゲイルが言う。俺も視界に映した。城門ではなく、城壁の上……そこに、人間のような姿をした存在がいた。ただ人にしては不気味に思わせる青白い肌に、黒いマント……悪趣味な貴族のような出で立ちをした、金髪の男性。

 魔物を倒しながらそちらへ警戒する。間違いなく奴は――そこで、相手は城壁から飛び降りた。俺やフィーナはそちらへ視線を向けながらなおも魔物を倒し続ける。


 後方を一瞥すると、どうにか倒れた騎士達を助け、後退する軍勢の姿が。退却することはできるが、とうとう魔族が出現した。フィーナはどうするのか……尋ねようとした時、魔族が地面へと降り立ち――俺達へ、言葉を向けた。


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