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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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雷の魔人

 スベン王子が生み出した白銀の騎士が、魔人へと襲い掛かる。そして、騎士アジェンやエザを始めとした精鋭もまた、麻痺が効いている中でも強引に動き、敵と肉薄する。

 正直、動ける者だけでも退却すべきだと思うが、彼らは意地でも下がらないつもりなのだろう。攻撃を食らったことを怒りに変え、押しの一手。仮にフィーナが呼びかけたとしても、方針は変えないだろう。


 そうした中、どうにか動ける騎士が王子に続こうとする。その数は最初全員倒れ伏していた状況を考えれば多いが……動けている者は半分にも満たない。まだ戦意はあるにしろ、絶望的な状況。


 そして――


『まだ勝てると思っているのか? 人間共』


 魔人が声を発した。どうやら『雷の魔人』は『刃の魔人』と同様に、人の言葉を話せるらしい。


『身の程知らずだな。それとも、力の差を理解していないのか?』


 白銀の騎士が肉薄する。魔人の周囲にいた魔物達は使い魔の剣で瞬殺したが、肝心の魔人は、


『愚かな』


 魔人は右手を振る――するとその手に杖が生み出された。

 白銀の騎士が仕掛ける。三体同時に攻撃をするが……魔人は杖に魔力を込める。その先端に、バチバチという弾ける音と光が生まれ、


『終わりだ』


 杖を振った。動作としてはそれだけ。刹那、雷撃が白銀の騎士に直撃し――いとも容易く、消滅する。


「な……」


 スベン王子が呻くのを耳にする。彼が生み出した使い魔は、相当な力を持っているはず……というより、魔人を相手にする以上は全力だったはずだ。

 しかし、それもあっさり消し飛ばされる……これでようやく王子も理解したはずだ。目前に存在する魔人の恐ろしさが。


『ようやく、認識したか。だがもう遅い』


 魔人はさらに告げた直後のことだった。それは『炎の魔人』が発したような威嚇の魔力。大気を震わせるそれが、戦場へ拡散した。

 その質や量は、これまでの魔人と何ら変わるものではなく……ここで乗っていた馬がいななき動きを止めた。そればかりか逃げようとする。必死に手綱を操作したが、


「駄目、か……!」


 俺は半ば馬を乗り捨てた。乗り手を失った馬は一目散に戦場から逃げていく。他の騎士達も同様に馬をどうにか操作しようとして……その中でフィーナは俺に続いて馬から下りた。

 彼女が動いたことで、他の騎士もそれに続く……ここで目を前線へ向けると、スベン王子が動きを止め、膝をついていた。


 それは紛れもなく、恐怖……圧倒的な力の差。どれだけあがいても絶対に勝てないという絶望。魔力を直に受けてそれを完璧に理解した。

 そうした中で、騎士エザがどうにか王子を引っつかみ、無理矢理後退させる。次いで騎士アジェンや勇者オルトが前に出る……が、攻撃しようという気配はない。彼らは凶悪な魔力を受けてもどうにか耐えられているが……周囲の騎士は続かない。俺達から背を向けているため表情は見えないが、戦意を喪失しているのは明白だった。


 そうした中で、俺は……フィーナを中心とした騎士達はまだ動いている。とはいえ、その目的は魔人との決戦ではなく倒れる騎士達の保護。


「……戦士アレス」


 馬を捨て、走る中で騎士エッドが俺へ近づく。


「聖女フィーナを……頼む」


 こちらが頷くと彼はそれで納得したか、周囲の騎士へ呼びかけ倒れる者達を救出に掛かった。この時点でスベン王子達も魔人から大きく距離を置いている。対する敵側は一切動いていない……というより、フィーナが来るのを待っているのか。

 混沌としたこの状況で攻撃を仕掛ける方が優位のはずだが……いや、フィーナが真っ直ぐ『雷の魔人』へ向かっていることから、わざと攻撃しないということだろうか。スベン王子達を始末してしまえば、フィーナは退却するかもしれない。だが、現状――生きているのであれば、フィーナは是が非でも救うために前へ出てくる。そこを狙い魔人が、


「……そうは、させるか」


 小さく呟きながら俺は剣を強く握りしめる。そしてフィーナと共に、スベン王子や騎士アジェン達と入れ替わる形で、最前線へ到達した。

 俺の後方には、ゲイルに加えて騎士パトリもいるが、おそらく援護の役目だろう。途端、魔人は動いた。杖を掲げ、その先端に魔力を集める。


『まずは、これに耐えられるか?』


 問い掛けと共に魔人は杖を振り下ろした。雷撃が来る――そう悟った瞬間、体は自然と動いた。

 俺とフィーナの剣が同時に一閃される。雷撃は刀身に触れたようだが……俺達の魔力が雷そのものを両断し、逆に消し飛ばすことに成功する……!


『ほう、面白い。まあこの程度できてもらわなくては、張り合いがない』


 魔人は言う……俺はここで、敵の態度から一つ気付いたことがある。

 俺は『炎の魔人』と『刃の魔人』を不思議な力を持つ剣で倒した。だが、目前にいる『雷の魔人』が見据えているのはフィーナの方。俺のことは眼中にないみたいだ。


 もしや、魔人を誰が倒したなど、情報については調べていないのか? もし人間側の情勢を調べていれば、警戒してもおかしくはないが……魔物が襲い掛かってくる。俺はフィーナを守るように剣を振って敵を瞬殺するが、魔人の視線はフィーナへ向けられたままだ。

 単に知らないだけなのか、それとも他に意図があるのかわからないが……自分の役目は変わらないと断じ、剣を振り続ける。今に至り砦から断続的に魔物が現れているが、その全てを俺とフィーナは一撃で倒していく。ここまではスベン王子もやっていたこと。魔物は問題にならない。後は『雷の魔人』を倒せるかどうかだけ――


『ならば、これはどうだ!』


 魔人が次の魔法を放つ。先ほどよりも魔力を高め、それが杖を介して俺達へ差し向けられる――

 俺はフィーナを守るよう前に出て、全力で剣を薙いだ。次の瞬間、雷撃が刀身に当たりさらに体にも触れる……が、ダメージはゼロ。構わず振り抜くと、魔法はあっさりと消える。


『横にいる人間も、木偶人形ではないらしいな』


 魔人はそう呟きながら次の魔法を撃とうとした。さらに威力を高め、俺達の攻撃を阻む……という目論見で間違いなさそうだが、それよりも先にフィーナが動いた。新たな魔法が放たれるよりも先に、彼女は魔人を間合いに入れたのだった。


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