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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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激変する戦場

 戦場は人間側が圧倒的優位になろうとしていた……ゲイルはスベン王子が生み出した白銀の騎士について解説する。


「大抵の魔法剣は刀身に秘める魔力と使用者の魔力が結びついて攻撃が繰り出されるが、王子の剣は練り上げた魔力を形にして使い魔を生み出すわけだ。両翼の騎士二人と比べて派手さに欠けるが、使い魔の数だけ戦力を増やせる……制御は大変なんだが、それを易々と使っているところから、スベン王子も結構な使い手であるのがわかるな」


 解説する間にも、敵の数は驚くような速度で減っていく。王子の周囲にいる騎士達も奮戦し、さらに騎士アジェンと勇者オルト、加え騎士エザ……彼らの攻撃が容赦なく魔王軍を撃滅していく。

 戦いが始まってほんのわずかな時間しか経過していないが、魔王軍については壊乱状態に陥っていた。こちらの攻撃を押し留めることは一切できておらず、魔物達は騎士を一人も倒すことができないまま、駆逐されていく。


「進め! 悪しき存在を滅せよ!」


 スベン王子が剣を振り、号令を掛ける。それで周囲の騎士がさらに勢いづいた。加えまるで競うように騎士アジェンや騎士エザも動き、砦へ進撃する。

 目前の光景はもはやどうやって魔族を倒すかではなく、誰が一番に倒すかという状況になりつつあった。魔物を容易に倒せる。このまま一気に魔人、魔族を食い破る気でいるが……俺は内心で不安を抱いていた。


 それはフィーナも同じなのか、彼女と騎士エッドを始めとしたゼルシアの騎士団は動いていない。後詰めという意味合いももちろんあるけど、何か……それこそ、魔族の計略を警戒していることが、明瞭にわかった。


「どうするんだ……?」


 俺は小さく呟きフィーナや騎士エッドの背中を見据える。スベン王子達は砦へ迫ろうとしている。

魔物全てを倒したわけではないが、少なくとも魔人へ挑みかかろうとしている。このまま突撃すれば、前線と後衛は大きく離れてしまうが――


「……敵の魔法攻撃に備えよ」


 騎士エッドが、告げる。何か来る……そんな予感がしたのか、あるいは戦場の状況を見て何か悟ったのか。ただ、


「進軍を開始する。味方部隊と合流し、魔人を、魔族を討つ」


 攻撃を開始する……それと共に、フィーナ達は動いた。俺やゲイルもそれに続き、馬を走らせ前線部隊へ合流しようとする。

 ただ、俺もこの時点で予感していた。魔物の強さがどれほどのものか正直わからないが、敵は……魔族や魔人はおそらく、ただ砦から出撃した部隊で倒せるとは思っていないはず。もしそれで倒せるなら所詮その程度の実力しかないと考えるし、もし人間側が優位に立ったのなら、それに応じて何か攻撃するのではないか――


 そうした危惧は……どうやら的中した。敵の魔法攻撃に警戒しながらの移動と共に、砦近くから魔力が溢れた。それはどうやら『雷の魔人』からのもの。

 スベン王子などは当然それに気付いたはずだ。だが止まらなかった。ただ無策というわけではなく、何やら指示を出して魔術師達が動く。


 途端、彼らを守るように結界が生まれた。それは戦場全体を覆うほどの巨大なもの。どうやらスベン王子の部隊と両翼の部隊。そこに予め魔法攻撃に対抗するための人員を配置し、受けられるように準備をしていたらしい。

 ただ、巨大であればそれだけ耐久性に問題はないのか……と思っていたら、その結界にスベン王子が魔力を注いだ。直後、結界が淡く輝き、その強度が大きく増したようだった。


 そして、スベン王子達は相手の攻撃に備えて立ち止まった。加えて騎士達がさらに結界に魔力を注ぐ……まさしく、全軍による防御。いかに魔人が強大な存在だとしても、この状況下では敵の魔法が届くとは思えないが――そう考えた時、


「全軍、停止!」


 フィーナが反射的に叫んだ。何か予感したのか、あるいは敵の魔力を見て判断したのか。フィーナを含め彼女の周囲にいた騎士達は、相次いで手綱を引いて動きを止める。

 俺やゲイルもそれに応じて……刹那、スベン王子達の頭上に、光が生まれた。雷撃系の魔法だと考えた矢先、それが王子達へ飛来し、結界へ直撃する。


 刹那、生じたのは閃光と轟音。俺は反射的に腕で顔を防御し、騎士達も同じように動いた。

 結界魔法と雷撃、果たして勝敗は……閃光はあっという間に消え、残響音が残る中で俺は状況を確認する。そこには、


「これは……」

「無理だったか……」


 俺の呟きと共に、騎士エッドが言う。


 状況は、一瞬で激変した。王子達にとって渾身の結界魔法。それはどうやら貫かれ、騎士達の大半が地面に倒れていた。なおかつ王子が生み出した白銀の騎士も、その全てが消え失せていた。

 馬もまた麻痺したのか、地面に横たわったり足を止め座り込んだりしている。どうやら死者はいないようだが……危機的状況なのは間違いない。


 ただ、魔物についてもその全てが消滅していた。それほどの威力が結界を貫き襲い掛かったということみたいだが――


「結界は大半の攻撃を防いだ。しかし、それでも広範囲に影響が出たか」

「あるいは、人質のつもりかもしれないな」


 エッドの発言に対し、ゲイルが告げた。


「先に戦った『刃の魔人』と同じだよ。あの雷撃……結界で防いだ結果のように見えるが、全員が等しく痺れて動けないというのは、さすがに変だからな」


 確かに……あれだけの広範囲魔法なら、死者が出てもおかしくないはずだが、例外なく麻痺だけしているような状況。


「前線部隊を滅しただけでは、肝心の聖女様が逃げるだけだ。しかし全員生存しているのであれば、それを守るために動く」

「そうですね」


 フィーナはあっさりと同意した。明らかな罠……だがそれでも、フィーナは動くつもりでいる。


「皆さんは倒れる騎士達の保護を。私は……魔人へ仕掛けます」

「聖女フィーナ、しかしそれでは――」

「俺が」


 騎士エッドが言いかけた時、俺が口を開いた。


「俺が援護します」

「はい」


 ――フィーナが返事したのを受け、とうとうエッドも決断する。


「わかりました……ご武運を。では全軍――」


 エッドを始め、フィーナの周囲にいた騎士達が駆ける。ここで俺とゲイルはフィーナの近くへやってきた。


「勝算はあるのか?」

「ゲイルさんの言う通り人質だとしたら、私が最前線まで出てくれば味方が狙われる可能性は少なくなる」


 俺の質問に対し、フィーナはまずそう答えた。


「そこからは、賭けに近いけど……倒れる騎士を救うには、これしかない」

「だな……俺も全力で応じる。まずは魔法を放った魔人を倒すことから、だな」


 フィーナが小さく頷く……それと同時だった。


「舐めるな、魔族……!」


 叫び、立ち上がる騎士がいた。それはアジェン……次いでエザもまた体を起こす。


 さらに勇者オルトとその仲間も。歴戦の猛者として、武具も強力で魔法に対する耐性があったと考えるべきだろうか。どうやら精鋭部隊については体の痺れが抜けないにしろ、立ち上がることくらいはできる……だが、さすがに突撃は無理だ。

 なおかつ、スベン王子もまた……と、ここで彼は剣を掲げた。それと共に生み出したのは、白銀の騎士。その様子は、魔人に攻撃を仕掛ける気か。


「戦意は失っていないってわけか」


 ゲイルが呟く。絶望的な状況だが、諦めていない……しかしそれは自殺行為。途端、フィーナは馬の速度を上げ、俺やゲイルはそれに追随した。

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