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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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砦の戦い

 行軍は非常に順調で、予定の日程を消化し続けた。ただ、道中でいくつかイベントもあった。といってもその主な理由は、フィーナに関することだったのだが。


「お前が、英雄か」


 一日目の野営時、騎士のエザに続いてスベン王子もまた、俺へと話し掛けてきた。

 体格は少々ごついけど、その立ち姿はまさしく童話の中に出てくる王子様。金髪碧眼に加えて白銀の鎧……騎士アジェンほど派手さはないが、その体に備わっている気品は、対峙しただけで嫌というほど理解させられる。


「アレス=レーディンです」


 まずは挨拶をしてみると、スベン王子は目を細めた。


「正直、強そうには見えないな」

「自分もそう思います」

「ふん、魔人を打倒したことで威張っているような人間ではないようだな」


 ……なんだろう、俺に対する感想が王子の配下であるエザとほとんど変わらないんだけど。


「まあいい、エザが言ったようだが、次の戦いは私達が動く。お前は後方に待機しているように」


 こちらは黙ったまま頭を垂れる。正直、命令については騎士エッドやフィーナからしか受けないつもりでいるし、そもそも彼が俺に直接指示を下すというのもあり得ないだろうな。

 まあここは穏当に済ませておけばいいだろう……と、スベン王子は満足したか去って行く。そんな感じのイベントであった。


 後は、勇者オルトと騎士アジェンについてだ。両者共に俺の近くには基本来なかった……まあ、さすがに立つ瀬がないというか、特にオルトやその仲間達はどうしようもないというか。

 俺としても何を話していいかわからないため、正直近寄ってこなくて良かったのだが、二日目の野営の際、騎士エッドに話があってその天幕へ向かったら、偶然鉢合わせになった。


「あ……」


 こちらは小さく呟いたのだが、オルトは最初無言だった。ただ、その視線は俺に対し文句とかがあるような様子ではない。


「……次は、負けない」


 そして小声で、俺に聞こえる程度の声量で彼は告げると、すれ違うようにして立ち去った。仲間の戦士などは俺と目を合わせることはなく……まあ、彼らとしても内心複雑だろうし、俺としてもどう応じていいかわからない。だからまあ、とりあえずこんな関係が続くだろうと予想できた。


 こちらとしては競っているつもりじゃないけど、俺から何も言うことはできなかった……行軍中に起きた出来事はこのくらいで、後はひたすら移動の繰り返しで……やがて、決戦の日当日を迎えた。


「さて、やるか」


 近くにいるゲイルは小さく呟くと、騎乗する。騎士も勇者も、誰もが無言で支度を進め、出発する。

 時刻は日が昇る前の時間。討伐隊全体に烈気が宿り、俺に話し掛けてきた王子や勇者オルトも、無言で馬を進める。


 フィーナや騎士エッドなどもこれから始まる厳しい戦いを想像してか、話し声はなく……朝日が俺達を照らし、そこから一時間ほど経過して、俺達はとうとう辿り着いた。

 渓谷――魔王の居城へ進むための道を阻むために建造された、ルダー砦に。


「あれか……」


 俺は馬上から外観を確認する。岩壁を利用して建てられた砦は城門からして堅牢の一言。なおかつ城壁はずいぶん高く、なおかつ白い。特殊な建材なのか、太陽光に照らされ白い城壁がキラキラと輝いている。


「まだお出迎えは、なしか」


 そしてゲイルが呟く。彼の言葉通り、砦の外に魔族はおろか魔物の姿さえ存在していない。行軍は既に察知されているはずだが、ずいぶんと悠長だ。


「舐められている、ってことか?」


 俺は一つ疑問を呟くと、ゲイルは「どうかな」と応じる。


「斥候部隊の話によると、周囲に伏兵の気配もなし……単純に受け取れば敵が警戒して籠城しているという解釈もできるが、さすがにそれは見立てが甘すぎるだろ」


 会話をする間に、味方が布陣を整えていく。中核を成すのはフィーナ達の部隊で、その正面にスベン王子が率いる精鋭が。

 なおかつ、その両翼を騎士エザと騎士アジェンが固める……俺から見て右にアジェン、左にエザという形。勇者オルトはアジェンの近くにいるようだ。知り合いでいがみ合うような間柄だが、今回の戦いでは協力するらしかった。


 俺とゲイルはフィーナの近くにいて、臨機応変に動けるように……その時、砦の門が開かれた。その奥から多数の魔物が現れ、靴音を立てながら行進する。

 その全てが、漆黒の鎧に身を包んだ人型の魔物。体格からしてオーク系――悪魔と同様に魔王の眷属である種族で、顔立ちは人間からすれば異形そのもの。ただ、その体格は人と同様かそれ以上であり、剣などを用いて白兵戦ができるというのが特徴だ。


 装備そのものが統一されているところを見ると、まさしく軍……魔王軍と呼ぶにふさわしいだけの風格を備えている。加え、その近くには悪魔もいる。こちらも鎧を着込み、軍勢の後方……言わば指揮官がいる後衛に、大きな翼を持った存在がいた。


「あれが魔人か……?」

「特徴から察するに、おそらく『雷の魔人』だな」


 雷……そして魔族についてはまだ姿を現していない。余裕だと考えているのか、それとも――


「知るがいい、魔族よ」


 その時、朗々たる応じの声が、俺の耳に入ってきた。


「聖女の力だけではない……我が名はスベン。その名を心の臓に刻め!」


 始まる――直後、王子が号令を発し、騎馬隊が突撃を開始した。

 一歩遅れて両翼の部隊も馬を駆る。次いで魔物が呼応するように前進し始めた。さらに散開し、攻め寄せるスベン王子達を食い止めるようと動く。


 その中で、先陣を切ったのは……騎士アジェンだった。


「はあっ!」


 光が生まれる。『刃の魔人』との戦いでは見せなかった、魔法のようだ。それは巨大な槍のように形を変えると、進撃を食い止めようとする魔物へ向け放たれた。

 直後、閃光と轟音が生じ……大気を震わせ魔物を消し飛ばした。その威力は周囲の騎士達が目を見張るほど。アジェン達と対峙していた魔物を大きく減らすことに成功する。


 そこへ、勇者オルトと仲間達が斬り込んでいく……オルトは見事に馬を操り、馬上から一閃。悪魔を打ち倒す。両者の能力が遺憾なく発揮され、敵の動きが大きく鈍った。

 次いで魔物の軍勢と肉薄したのは騎士エザ。アジェン達と王子を挟んで反対側から魔物へ仕掛ける。


「おらあっ!」


 騎士に似つかわしくない豪快の声がはっきりと聞こえた。それと共に放たれた剣から、風が生じる。それは突風……いや、それどころではなく、竜巻のような乱気流を発生させ、魔物を飲み込んでいく。

 そして風は刃と化し、魔物達は切り刻まれていく……騎士アジェンの光と比べて殲滅速度は遅いが、風の効果は光魔法よりも持続し、継続して魔物を屠っていく。瞬く間にその数が減り、最前線の戦いにおいて人間側が圧倒的に優勢だった。


 そして、スベン王子は――


「ゆくぞぉ!」


 王子は叫び、突撃を開始。その手には光り輝く黄金の剣。それを掲げると、後衛にいる俺にもわかるくらい、魔力が溢れた。

 刹那、刀身から光が溢れると、周囲の地面が光り始めた。直後『刃の魔人』が影から悪魔を生み出したように、王子の周囲に馬に乗った白銀の騎士が出現する。


「召喚魔法系の類いだな」


 ゲイルが呟く。それと共に、白銀の騎士が突撃を開始した。


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