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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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聖女として

 魔王と戦うための作戦を決める大一番……ルダー砦の戦いは、俺達の運命を大きく左右するようだ。口を固く結び考え込んでいると、騎士エッドはさらに続ける。


「作戦としては、スベン王子が愚直に攻めるのに対し、もう一方は大規模な魔法などを絡めたもの……王子については作戦と言えるか微妙だが、聖女の力と自分達の能力があれば魔王打倒も可能だと考えているようで、騎士団の実力から重臣達も賛同していた」


 どうやらそれは……それはエルーシア王国の内情についてだった。


「しかし魔人の実力から、正攻法は厳しいものであるという意見が大勢を占めるようになった。元々、異変があって聖女フィーナと共に魔人討伐を開始したわけだが、当初はいけると踏んでいた……しかし詳細がわかるにつれ、もう片方の策が良いのでは、と考えるようになった」

「一ついいか?」


 ここでゲイルが小さく手を上げる。


「スベン王子と対抗しているもう片方……誰なんだ?」

「それについては答えられない」

「何でだ?」

「本人の意向だ。なぜそうまでして……と考えるところだが、自分の策が採用されるまでは表に出ないと決めているらしい。それには理由があるみたいだが、詳細はわからない」


 騎士エッドは誰なのかわかっている様子だけど……まあ、本人が語らないのであればそれ以上は何も言えないか。


「次の戦いについての概要は以上だ……聖女フィーナ」

「はい」

「次の戦いはスベン王子が陣頭に立つことになっている。自分の作戦について否定的な意見が出始めたことで、功績を上げようと躍起になっている節がある。少なくとも君を敵視することはないと思うが、極力関わらない方針でいかせてもらう」


 どれだけ警戒しているのか……と思うところだが、それだけ気の遣う話ってことか。俺からは何も言えることがないため沈黙を守り……やがて、作戦会議は終了したのだった。






 それからいくつか戦いについて注意事項を言われた後、解散となった。フィーナとパトリが何か話をする間に騎士エッドは部屋を去り、俺も城からあてがわれた自室へ戻ろうかと考える。

 それと共に、次の戦いについて思いを馳せる。味方同士でいざこざの可能性があるにしても、俺のやれることは一つ……すなわち、フィーナを守り魔王を打倒することだけだ。よって、新たな騎士団が出てきても俺のすべきことは変わらない――


「なあ、ちょっと確認したいんだが」


 ふいにゲイルがフィーナ達へ話しかける。


「以前話し合ったように、今後このメンバーで訓練を一緒にやるってことでいいのか?」

「はい、そのつもりです」


 と、パトリが俺達へ述べる。


「特にアレス様とフィーナ様の連携は、今一度確認すべきです」


 ……俺とフィーナは互いに視線を重ねる。


「お二方はそれこそ、幼馴染みという間柄である以上は息が合うのは間違いないでしょう。ですが、戦闘についてはまだまだ知らないことが多いはずです」

「それを埋めるために……ってわけだな。そこで一つ提案なんだが」


 ゲイルはさらに踏み込んだ物言いをする。何か気になることがあるのか?


「前回、二人は顔を合わせて魔物討伐を行ったわけだし、これから訓練でさらに連携を強化していく、というのは良いわけだが、まだまだ十年という歳月を埋めるには足らないんじゃないかと思う」


 急に何を言い出すのか。正直、戦いとなったら幼馴染みという間柄はあまり重要ではないと思うんだけど――

 と、俺はここで一つ気付く。ゲイルの顔……笑いながら話しているのは確かなのだが、それ以上に、どこか悪戯っぽさを含んでいる。


「よって、気分転換に今日くらいは町を見て回って遊んでこいよ」

「いや、あの……」


 ここでゲイルは突如俺と肩を組むと、フィーナ達に会話を聞かれないよう背を向けさせられる。そして小声で、


「まあまあ、結構強引ではあるけど、デートしてこいよ」

「デ……は!?」

「実際、聖女様と連携するには今の彼女を知ることも重要だ。それは絶対に今後の戦いで役に立つし……何より、彼女の負担を軽くすることも意味している」


 その言葉に俺は沈黙する。何か……彼はフィーナのことを知っているのか?


 ここでゲイルは腕を離し、俺はフィーナへ視線を送った。彼女の方も困惑しているのだが、隣に立っているパトリについては、小さく頭を下げている。俺によろしく、といったところだろうか。

 従者がゲイルの言葉に対しそういう反応をしているということは、彼女もまたこの提案に同意しているということか。それはつまり……何か知っておくべきことがあるのだろうか?


 単なる連携を深めるための提案というだけの話ではなさそう……ここで俺も踏ん切りがつき、


「わかった……フィーナ、いいか?」

「う、うん」


 頷く彼女。こうして唐突ではあるが、俺とフィーナは町へ繰り出すことになった。






 元々俺は『炎の魔人』討伐前からこの町に滞在しているため、店とかも多少は知っているが、フィーナの方が長いだろうし案内は彼女に任せることに。ちなみに今回も彼女は魔法を使って姿を誤魔化しているが、以前との違いはその対象に俺も含まれていることだ。

 原因は……周囲にいる人の声に耳を傾ける。明確に英雄といった単語が聞こえてくる。


「アレスのことが噂されているね」


 フィーナが言う。俺はちょっと困惑したように頭をかき、


「俺がそんな風に言われるとは夢にも思わなかったよ」

「でも、魔人を倒した……犠牲も出さずに倒せたのは、アレスのおかげだよ」

「……そう、だな」


 自覚が全然足りないけど。ともあれ、不思議な力で倒せたにしろ、それを魔人に対して用いたのは俺の意思だ。夢の中で託した女性……あの存在が何を考えているか不明だが、俺は自分の望むままにやらせてもらう。


「さて、フィーナ。大通りを歩いているけど、目的地はあるのか?」

「うん。ちょっとお店を見て回りたいなって」

「お店?」

「立場が立場だから、あんまり外に出ることもなかったからさ、どんな物が流行っているのかとか、知りたいなって」

「……今みたいに姿を誤魔化せばいくらでも見て回れるんじゃないか?」

「もしものことがあったらどうするんだ、と言われて城の人に止められたりしてたから」

「そうか……で、今は良いと」

「アレスのおかげかな」


 俺がいることで、彼女の安全が保証される……というのであれば、俺としては嬉しい。

 聖女という肩書きにより、結構窮屈な生活を強いられているのがわかる。ただ俺の隣を歩く彼女の姿は、決して暗くない。自分の立場を理解しながら、窮屈さも自認しながら、それでもなお人々へ向ける視線は暖かい。自分が、平和を守る一助になっている――そう自負しているから。


「なら、俺はフィーナについて行くよ」

「アレスは行きたい所とか、ないの?」

「特には。だから荷物持ちをやるよ」

「本当に、それでいいの?」

「ああ」

「なら、お願い」

「任されました」


 フィーナは笑う。提案された時とは一転、晴れやかな笑顔だった。

 そこから俺と彼女は店を回る。様々な雑貨が並ぶ店で、城にある自室における小物などをフィーナは買う。さらに露店で偶然見つけたブローチなんてのも手に取る。


 俺はなんとなく「買おうか?」と告げたのだが、フィーナは首を左右に振る。


「これは私の買い物だから、私のお金で買いたい」


 それは少し、決意を伴った言葉だった。自分が得た報酬で何かを買うことに意味がある。そんな風に考えているようだった。

 彼女の姿を見て、俺は今も笑っていると知って良かったと安堵していた。まあこの辺りは余計なお世話かもしれないけど……彼女は聖女として、立場を確保している。


 選ばれた者として背負う覚悟を持ちながら、魔王との戦いに赴く胆力……幼い頃を知る俺からすればとても信じられないが、彼女は成長したのだろう。俺が想像することができないほどに。

 そんな彼女に対し、俺もまた強くならなければいけないだろう……肉体的にも精神的にも。はしゃぐ彼女の姿を見て、俺は決意を新たにしたのだった。

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