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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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英雄の誕生

 敵の目論見は、町の人を利用して俺の動きを制限しようとしている。突然現れた『刃の魔人』に対して、人々は恐れおののいて逃げ惑っている。中には凶悪な存在に腰を抜かす人まで……この混乱は、すぐに収まりそうにない。

 そんな周辺の状況とは裏腹に、俺の頭の中は冷え切り、また同時に沸々と怒りが生まれていた。どんな方法を用いても望むように戦う……これが魔人であり、魔王の配下だということは理解できる。だが、それでもなお……こんな卑怯な手を用いる目の前の存在に、怒りしかなかった。


『どうした?』


 魔人は問い掛けてくるが、俺は無言で魔力を高める。

 何をすればいいのかは完璧に理解できていた。これまで見てきた悪魔の動きと技法、それを頭の中でかみ砕き、自分が持つ技術や魔力に落とし込み、全てを統合して……次の一撃で、決める。


『まあいい、では……始めようか』


 そんなことを言っているが、目線でわかる。俺を狙うと見せかけて近くでへたり込んでいる町の人へ攻撃する。だから俺は……相手が動き出すよりも先に、足を踏み出した。


 ドンッ! と一つ音がした。それが地を蹴った俺の発したものだと気付いたのは、眼前に『刃の魔人』を捉えた時だった。


『何っ!?』


 俺の動きに対し魔人は驚愕。回避しようとしたみたいだが、刹那――


「はああっ!」


 声と共に振り下ろした斬撃は魔人の左肩へ入り……斜めに一閃。見事体を両断した――






『フ……フハハハハハハ!』


 地面に倒れ伏した魔人の哄笑が響き渡る。体を両断されたというのに、その声はこれまでと変わらないものだった。


「……まさか、その状態でまだ戦えるなんて言うんじゃないだろうな」

『さすがにそれは無理だな……そう経たずして消えゆくが……まさか、最後の最後でこのような結末を迎えるとは、思いもしなかった』


 その言葉は、憎たらしいくらい晴れ晴れとしている。


『よもや、自らの技術すらも利用されて……とはいえ、我が命は強者を求めていた。この結末は最初から定められたもの。故に、後悔などない』

「……言いたいことはそれだけか?」

『貴様は、あの御方へ挑むことになるだろう。しかし……あの御方は我が力など見向きもしないほど強い。果たして、その力でも倒せるのか――』


 魔人が消える。残されたのは俺と、犠牲者ゼロの町並み。

 救うことができた……息を大きく吐き、剣を鞘に収めた時、俺に駆け寄ってくる存在が。


「大丈夫かー?」


 どこかのんきな口調のゲイルだった。


「ゲイルさん、そっちは――」

「騎士も勇者も無事だよ。並走しながら斬り合っていたし、間に合うかとハラハラしたんだが、まさか倒しきるとは」


 彼の言葉と同時、多数の騎士や兵士が町の中へ入り込んできた。混乱した事態の収拾を図るのと、他に敵がいないかの確認をするためだろう。

 その中で、俺は……ふと自然を転じれば、フィーナと従者である騎士パトリが近づいてきた。


「……怪我は?」


 彼女の問いに俺は首を左右に振った。


「攻撃も食らっていない。ごめん、心配かけたよな……」

「正直、単独で戦うのは危険だったけれど……やむなく、だったからね。でも、無事で良かった」


 微笑を見せる彼女。それに俺はどう返答しようか迷い……やがて、歓声が聞こえてきた。

 それは聖女であるフィーナを称える声……ではなく、どうやら俺に向けて放たれているようだった。


「……無茶苦茶な形ではあるが」


 と、ゲイルが声を聞きながら俺へ言った。


「町の人々が認めたってことだ……新たな英雄の誕生、ってさ」


 英雄――確かに、俺のやったことは『刃の魔人』を一撃で……とすれば、そんな風に言われるのはおかしくない。

 ただ、魔人を倒せるだけの力を持っていることは、恐怖される可能性もある。場合によっては、力の大きさから疎まれて実害が……と、フィーナが俺へ近寄ってきた。どうしたのかと思っていると、


「絶対に、そんなことはさせないから」

「心を読むなよ……」

「読まなくても、顔に書いてあるよ」


 そこでフィーナは俺から離れ、パトリへ指示を出した。


「私達は城へ。後のことは騎士に任せる、でいいよね?」

「はい」


 従者が頷くと同時、馬を駆る騎士達が慌ただしく動き始めた。人々をとりまとめる兵士の声、英雄の誕生だと騒ぐ町の人、そして騎士と話を始める商人……魔人が出現したのとは異なる形での混沌。そうした中、俺はフィーナの案内に従って城へと向かう。

 国側は俺のことをどうするのか……俺は多くの人の前で魔人を倒した。この噂は瞬く間に広がるだろう。それによる影響は――


「……大丈夫?」


 フィーナが俺に問い掛けてくる。英雄、などと言われてプレッシャーを感じているのかという意図なのだと察し、


「正直、戸惑っているけど……俺の役目は変わらないよ」


 魔王を倒すために国に力を貸す。そして、フィーナを守る……その思いだけは決して変わらない。

 俺のその気持ちを理解したかはわからない。でも、戦うという意思はしっかりと伝わったようで、フィーナは再度笑みを見せる。


「これからよろしく、アレス」

「ああ」


 返答と共に、町の大通りを歩む……こうして、俺の新たな冒険者人生が始まった。






 魔人を打倒した俺の情報は、予想通り町から町へ駆け巡った。名も当然広まり、ゲイルの話によると俺のことを元々知っていた人は、目を丸くして驚いたらしい。


「どういう理屈で強くなったのか、全員が首を傾げていたぞ」


 そんなことをゲイルが言う。ただそれは俺も同意で、


「もし遭遇したらどう説明すればいいんだろうな……?」

「本人もよくわかっていない力だからな。ま、適当に言えばいいんじゃないか?」


 そんな風に言いながら、彼は水を一口飲んだ。


 ――俺とゲイルは今、ゼルシアの町に存在する城に滞在し、食堂で朝食をとっていた。魔人との戦いから数日経過し、その間俺はこの城から一歩も出ていない。

 対するゲイルは情報収集とばかりに率先して城外に出て、色々と動いていた。主な目的は俺の存在をどう評価しているか。現時点では、町の人も冒険者達も好意的に感じているらしい。


「ちなみに『炎の魔人』を倒した……というか、聖女様と共に倒したっていうのも噂で広まっているぞ」

「……誰が喋ったんだ?」

「わからん。あ、俺じゃないからな。ここについてはたぶん、事実を知る王室側が意図的に情報を流したんだろ。次の戦いでも聖女様と組ませたいと」


 なるほど……俺はここで、ゲイルへ質問する。


「確認だけど、ゲイルさん。俺がフィーナと幼馴染みってところは……」

「少なくとも情報を漁っても出てこないな。でもまあ、時間の問題だろ」

「そこが知られたら厄介かもしれないけど……」

「そうか? ま、他ならぬ聖女様自身が動いているし、なおかつ王室側もかなり好意的に見ている。問題はないだろ」

「王室としては、俺の能力は不気味だろうけど……」

「あんまりそういう話は出てこないな」

「本当か?」

「たぶん聖女様も同じ事を言うと思うけど、考えすぎじゃないか?」


 そうだろうか……? ただまあ、不安がっていても始まらないのは確かかな。


「ちなみに俺は城内から出ていないけど……大丈夫そうか?」

「あー、魔人を倒した目撃者は多いし、町に出たら出たで騒がれるかもしれないな」


 マジか……受け答えとかできなさそうだし、とりあえず今は城の中に留まっていようか。

 そんなことを考えていた時、俺達の席に近づいてくる人が。そちらに目を向けると、見覚えのある人物だった。


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