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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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二つの刃

『周囲を気にしているようだな? 安心しろ、我が剣は貴様以外を狙いはしない。それは貴様に対しても失礼だからな』


 思わぬ『刃の魔人』からの言葉。まるで騎士道に反しているという風な言い方。先ほどフィーナを戦場に縛り付けるために勇者達を人質にしていたのだから、無茶苦茶な論理である。

 だが、それこそが魔人なのだろうと俺は無理矢理納得した。力により思い通りに戦い、思うがまま戦況を支配する。それは戦場でも同じということだ。


 ただその発言自体は助かった。正直、周囲を気にしている余裕はない。もし相手が他の誰かに狙いを定めるなら、俺は相当キツい戦いを強いられるはずだ。一騎打ちならば勝機はある……かどうかはわからないけど、まずは攻撃を当てられるようにしなければ。

 俺は必死に頭を働かせる。敵が剣にまとっている風圧によってこちらの攻撃が阻まれている。ということは、強引に風を押しのけるのか、剣で受けるような暇さえ与えず、体に剣戟を叩き込むか――


『ふむ……』


 その時、どうやら『刃の魔人』は俺の目を見て何を考えているのか察したらしい。全身に風をまとわせ始めた。


『これでいいか?』


 ……視線だけで考えがわかるほどの洞察力。さらに即座に対策が打てるほどの応用力。加え、一撃でやられるとわかっていてなお向かってくる胆力と、技術。

 全ての能力において、俺よりも圧倒的に上なのは間違いない。むしろ俺が勝てる要素は突然得た魔力だけ……普通なら魔人が人間を圧倒的に上回るであろう、力のみ勝っている状況。


 ではどうするのか。全身を風で保護している以上、剣筋はどうやっても変えられるが……魔力を引き出し、押しのける風ごと両断するしかなさそうだ。

 よって魔力をさらに高める。温存する余裕などない。あらん限りの力で、魔人に剣を当てる――!!


「いいぞ、人間……ああ、そういえば名を聞いていなかったか」

「……アレス=レーディン」

『その名、しかと胸に刻んでおこう』


 同時、俺は駆け『刃の魔人』は迎え撃つ構えを見せた。まずは全力を込めた剣戟。それを魔人は――風をさらに強くしながら剣で受けた。

 耳に突風が生じた時のようなゴオオ、という音が入ってくる。刃が止まり、それ以上進まない。


 ここで一つ気付いた。俺は現在、剣に魔力を注ぐことで敵を斬っている。だが例えば両腕……膂力を強化する魔力にそれほど回しているわけじゃない。

 であれば、体を強化して純粋な力で相手を上回れば……俺は魔人を見据える。圧倒的な巨体と筋肉。これは見せかけなどでは絶対にないだろう。これを上回るだけの力を出せるのか?


 疑問はあったが――やるしかない!


「おおおっ!」


 剣だけではなく、腕全体に魔力を込めて一閃した。すると相手の剣を押し込むことに成功する。どうにかこのままいけないか――


『無駄だ』


 相手の剣がすり抜けた。そればかりでなく、体を傾けて俺の剣を回避し、あまつさえ反撃に転じた。

 それをこちらは剣を盾にして防ぐ。魔人も無理はせず剣を引き戻し――そこで俺は反撃に転じた。しかし大振りの剣は魔人を捉え損なう。


 ならばと魔人が剣を差し向ける。狙いは首元であり――それは一瞬で攻防が反転するような戦いだった。ただ現状、攻撃を当てられる気がしない。

 両腕に魔力を集め、渾身の一撃を見舞っても『刃の魔人』は容易く回避する。相手は俺の魔力の流れを読み、力を高めていることを察知し、なおかつ剣の軌道を読んで受け流している。これは明確に技術の差だ。俺が魔力の流れや動きを読まれないよう立ち回れるのがいいのだが、そんな技術は持ち合わせていない。


 なおかつ、魔力を体に叩き込んだことでわかったことは、強化によって物理的な力が増しても、剣の切れ味が増すほどの効果はない……もっとこの不可思議な魔力のことを解明できれば解決できるかもしれないが、今の俺では厳しい。

 技術で上をいかれていることの弊害……今俺は、相手に動きの全てを読まれている。一撃入れることができたら勝ちかもしれないが、それが果てしなく遠い……!


 ただ、相手も決定打に欠けている。隙を見せられないようにするためか、深入りしてこない。魔人と互角の戦況に持ち込めているのは幸運だがこのままでは長期戦になる。そうなった場合、俺の体力や魔力はどこまでもつか――


『状況は理解したようだな』


 魔人が告げる。俺の動き方や剣の振り方で、こちらの心情を読んでいる……!


『ならば、改めて始めよう……どう動く?』


 魔人は攻め込んだ。こちらはそれを剣で受け、風が周囲に吹きすさぶ。


 ただ、時間を稼げばこちらの味方が……刹那、魔人の影から新たな悪魔が飛び出した。周囲の人間を食い止める気だと確信した矢先、援軍に来た騎士達が交戦を開始した。

 それで倒せるのであれば良かったが、悪魔はそれまで以上に、大量に出現する。まだ倒れている騎士の姿もあり、フィーナ達はそちらの対応を余儀なくされる。


 俺はここで『刃の魔人』の目論見を理解する。周囲の状況が良くなれば当然、フィーナを始め援護が入る。しかし魔人としては俺との一騎打ちを楽しみたい。その上で、俺を攻め立て、魔力を一気に消費させて体力を削る……まさしく傲慢。全てを望むがままにしようとする魔人の戦術だった。


 俺としては、さすがに相手に乗せられ続けるわけにはいかない……! 魔人と切り結びながら必死に思考する。早急に決断しなければいけない。短期戦か長期戦か。前者はそもそも技術的に厳しいし、後者は完全な未知数。果たしてどちらが正解なのか。


(なら、色々と応用が効くよ。例えば――)


 その時、フィーナとの会話が思い起こされた。魔力の収束……例えば両足に魔力を集めるのは、魔人が全身に風をまとわせている以上、背後をとっても意味がないため却下。

 なら……俺は頭部に魔力を集めた。その行為自体に明確な根拠はなかったが、現状を打開するきっかけになればいいという判断だった。


 そしてそれは――予想以上の結果がもたらされた。


「これは……!」


 思わず呟いていた。俺は『刃の魔人』から放たれる剣の軌道を、完璧に見極めることができた……いや、言い方が少し違う。相手の魔力の流れを察知し、どういう動きをするのか感覚的に理解できた。

 それと共に魔人の剣術についてもおぼろげながら理解できる……体のどの部位に魔力を集め、どういう動かし方をするのか――途端、剣が迫る。だがそれを俺はまず、防ぎきった。しかもそれは、今までとは違う。明確に魔人が放つ斬撃を読んだ上での行動だった。


 当然、この変化は『刃の魔人』にも伝わる……俺の動きを見て即座に魔人は判断が速かった。即座に俺から距離を置き、間合いの外へ脱した。


『面白い……その魔力、よほど特殊なものであるらしいな』


 俺は返答せず、黙ったまま剣を構える。現状、普通にやって剣を当てることは不可能。しかし動きを見極められるのであれば、もしかしたら……頭部にある魔力を維持しつつ、少しずつ両腕や刀身へも魔力を注ぐ。違う場所に魔力を送るというのはかなり大変な技術だが、これができなければ魔人を倒すことはできない……!


『こちらが望む展開にはならんか。このまま戦いを進めればどうなるか……』


 悪魔は援軍の騎士達によって、そして何よりフィーナ達によって倒されていく。新たに生成してさらに時間を稼ぐか……いや、さらに援軍が来ればフィーナだって自由に動けるようになる。そうなったら『刃の魔人』は、


『ならば、こうするしかあるまいな』


 魔人が動く。その気配は、明らかに俺とは違うものを狙っている……周囲にいる、騎士か!

 俺以外を狙わないなどという言葉を撤回し、周囲を狙う素振りを見せることで、隙を生む作戦だ。


 内心で、俺は怒りを滲ませながら……冷静になれと呟き、俺は魔人の動きに追随した。

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