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彼方の剣~最弱無能の冒険者が幼馴染みの聖女を助けるため命を懸けたら、突然最強になった~  作者: 陽山純樹
第一章

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勇者と騎士

 戦闘狂――その異名の通り『刃の魔人』はフィーナだけでなく勇者や騎士も標的とした。

 魔人は一度後退して……直後、足下の地面に黒い染みが出現する。次いでそこから人の形をした何かがせり上がってくる。


 それは剣を握る人と同等の背丈を持つ悪魔……ひとまず配下を使って試す、ということか。


『どうした? 早く攻めねば町を襲うぞ?』


 悪魔は際限なく出現し、途端に十数体も生まれる。なおかつ影からはまだまだ悪魔が出現し――そこで先んじて動いたのは、勇者オルトだった。


「俺に続け!」


 仲間に告げると同時、手近にいた悪魔へ剣を放った。彼の一撃に対し敵は剣で防いだが――その剣ごと、体を両断する。


『ほう?』


 魔人が感嘆の声を発した直後、オルトの仲間達が取り巻きの悪魔を一気に減らし始めた。戦士が斬撃で敵を一刀両断し、魔法使いの雷撃複数の悪魔を撃ち抜いた。しかもその動きは他の悪魔の介入を許さない、隙がまったくない息の合った攻撃だった。


 ――オルト達の真価は、その連携能力だ。個々の戦力が高いのも当然だが、仲間全員が理路整然かつ、完璧な動きで敵を取り囲み倒していく……集団戦についてもその力は遺憾なく発揮され、パーティー単位での戦闘において、このエルーシア王国で右に出る勇者はいない……だからこそ『炎の魔人』との戦いに参加したのだ。


 そして今回は、仲間が勇者オルトの援護を行う布陣だった。オルトが真っ直ぐ魔人へと接近していく。障害となる他の悪魔については、立ち塞がる個体はオルトが瞬殺。そして横手から攻撃しようとする敵は、速やかに仲間の戦士や魔法使いが対処する。


 完璧な連携で『刃の魔人』へ接近しようとする――それに対し、騎士アジェンもまた動き始めた。魔人は騎士の人数が多いため配下の悪魔をそちらへ多く振り分けたのだが……アジェン率いる騎士達は、二人一組となり悪魔を撃滅していく。

 そして当の騎士アジェンは……握りしめる剣が輝き、一閃した。それは白い光を伴って大気を切り裂き、複数体の魔物を同時に両断した。


『そちらも素晴らしいな』


 感嘆の声が魔人から漏れる。どうやら騎士アジェンの力は勇者オルトよりも上か。その力の源は――


「あの黄金の鎧、相当な武具だな」


 横にいるゲイルが、俺に向けそう評した。


「鎧によってアジェン自身の魔力を増幅させている。それによって、悪魔を瞬殺できる」


 その姿はまさしく一騎当千……魔人を倒すために呼ばれたのも理解できるだけの力量がある。

 オルトが仲間の連携と技術で戦っているとすれば、騎士アジェンは本来の力と、武具により増幅された極まった能力。それは配下の騎士達も同じようで、武具の力を存分に発揮し、悪魔を倒し続ける。


『ふむ、勇者と騎士……戦法や能力の成り立ちは違えど、悪魔を易々と倒せるだけの力を持っているようだな』


 戦いぶりを目の当たりにして『刃の魔人』は呟く……短時間で悪魔の大半は滅び、魔人を取り巻いている個体しか残っていない状況。本来なら慌てふためいてもおかしくないが、魔人は悠長に構えている。

 一方で魔人が本来狙いを定めていたフィーナは動いていない。彼女は最初、勇者オルトが動いた直後に足を踏み出そうとした。けれど、それを傍らにいたパトリが止めたのだ。


 理由は……俺はパトリを見る。戦いは明らかに優勢だが、それでもフィーナを止めたのは、先の戦いのことを思い返しているためだろう。圧倒的な力を『炎の魔人』が示した以上、目の前にいる『刃の魔人』も同様の力を持っていると推測し、様子を窺うことを推奨したわけだ。

 もしそうであれば余裕な態度を見せているのも納得できる……同等の力を持っているなら、騎士アジェンや勇者オルトにとっては危険だが、例えフィーナが呼びかけても退いたりはしないだろう。よって、今は彼らが勝利するのを信じるしか――


『先ほど、会話をしていたな』


 オルトがいよいよ『刃の魔人』へ迫る直前、相手から声が聞こえた。


『勇者オルト、貴様は我が同胞を前にして逃げ出したと』


 言われてもオルトは何も語らなかったが……魔力を噴出した。同じ轍は踏まないと、なおかつお前には勝つという明確な意思表示だった。


『戦意はあるようだな、上々だ……とはいえ、それは無理もない話だ。我らは陛下より力を賜った。それにより炎の同胞は、貴様ら人間が想定することすらできないほどの力を手にした』


 語る間にもオルトが迫り、残る悪魔を滅する。一方で魔人は一歩も動かない。


『だが、力だけでは聖女に勝てなかった』


 実際には俺が倒したわけだが……ここでオルトに続き、騎士アジェンもまた『刃の魔人』へ接近しようとしていた。


『ならば、どうすべきか……答えは我が剣だ。陛下より賜った力は、炎の同胞と比べ人が圧するほどではない。単純に力を高めただけで、人間に勝とうなど、甘く見すぎだ』


 元人間だからなのか、どうやら『刃の魔人』は人というものを評価している。


『だからこそ、得た力は……人を遙かに凌駕する、技術を極めることに利用した』


 語る間にとうとう悪魔が全て消え失せ、オルトの剣が魔人の体へ一閃された――その矢先のことだった。

 驚くべき速度で『刃の魔人』が剣を薙ぎ、オルトの剣を弾いてみせる。彼は一瞬動きを止めたが、怖じ気づくことなく二撃目を放とうとした。


 さらに魔人の横手からアジェンが迫る。そして両者が剣を放ったのは、まったくの同時。オルトが真正面でアジェンが横。剣の速度も鋭さも、間違いなくこの戦いにおいて最高。倒すことはできなくとも、傷を入れることはできるか――


『その力を、今聖女に示そう』


 魔人の言葉は、まるで――最初から勇者と騎士など眼中にないかのようだった。


 刃がまさに入ろうとした瞬間、魔人が剣を振るった。途端、これまで以上の甲高い金属音が生まれ……いとも容易く、オルトとアジェンの剣が弾かれていた。

 しかもそれは力によるゴリ押しなどではないようだ……オルト達が何が起こったのか理解できず、剣を振り抜いた姿勢で一瞬固まるほど。魔人の動きには淀みがなく、あまりに洗練された防御。


「くっ!」


 オルトが声を上げながら再び一閃する。アジェンが一歩遅れて渾身の一撃を見舞うが……それを『刃の魔人』事もなげに弾き返し、あまつさえ反撃を繰り出そうとした。

 瞬きする暇さえない、とても短い攻防。力を得る前なら何が起こっているのかすらわからなかっただろうけど、今の俺なら完璧に理解できた。


 目前で行われる戦いは、まさしく一方的だった。オルトもアジェンも、その剣閃は達人級であり、魔族相手でも技術ならば対抗できると自負していたはずだが――そんな推測がもろくも崩れ去るような、圧倒的な技術で『刃の魔人』は二人の剣を受け流し、反撃に転じた。

 二人へ叩き込まれたのは刃ではなかった。魔人が握る剣が振り抜かれることによって生じる、魔力による衝撃波。直後、二人の体は吹き飛び、地面に叩きつけられた。


「っ……!!」


 小さな声を上げ倒れ伏すオルト。アジェンもまた盛大な音を上げ地面に激突。両者は動きを止めた。


「お前……!」


 オルトの仲間達が攻め立てようとする。だが、それよりも先に『刃の魔人』は剣を振った。先ほどと同様に魔力……それはオルトの仲間達を正確に射貫いた。


「がっ……!?」


 一番前に立っていた戦士が一番吹き飛び、地面に転がる。勇者に付き従う他の仲間もまた同様に吹き飛び、地面に倒れ動かなくなる。

 加え、アジェンの配下達も同様の結末を迎える……彼らはアジェンが倒れてなお戦おうとしたが、それを魔人は剣を豪快に振って対処した。今度は衝撃波ではなく、剣風――風の刃とも言うべき攻撃。騎士達はそれに撃ち抜かれて倒れ伏した。


 ただ、俺とゲイル、さらにフィーナとパトリ……四人だけは、攻撃を回避した。魔力の流れを読み、剣を用いて防ぎきった。相手の攻撃は対応できる……そう認識した矢先倒れた人達を無視し、魔人はフィーナへ視線を送った。


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