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06 疑惑

 休日が明けて屋敷から学園へ登校した。


 シャロンは休日以外は、学園の敷地内にある寮から通っている。部屋は広く大きくて風呂は完備され快適だ。


 メイドは連れて行けないので、身の周りのことはたいてい自分で出来るようになった。



 魔法学園は自由平等をうたっているがその実身分差は歴然で、寮は爵位や財力ごとにプラチナ、ゴールド、シルバーの三つに分かれている。もちろん侯爵家の人間であるシャロンはプラチナの女子寮にいた。


 食堂にも暗黙の了解があり、王族や貴族の利用する高級食堂と、下級貴族や庶民が利用することの多い地下食堂に分かれている。


 これは単純に学園への寄付金の差でもあった。つまり寄付金さえ多く収めていれば、大手を振って高級食堂に入れる。ある意味厳しい身分制度と資本主義が両立している場所だ。どの世界でも金がものをいうのだろう。



 それにしても王子との不幸な事故があった日は深夜の帰宅と証拠隠滅処理が長引いてほとんど寝る時間もなく、昨日は数少ない思い出とともに自分の初恋を(とむら)っていたので、睡眠が充分とはいえない。


 眠気にぼうっとしながら、学舎に向かっているといきなり茂みから腕がにゅっと出てきて引きずり込まれた。びっくりして叫び声をあげると、


「シャロン、静かにしてくれ、私だ」


 そこにいたのはユリウスだった。なお更怖い。


「殿下、どうしたのですか? また薬でも盛られたのですか? 今度は私以外の相手でお願いします!」


 手近だからと言って連れ込まないでほしい。やはり一度してしまうとこういうことになるのね。


 逃げようとするがどうにもこうにも腕をがっしりと掴まれて逃げられない。


「違う、誤解だ。そうではない。話したいことがあるだけだ」

「それならば、こんな人気のないところに引きずり込まないでください普通に怖いです! それから逃げませんから手を放してください!」


 とりあえずしっかり抗議だけはしておいた。ついでに手も放してくれたので距離をとるとユリウスが珍しく苦笑した。


 はっきり言って彼が怖いという思いもあるが、それ以上に魅力的に感じる。金髪で切れ長のサファイヤブルーの瞳にすっと通った鼻筋、形の良い唇。さすがメインヒーローだ。気を抜くと見惚れてしまいそうになる。ここは気をしっかり持たなければならない。


「それで、お話とは」

「先日は私も余裕がなかったから、大切なことを確認していなかったが、お前はどうしてあのサンドウィッチに毒が入っていると言ったのだ?」


 ここは慎重に答えなければならない。


「それは、実は私には未来視の力がありまして、殿下がサンドウィッチに毒を盛られる夢を見たんです。あの状況がその夢にそっくりだったので、嫌な予感がして止めに行きました」


「……」


 ユリウスが何も言わず彫像のように黙り込んでしまった。ちょっと怖い。


「あの、殿下?」

 探るように声をかける。


「貴様は私を謀っているのか!」


 ガチギレするユリウスにシャロンは後退りした。昨日はいい思い付きだと思っていたのに、これは処刑を早めたのかもしれないと青くなる。


 おかしい。乙女ゲームうんぬんの説明よりずっとましなはずだ。


「ひどいです。殿下、嘘をついて私になんのメリットがあるというのです」

「たとえばだが、ソレイユ侯爵が仕組んだとか……」


 ユリウスのその言葉を聞いた瞬間、体がすっと冷えた。父をけなされるのはゆるせない。父のダリルはそのような卑怯な真似をする人間ではない。


「まず薬を盛って私にメリットがあるのか考えて頂きたかったのですが、殿下がそういうお考えでいらっしゃるなら、私は今すぐに家に戻り父に相談したいと思います」


 ことは一人では片付けられない。家族で一丸となってこの国の第二王子と戦わねば。


「ちょっと待ってくれ、例えばの話だ。本気で疑っているわけではない。可能性として挙げたまでだ。昨夜、母から聞いたのだが、婚約の申し込みを取り下げたんだって?」


 さすが父だ仕事が早い。週末に家に帰ったら、いっぱい褒めてあげよう。


「もちろんです!」

 シャロンは胸を張って答える。


「それはお前の意志で?」

「父の意志でもあります!」


 ダリルを疑われたくないので、きっぱりと言うと、王子は驚いたように目を見開いた。


「ソレイユ卿に私たちが関係をもったことをいったのか?」

「いっていませんし、なぜ、そういう話になるのです。それに殿下と私の間にはもともと何もありませんから!」


 そこは一歩も譲らない。


「なら、どうしてそんなに急に取り下げになったんだ!」


 王子が不快そうに眉根を寄せる。もしかして馬車から蹴りおとしたことを根に持って難癖をつけにきたのだろうか?


「それは、あまりにも長く申し込みを放置されていたので、お父様も頭にきていたようで」

「え?」


「婚約を申し込んだのは半年以上前なのになしのつぶてだと怒っていました」


 シャロンはきっぱりと言い放つ。


「そうだったのか?」

「ご存じなかったのですか?」

「通常私にはどこから釣書が届いたかなど知らされない。知らされるのは王家が重要だと判断したものだけだ」


「…………ああ、そういう……」


 あまりに失礼過ぎる。ソレイユ侯爵家はこの国の名門貴族だ。それをここまで蔑ろにするとは。王家のこの扱いはなかなかひどい。


 しかも一年後にはありもしない冤罪を一家に押し付けるなど言語道断。

 シャロンがかっかしているとユリウスが宥めるように言う。


「だから、重要かどうかは私が判断するわけではない」

「王妃陛下ですか?」

「まあ、私の縁談に関してはそういうことになる。だが、知っていたら、受けていた」


 そんな「たられば」話はどうでもいい。後からならばどうとでもいえる。


 もしあの時、慌てていて冷静な判断など出来そうにない王子からの婚約を承諾していたら、今頃、媚薬を盛った犯人として疑惑の目で見られていただろう。


 その後責任を取ってシャロンと婚約。一年後にはありもしない証拠を揃えて断罪。おそらく避妊薬もシャロンが思いついていなければ、ユリウスが思いついていたはず。


 よかったとほっと胸をなでおろす。


誤字脱字報告ありがとうございます。

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